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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
182/185

後日談 親子

 まぁ、あの様子では仕方ないだろう。

 まったく。

 あいつら、本当に学習しないよな……。

 と言うより。

 何度、消滅させられかければ気が済むのだろうな……。 

 いや。

 おそらく消されても学習しないだろう。

 …………学習するのなら、何百年と立たずにしているはずだ。

 そう考えつつ。

 立っていることに疲れたので、父さんの墓前の前にしゃがみこんだ。

 


 ――――パタパタ


 小さな足音が聞こえた。

 俺はなんとなく。

 本当に何気なく、その様子を探った。

 その時だ。

 突如として駆け出した子に対し、『走ったら危ないわ!』と静止を促す母親らしき者の声と共に、軽く走りだし。

 そんな母親の隣では夫らしき男も駆け出した幼い娘と嫁に対し、激しく狼狽え、その男も走り出した。


 嗚呼。

 何百年と昔。

 何かを見つけるとそれに駆け寄る幼いニコと、それを心配し走り出す母さん。

 そして。

 そんな二人の心配をして狼狽える父さん。 

 呆れ顔でゆっくりと歩きつつ、後を追う執事のノエルさん。

 この家族にはそんな執事はいないが、それを除いても、似た様な家族もいるものだな。


 彼らは、いつ戻って来るのだろうか? 

 記憶は残っているのだろうか?

 俺を覚えてくれているだろうか?

 

『転生と共に記憶は失われる。それが理』


 ……そう、アルティファス達は言っていた。


『理を破ることは、常人に対して酷だ』

 

 ラルフォードがそう言い、ダンドルディックが頷いていた。

 …………どうでも良い事だが、アイツ。

 ダンドルディックなんだが、俺の前だと必要なこと以外。

 口開かねぇんだよな……。

 何考えてんのか分かんねぇっての……。


 ――――トン……。


 背中にぶつかってきた小さく、暖かいぬくもり。

 それは、しゃがみこんだ俺の首に抱き着いてきた。

 …………って。


「え………………?」  


 ……なんで抱き着かれた?

 て言うか。

 首が締まって苦しいのだが…………。

 とりあえず。

 この手を引きはがすのが先だな……。

 …………さて。

 どうやって引きはがせば良いのだろうか?

 さすがに乱暴には出来ないし、困った……。


「ひっ……くっ、ぉ、にぃさま…………っ」


 小さく聞こえた嗚咽交じりの涙声。

 それを発したのは、もちろん俺の首を絞めている小さな腕の持ち主。

 だが。

 そんなこと、『常人にはしない』とアルティファスは言っていた。

 おまけに。 

『ウェルは下界に突き落としたままにするためだよ? 当たり前じゃん!』

 そう嬉々としていっていた事は、ウェルには言っていない。

 感謝しろよ、アルティファス……。

 ……あぁ。

 あまりの事につい、現実逃避してしまった……。

 さて。

 現実から目をそらすのは辞めるとして。

 問題は俺の首を締め上げる小さな少女だ。

 そして、俺を『お兄様』と呼ぶのは、ただ一人――――だが、本当にそうだろうか?

 赤の他人と間違えていることもあるだろう?

 でも。

 まさか……。


「に……こ…………?」


 恐る恐る訪ねた。

 すると、首を絞めていた腕が緩み。

 外れた。

 だからつい、慌てて振り向いた。

 後ろに立っていたのは、シンプルな黒のワンピースの上に、裾が白の黒いケープ。

 そのケーブについているフードをかぶっている。

 それらを纏った少女は俯いており、フードの隙間からは、緩く波打つ長い黒髪がはみ出していた。

 

 だが。

 これだけでは自身は無い。

 なのでまた、声をかけた。  


「もしかして、ニコ、ラ…………?」


 この問いかけに少女はコクリと頷き、顔を上げた。

 そのおかげで見えた、桃とも紅ともいえない淡い赤の瞳。

 泣きながらも、嬉しそうな顔。

 小さな唇が嬉しそうに持ち上がり、口を開いた。


「今はニコナだよ、お兄様」


 そう言ったニコは、とても嬉しそうに笑って、頬を伝う涙をぬぐった。

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