後日談 ひ孫の結婚
天気は晴れ。
空には薄く、白い雲がところどころに浮かび、蒼が大半を占めている。
――ゴーン……ゴーン……。
町の教会の鐘が鳴り響く。
それを室内の、いつもの場所に座って聞いた。
「行かなくて……よろしかったのですか…………シルヴィオ」
ただただぼんやりと、流れゆく雲を眺めていたが、後ろから声をかけられ軽く振り向く。
やや後ろに、困った顔で立っているウェルが居た。
「あぁ……。俺が行ったとて、民が萎縮してしまうだけだからな」
「……ですが――」
「良いんだ。ティーシャの花嫁姿はここから見た」
「…………そう、ですか……。ですが、せっかくですし――――」
ウェルはそう言って、ティーシャの結婚式が行われた教会内部を部屋一面に浮かばせた。
しかも俺の居る場所が、花嫁の父親の居るべき席。
まったく。
だからこいつは、たちが悪い……。
そう思うとため息が出た。
「…………余計なことを……」
「ふふ……。本当は参列して、ティーシャの花嫁姿を見たかったでしょう?」
直ぐ後ろの方から楽しげなウェルの言葉が聞こえたが、無視だ、無視。
そう思いつつも、ゆっくりとランドールに連れられ、入ってくるティーシャに目を向けた。
ランドールはどうやら緊張しているようで、若干顔がこわばっていた。
ティーシャにおいては、恥ずかしそうに目を伏せ。
夫となる男を見つめ、花がほころぶようにほほ笑んだ。
嗚呼。
この子の式に参列することが出来れば、どれほど幸せだったであろうか……。
そう、ふと考えた。
が。
軽く頭を振ってその考えを消し、式を見守った。
新郎新婦そろってバージンロードを歩き。
教会を出て行った。
その際、鳴り響く鐘の音。
外で出迎える大勢の民。
口々に祝いの言葉を述べていた。
さて。
もうずいぶん昔は、孤児を育てていたが、皆とうの昔に巣立った。
そして、今日。
ついにはティーシャも……。
ウィアは子供が生まれ、てんやわんやなエルラの元に行ったきり。
ランドールは都の方で医者をしていたが、独立し、少し前に嫁を貰い。
立派に身を立てている。
嫁の腹には子がいるようだ。
真ん中のひ孫はランドールにあこがれ、医師を志し。
今は彼に習い、都の方で医師をしている。
そのせいもあり。
この家はとても静かになった。
「最近、暇になったな。久しぶりにフェドにでも、会いにでも行くとするか」
あの、旧友に……。
「フェド様に……ですか?」
そう言ったウェルは室内に展開していた術式を消し、問うてきた。
「あぁ。あの、愚かな精霊に…………」
ふっと、遠い昔を思い出し、小さな笑いが漏れる。
解らないであろうと思っていたが、ウェルは俺の様子が分かるようで、呆れたような雰囲気を感じた。
「シルヴィオ。貴方も人のことを言えませんよ」
「…………手の届かぬ女となったものに、恋慕など抱き。あまつさえ、それのために大罪を犯した愚か者とは違うぞ?」
「変わりませんよ……。シルヴィオ、貴方だって同じ大罪を犯したではありませんか。しかも同時に」
「あの二人を失う訳にはいかなかったんだ」
「私はフェド様が犯された大罪の意味は、それと同じだと思います」
「馬鹿め。恋慕の情に動かされ、その死を覆すなど愚かだといっているんだ」
「貴方が言えたことですか?」
「…………俺は恋慕の情に動かされたわけではない」
「そうですね。あなたは友情に動かされただけ……」
「くどいぞ、ウェル。言いたいことがあるのなら、ハッキリ言ったらどうだ?」
「……………………そうですねぇ…………。しいて言うなら『地上のゴミ屑と地下のゴミ屑』ですね」
クッと、笑うウェル。
あぁ。
なるほどな……。
お前から見たら俺とフェドが、地上のゴミ屑と地下のゴミ屑に等しい、と。
それはいただけないな……。
読んで下さり、誠にありがとうございました。
ウェルが少し落ち着いたかな?
そしてシルヴィオの残念具合が上がった?
うん、よし、気のせいだっ!
ちなみに、バルフォンはもうファムロードの地下に居ません。
アルティファス達と同じ場所に居ます。
後、『フェド』って分かります?
ザバオルの木になった精霊さんですよ~。
超・脇役ですよ~♪
でも。
好きあって婚約までしてた平民のはずの幼馴染が、実は行方不明の王女様で、その王女が目の前で国のために結婚させられちゃった。
しかも敵国の人間に殺されて、しかもそれを生き返らせちゃった(これ大罪)。
彼女に愛を誓った姿を失って、普通の人間には見えない精霊になって、彼女の愛した国を守るために【猛毒の木】になった可愛そうな人なんですよ。




