後日談 親子
まぁ、あの様子では仕方ないだろう。
まったく。
あいつら、本当に学習しないよな……。
と言うより。
何度、消滅させられかければ気が済むのだろうな……。
いや。
おそらく消されても学習しないだろう。
…………学習するのなら、何百年と立たずにしているはずだ。
そう考えつつ。
立っていることに疲れたので、父さんの墓前の前にしゃがみこんだ。
――――パタパタ
小さな足音が聞こえた。
俺はなんとなく。
本当に何気なく、その様子を探った。
その時だ。
突如として駆け出した子に対し、『走ったら危ないわ!』と静止を促す母親らしき者の声と共に、軽く走りだし。
そんな母親の隣では夫らしき男も駆け出した幼い娘と嫁に対し、激しく狼狽え、その男も走り出した。
嗚呼。
何百年と昔。
何かを見つけるとそれに駆け寄る幼いニコと、それを心配し走り出す母さん。
そして。
そんな二人の心配をして狼狽える父さん。
呆れ顔でゆっくりと歩きつつ、後を追う執事のノエルさん。
この家族にはそんな執事はいないが、それを除いても、似た様な家族もいるものだな。
彼らは、いつ戻って来るのだろうか?
記憶は残っているのだろうか?
俺を覚えてくれているだろうか?
『転生と共に記憶は失われる。それが理』
……そう、アルティファス達は言っていた。
『理を破ることは、常人に対して酷だ』
ラルフォードがそう言い、ダンドルディックが頷いていた。
…………どうでも良い事だが、アイツ。
ダンドルディックなんだが、俺の前だと必要なこと以外。
口開かねぇんだよな……。
何考えてんのか分かんねぇっての……。
――――トン……。
背中にぶつかってきた小さく、暖かいぬくもり。
それは、しゃがみこんだ俺の首に抱き着いてきた。
…………って。
「え………………?」
……なんで抱き着かれた?
て言うか。
首が締まって苦しいのだが…………。
とりあえず。
この手を引きはがすのが先だな……。
…………さて。
どうやって引きはがせば良いのだろうか?
さすがに乱暴には出来ないし、困った……。
「ひっ……くっ、ぉ、にぃさま…………っ」
小さく聞こえた嗚咽交じりの涙声。
それを発したのは、もちろん俺の首を絞めている小さな腕の持ち主。
だが。
そんなこと、『常人にはしない』とアルティファスは言っていた。
おまけに。
『ウェルは下界に突き落としたままにするためだよ? 当たり前じゃん!』
そう嬉々としていっていた事は、ウェルには言っていない。
感謝しろよ、アルティファス……。
……あぁ。
あまりの事につい、現実逃避してしまった……。
さて。
現実から目をそらすのは辞めるとして。
問題は俺の首を締め上げる小さな少女だ。
そして、俺を『お兄様』と呼ぶのは、ただ一人――――だが、本当にそうだろうか?
赤の他人と間違えていることもあるだろう?
でも。
まさか……。
「に……こ…………?」
恐る恐る訪ねた。
すると、首を絞めていた腕が緩み。
外れた。
だからつい、慌てて振り向いた。
後ろに立っていたのは、シンプルな黒のワンピースの上に、裾が白の黒いケープ。
そのケーブについているフードをかぶっている。
それらを纏った少女は俯いており、フードの隙間からは、緩く波打つ長い黒髪がはみ出していた。
だが。
これだけでは自身は無い。
なのでまた、声をかけた。
「もしかして、ニコ、ラ…………?」
この問いかけに少女はコクリと頷き、顔を上げた。
そのおかげで見えた、桃とも紅ともいえない淡い赤の瞳。
泣きながらも、嬉しそうな顔。
小さな唇が嬉しそうに持ち上がり、口を開いた。
「今はニコナだよ、お兄様」
そう言ったニコは、とても嬉しそうに笑って、頬を伝う涙をぬぐった。




