後日談 めり
ふと、手向ける花すら持ってきていない事に気づき、やってしまったと苦笑して、父さんの墓前に膝をついた。
「すみません、父さん。花を買ってくるのを忘れてしまいました」
そう言って、フッと。
母さんならきっと『気にしないでいいのよ。あなたに会えたのが嬉しいの』と言って、あの笑顔を見せるのだろうな。
いつも、そう言っていたから……。
彼らが存命の時は、時間を見て。
たまに会いに行っていた。
まぁ、主に。
仕事仕事とうるさいダルガロから逃げて、なのだがな……。
そのせいもあって、手ぶらで訪れることもあった。
これに気づき、慌てて玄関先から立ち去ろうとすると、いつもニコラに見つかったものだ。
そんなあの子も年を取り、逝ってしまったが……。
あぁ。
そう言えば、ニコに会いに行かずに国を出てしまった…………。
あの子の事だ。
きっとあちらで、拗ねていることだろう。
だが。
そうなるとリディが泣きついてくるはず。
なのに、それが来ていない。
これはどういうことだ……?
ニコはリディ。
つまりは【創世の異形】と呼ばれる四番目、リティエルの【特別】。
『兎の異形は世界にただ一人だけ。それが死んだらそれが転生するまで生まれない。だからニコラはリティの【特別】』
そう、アルティファスが言っていた。
だから以前。
ノエルが描いたニコラの絵を見つけ、それをエドレイに寄付した時。
酷く拗ねて口も利かなかったと聞いた。
この時。
アルティファスも泣きついて来たが、ノーカウントだ。
あぁ、ヤバイ。
あのバカの事を考えたら――――
「はぁい! シルヴィオ、呼んだ? ねぇ、呼んだ? 呼んだよね!」
…………なにやら幻聴が……。
とうとう耳に寿命が来たか?
いや、頭のどこかだろうか?
「ちょっとぉアルぅ~、置いてかないでよぉ~!」
あぁ。
頭の逝かれた人格破綻者の声まで…………。
やはり俺の耳がおかしいのだろうな。
何百生きてるか忘れたが、酷使し過ぎたのだろう。
特にこの、女装趣味でハイテンションな人格破綻し腐った奴のせいで……。
「どぉしたの~? しーちゃん顔死んでるぅ~!!」
きゃははっと笑う変態。
「ホントだ! あ、そうだ! ねぇ、クー。その手に持ってる荷物投げつけちゃぇ!!」
楽しそうな【神(笑)】。
「あ、それ良いね! うおりゃっっっ!!」
――グオン
そんな音を立て、飛んできた物体。
それは良く見慣れたものだった……。
俺はそれを風でやわらかく包み、地面に寝かせて軽く頬を叩いた。
しばらくして。
それは小さく呻き、上体を起こした。
「おや、シルヴィオではありませんか。どうしたのです?」
「いや……どうしたって、お前。俺のセリフだぞ?」
「え? あ、あぁ。確か、シルヴィオに水を落とされて、首がやられて――――どこからか湧いた屑と目前の屑に意識を刈り取られて……」
頭に手をやっていた、投げつけられた物体。
彼はそこまで言った時。
何かを思い出したのか、雰囲気が酷く物騒なものに変わった。
あ……。
これはまずい……。
そう思った瞬間。
【神(笑)】と人格破綻者の変態は足だけを地上に残し、地面にめり込んだ。
「…………おい、ウェル」
「はい。なんですか? シルヴィオ」
「(目が笑ってないぞ……?)………………場所をわきまえてくれ……」
「あぁ、すみません。直ぐにこのゴミ屑どもを処分してまいります」
ウェルは笑顔でそう言うと変態どもをの足を掴み、消えた。
もちろん、変態どもがめり込んだ大地は元通りに戻して、だ……。




