後日談 逝かれた青頭
鈴虫の鳴く夜。
風に乗って、町から聞こえる不穏な声。
それのせいでうまく眠れず、窓を開け、林の向こうに大勢の人間の存在を知った。
…………囲まれているな……。
はぁ……。
厄介だな……。
そう思い、開けた窓を閉めた。
ささいな物音に気付く者は誰一人としていない。
なぜなら、この家には俺しかいないからだ。
「そろそろ潮時か……」
ついつい自重じみたモノが声となって空気を震わせた。
そろそろだとは思っていたんだ。
思ってはいた。
だが、信じたくなどなかったんだ。
『未来永劫守る』と、誓った者たちから……恐れられ、疎まれることなど…………。
信じたくなど、なかった……信じたくなどなかったんだ。
……だが。
こうなった以上、いつまでもこの場に留まることは不可能。
まぁ。
逝かれた人格破綻者とウェル、ベティが林に術をかけているからな。
林に火を放とうと何をしようと、意味はない。
何より。
彼らの術により、この家を囲む林は一種の防壁。
俺の許しを得ない者は立ち入ることも、傷つけることすら不可能。
…………ところで。
アイツら、林にここまでする意味があったのか……?
「そんなの実験に決まってるじゃない」
『バカなの?』と。
問うのは人のベッドに腰かけ、足をぶらつかせている青い頭の餓鬼。
俺はそれを見て、ため息がこみ上げてきた。
「また来たのか……」
「うん、来てあげたぞっ!」
人差し指を唇に当て、こてんと小首を傾げた青頭。
果たしてこいつは男だろうか?
女だろうか?
エルセリーネの尻に敷かれている【神】とやらだが、どちらかと言えば男だろう。
初対面の時の口調から言ってな。
「僕――じゃない、私に性別なんてないよ」
そう言って小さく笑う青頭。
「ちょっと、『青頭』って酷いって思わない?」
何か抗議してきた。
面倒だ。
無視しておこう。
「いや。無視すんなし」
「黙れ。さっさと失せろ」
「イヤだ!」
「……あまり俺にかまうと、エルセリーネがまた拗ねるぞ?」
と、まぁ。
以前ウェルに聞いた話をしてみた。
そうしたら、青頭。
満面の笑みで言い放った。
「うん。それはもっとイヤ!」
「だったら帰れ」
「てへっ! エルと喧嘩しちゃった!」
そう言って舌をだし、頭に拳を作った手を当てた馬鹿。
…………あぁ。
もう、面倒だ……。
そして眠い。
「そこをどけ。俺は寝る」
「一緒に寝てあげよっか? 添い寝、してあげちゃうよ?」
にやっと笑う青頭。
そんなゴミに言うことば。
「死ね」
「ひどい~! ちょっとふざけただけじゃん!!」
「失せろ」
「ふっ。もうしょうがないな~。ほら、おいで?」
そう言って人の布団に入っただけでなく、その布団を少しめくって言った青頭。
姿は少女だが、頭の中が崩壊している。
何より。
思考回路が焼き切れ、変なところにハンダ付けされてしまっているようだ。
うむ。
手っ取り早くウェルでも呼ぶか……?
「おっとぉ! ワタシ、用事思イ出シタッッ!!」
そう言って青頭はベッドから消え失せた。
はぁ……。
何故俺が、寝る前にあのアホの相手をしてやらねばならないんだ……。
はぁ…………もう、寝よう。
そうだ。
それがいい。
林で遊んで(遊ばれて?)いる人間は、もうこの際だ。
捨て置くとしよう。




