後日談 再来
「あ。そうだ! お兄――」
ニコが何か言いかけた時、背後から馬の嘶きが聞こえた。
しかも何故かこちらに近づいてきている……?
意味が解らんが、その馬の観察を行った。
馬の毛は黒。
馬上には黒髪を優雅に結い上げた、金の刺繍の施された赤のドレスを身にまとった女。
その女は実に女らしく座り、男らしく馬を駆りたて、墓地の塀を飛び越え。
顔が目視できるほどまでやってきた。
「っ……ぬか喜びさせやがってこのクソがっ!」
女は低く吐き捨て、鼻で笑う。
「踏みつぶせヴィヴィアンフローゼっ!!」
ぐおっと馬の巨体が傾き、俺の頭上へ……って、オイ!!
なにやらかそうとしてんだ?!
ニコ、ニコが!!
って。
居ねぇしっ……!!
どこ行った?
と思ったら、遠く離れたところから――――
「ごめんねーお兄様ーー! それの相手おねがーい!」
そう叫んだ。
でもって、ニコの隣に母さんと父さんが。
……さて。
いつの間に移動したんだろうなぁ……。
――――じゃなくて!
このままじゃやべぇっ!
――――ドゴッ……。
馬の足は俺にあたることなく、地面に着地した。
もちろん。
俺が横にずれて躱したから、あたらなかったんだが……。
たくっ。
なんだこの女は!
頭ん中ぶっ飛びすぎだろ?!
「チッ……避けてんじゃねぇよ…………!」
またも低く吐き捨てた。
かと思ったら今度は馬の後ろ足が正面に――ってマジかよっ?!
――――ゴッ……!
「っ、う……そんなの、あり……か、よ…………」
なんで馬が何の指示もなしに後ろ向いて蹴りなんて繰り出すんだよ!
おかしいだろ?!
なぁ、おかしいよな?
だってこの女、何の指示も出してなかったぞ?!
てか。
尋常じゃないほどに痛いんだが……。
骨、ぜってぇ折れてる……。
つか、内臓めちゃくちゃなんじゃねぇ?
ついつい吐き出したの、血だったんだが……?
「っ……?! シルヴィオ!!」
すっきりとした顔で現れたウェルが血相を変え、術を発動。
おかけで少し楽になった。
「何があったのですっ?!」
「馬に蹴られた……」
「え? 馬……?」
きょとんとして馬の足元から徐々に上を見て行くウェル。
そんなウェルだが、馬上の女を見て目を見開いた。
「なんという、こと……」
震える声で言ったかと思ったら、絶句した。
しかし、術が乱れだり途切れたりしない所はさすがとしか言いようがない。
「おい、ウェル? どうした?」
「あぁ?! 『どうした?』じゃねぇだろ……? なぁ……親友?」
ドスの利いた声で言ったのはもちろん馬上の女。
訳が分からず女を見上げた。
そこで気がついた。
女の瞳がトルコ石の様なものだということに。
そして。
女の口調と、『親友』という言葉。
それだけでなく。
馬を自在に操るだけでなく、意思疎通を難なくこなせる者は……ただ一人。
「まさか、お前…………ルファネス……?」
「ふん! 遅ぇんだよ。馬鹿ロイド」
女――いや、ルファネスはそう言いつつ、馬上から降りて腕を組んだ。
だけでなく、見下してきた……。
嗚呼。
これは間違いなく、あのバカ王だ……。
俺はそれを確信すると同時にドッと疲れを感じた。
読んで下さり、誠にありがとうございます。
馬の名前は何んとなく出てきたもの。
所詮テキトーです(笑)




