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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
172/185

後日談 成長したひ孫

 さんさんと輝く日差しの中。

 俺は三人のひ孫の中、一番下のティーシャと共に、町まで馬車を走らせていた。

 このひ孫ももう成人する。

 人より遅く。

 ソフィアよりずっと早く成長した。

 この子の母・ウィア。

 その母よりも早く、ひ孫たちは成長した。

 だが、それでも常人よりもずっと遅い。

 それでも成人するほどまで、成長した。 

「曾お爺ちゃん、あのね。言ってなかったんだけど、今日。合わせたい人が居るの」

 唐突にそう話を切り出したティーシャ。

 表情は真剣だった。

「そうか……」

「うん。彼と二人でお母さんとは話をしたし、お父さんと、お婆ちゃんにも報告したから。後は曾お爺ちゃんだけなの。それで今日、町に向かってもらってるのは、そのため」

 そう言って、『黙っててごめんなさい』と、ティーシャは俯いた。 

「…………そうか。もう、ティーシャもそんな年になるのか……」

 早いものだな。

 そう思い、ちらりとティーシャに目を向けた。

 彼女は俺と同じく正面を向いている。 

 だが、エメラルドの瞳は不安げに揺れ動き、表情は硬い。

 よほど『反対されるのでは』と不安なのだろう。

 そんなティーシャだが、俺の言葉に小さく返事を返し、頷いた。

「可愛いひ孫の、旦那か……。悪くない」

「っ……! ほんと……? 曾お爺ちゃん、本当にそう思ってくれる?!」

 バッと振り返り、身を乗り出してきたティーシャ。

 とても嬉しそうだ。

「あぁ。でも、会って話はしてみたいがな……」

「えぇ、もちろんよ! そのために今日は町に向かってるんだから!!」

「そうだったね」

「えぇ! もう、曾お爺ちゃん大好き!!」

 ティーシャはそう言って、満面の笑みで抱き着いて来た。

 よほど、不安だったのだろう。

 そう思い。

 頭を撫でる。

「あぁ。曾お爺ちゃんも、ティーシャの事が大好きだよ」


 だから―――……お前をたぶらかした男を、見定めないと……ね…………?


 

「曾お爺ちゃん、怖い事考えないでよ?」

 抱き着いたまま言ったティーシャ。

 その頭を優しく撫でつつ答える。

「怖い事なんて、何も考えていないさ」

 そう答えると胡散臭いモノでも見るような顔で見上げ。

 口をへの字に曲げた。

「目が笑ってないし、雰囲気が良くない。だから絶対何か企んでるっ!!」

「はっはっは! 何も企んでないよ」

「嘘よ。絶対嘘!」

 ティーシャはそういって抱き着くのを止め。

 体を起こして腕を組んで、そっぽを向いた。

 


 こうして。

 静かになったティーシャと共に、町の入り口についた。

 そして、そこに。

 見るからに真面目そうな男が立っていた。

 『兵士だろうか?』と考えたが、なんら危険のないファバル国。

 しかし。

 自国民による事件はそれほど多くはないが、存在はする。

 そのための警備は必要だ。

 と、言うことで作られた組織・【警守隊】。

 国の中の安全と法を守る組織でもあったはずだ。

 ……詳しくは忘れた。

 が。

 その服装をしていた。

「ジェイ!」

 ティーシャがそう男の名を呼び、馬車から飛び降り。

 『ジェイ』と呼んだ男に勢いよく抱き着いた。

 男は固かった表情を和らげ、ティーシャを笑顔で抱き留める。

 俺はその間に馬車を止め。

 風で情報を集めた。

 しかし、間の悪いことに何も集められず。

 つい溜息が出た。

「お困りだね! シルヴィオ」

 嬉しそうな声が聞こえた。

 全力で空耳ということにしようとしたが、風にあおられ、流されて来た長く青い髪が視界の端に映り。 

 深く、ため息をついた。

「なんだよそのため息はっ!」

「…………何の用だ。アルティファス……」

 はぁ……。

 人格破綻者ですら手に余るというのに、お前までくるんじゃねぇよ……。

 こっちとら。

 ひ孫たぶらかした男の事で頭いっぱいなんだ。

 さっさと失せろ。

「酷い。私、クーみたいにひどくないのに……」

「同じだ。馬鹿」

「…………むぅ……。まぁ、いいや。あの男の子。真面目だよ。根っからの、ね!」

「何が言いたい」

「だ・か・ら! すんご~~っく! いい物件だよっていってるんだよ!!」

「はぁ……。根拠はなんだ」

「ん? 変な趣味ないし、根っからの真面目だし、浮気してないし。あの子の事だけを愛してる! もちろん危ない方の【愛】じゃないよ? 普通の、良い方の、だからね?」

 コテンと小首を傾げたアルティファス。

 とても、果てしなく信用できない。

「ウェル。直ぐ終わるからちょっと来い」

 そう、言葉を発したと同時に消え失せようとするアルティファス。

 そんなヤツの髪を素早く掴み、引く。

「あ痛ぁ!! 何すんだよこの屑が! 消すぞっ!!」

「アルティファス。誰に向かって、口を聞いているのです……?」

「っ……?! なんで、お前いつの間にっ!!」

「はぁ………あなたは、いつまでたっても、どうしようもないおバカですねぇ……。私が魔導師だということを、お忘れですか……?」

「うっ。そ、そんなこと、ない!」

 叫んだアルティファス。

 それを見たウェルはため息をつき、ゆったりと頭を振った。

 どうやら。

 ウェルの中でアルティファス【神(笑)】には、【どうしようもないおバカ】というレッテルが貼られていることがわかった。

「こぉらぁ~! ウェルぅ。アルいじめちゃ、だ~めっ!」

 『もう、つんつん』と言って人差し指でウェルの頬を突く少女。

 それは突如として、現れた。

 同時にウェルの雰囲気が一気に物騒なものへと姿を変える。

 嗚呼。

 もう、最悪だ……。

 俺は馬車を破壊される覚悟で馬車から降り。

 馬を手早く馬車から離し、手綱を持ってその場から避難した。

「? 曾お爺ちゃ――――」

「ん? 何かな? ティーシャ」

 隣に来た俺に対し、何か言いたげなティーシャの言葉を素早く遮り、問う。

 これと同時に馬車は紅く染まり。

 粉々に砕け散った。

「…………………………うぅん。なんでもない……」

 ティーシャはそう言って、頭を振った。

 隣に居る、『ジェイ』とやらの顔はひどく引きつっていたようにも思える。

 が、それはティーシャも同じなので、何も言うまい。

 俺はそれよりも大事なことがある。

 ティーシャの隣に居る、男に視線だけを向けた。

 男はこれに気づいたのか、引きつっていた表情を一気に真剣なものへと変え。

 こちらを向いた。

「『ジェイ』とやら。貴様と時の流れの違うこの子を、幸せに出来るか……?」

 問うと、男は頷き。

 ティーシャの肩を抱き、自身の方へと引き寄せた。

「もちろんです。私は彼女を――ティーシャを、心から愛しております」

 はっきりと言いきった男。

 それはなおも言葉を続ける。

国守様くにもりさま。私は彼女があなた様の宝と存じ上げております。ですが、私はこれからを彼女と共に……彼女のために生きとうございます。……どうかティーシャを、彼女を私の花嫁とすることを、お許しくださいますよう、お願い申し上げます」

 真摯に告げ、ティーシャの肩から手を離し、深く頭を下げた男。

 それを視界の端に捕らえ、ため息をついた。

 【何に】……か……?

 そんなもの。

 隣の男を見上げ、頬を染め。

 涙をためて、嬉しそうに口元を抑えるティーシャに、だ……。



 はぁ……。

 正面では殺伐とした光景。

 すぐ隣は桃色(ティーシャの雰囲気が)。

 その隣はひどく真剣。



 …………もう、疲れた……。

 


「勝手にしろ……」

「「?!」」

 俺の言葉に驚き、嬉しそうなティーシャとジェイ。

 良かったな。

 まぁ、元から反対する気はなかったがな。

 ……いや。

 少しはあったか……。

 まぁ、それは置いておこう。

 あぁ。

 それとどうやら、俺はいつの間にか【国守様】と呼ばれているようだな。

 ……知らなかった…………。

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