後日談 最終回
しかし、取り乱したランドールには伝わらないようだ。
小さな声で『嘘だ。こんなこと』としきりに呟いている。
『落ち着け』と言っているのだがな……。
それと。
いい加減に胸ぐら掴むのをやめろ…………。
「兄さん……。お爺ちゃんの服を掴むの、やめて。兄さんだって……分かっていたはずでしょ?」
「っ……!」
悲しげなウィアの言葉に、ランドールの肩がはねた。
だが、胸ぐらをつかむ手は離れない。
……困った子だ。
だが。
ソフィアの子だ。
俺の……大切な、家族。
悲しみは分かる。
だが、少し落ち着きなさい。
特にランドール。
「ランドール、ウィア。ソフィアは…………お前たちの母は、常に『幸せだ』といっていた。覚えているだろう?」
あぁ、そうさ。
あの子はなんともない、ただの一日を『幸せだ、幸せだ』と言っていた。
もはやソフィアの口癖だったのかもしれん。
だが。
その言葉が偽りでない事は、あの子の顔を見れば分かった。
……俺にはそれが理解できなかったがな。
そう思い、二人の孫に目を向ける。
ウィアは必死でこらえたであろう涙を再び零し。
ランドールは俺の服から手を離し、きつく唇を噛んで俯いた。
そんな彼らの背に回る。
小刻みに震えるランドールと、小さな嗚咽を繰り返すウィア。
二人の肩に手を置き、ソフィアの眠る墓の方へと軽く押した。
押された二人は慌てて振り向いたが、俺は何も言わず、微笑んだ。
「さぁ、二人とも。ソフィアに『おやすみなさい』を言っておいで。あの子はきっと、喜ぶ……。俺は先に帰る。あぁ、それから……長居をしては体に障る。ほどほどで帰ってくるように」
俺はそれだけ言って、その場を後にした。
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こうしてランドール達と分かれ、家に戻った。
当たり前のことだが、誰もいない室内は静まり返っており、ひどく冷たく感じた。
だが、何処かへと出かけようという気すらおきず。
今では俺の定位置と化した、掃出し窓の傍にある、ロッキングチェアに向かう。
後、数歩と言ったところで、ロッキングチェアが前後に揺れた。
先ほどもいったが、この家の中には俺以外、誰もいない。
だが、椅子には青い長髪の少女。
「あ~あ。辛気臭い顔しちゃってやんなっちゃう! ねぇ。シルヴィオ……?」
そう言って、こちらを向いた赤と金のオッドアイの少女――――アルティファス。
何をしにこちらにやってきたんだ。
こいつは……。
「何、その目。ムカつくんだけど。いいの? そんな顔して。あんたの兄貴たち、転生させないよ?」
「馬鹿め。そんなことをすれば、エルセリーネが黙っていないだろう? それに、ウェルも……な?」
「ふっふ~んっだ! ざぁ~んねんでした! あの怖い――……じゃなかった。偏屈魔導師のクソ餓鬼はもうあっちにこれないのだ~! あーはっはっは!!」
ぎぃ……ぎぃ……と、アルティファスが揺れるたびに、小さくロッキングチェアが鳴いた。
ひどく嬉しそうにしているが、この餓鬼。
しかし、あちらとやらに戻った後の事を考えているのだろうか……?
「ウェルは良いとして、エルセリーネはどうするんだ……?」
「? ………………はっ……! しまったっ!!」
「…………馬鹿め……」
「ふ、ふーんだ! メルはあの偏屈とは違うんだもん! ま、まぁ……偶に棘だらけのメイス持って追っかけてくるけど……鉄の処女抱えて追ってくるけど…………」
どこか遠い目をするアルティファス。
そんなヤツに描ける言葉。
「自業自得と言う言葉を知っているか……?」
「……知ってるよ、ばーか! ふんっだ! なんだよ、わざわざこの私が直々に報告にしてやったのに。そ~か、どうでも良いか。どうでも良いんだな!!」
「あぁ、別にどうでも良い。あれとソフィアが再開したということだろう?」
どうせ、な。
だいたい。
そんなこと用意に想像がつく。
「うっ……!」
「わかってんだ、そんなことはな……。あれも、笑っていることだろう」
「チッ…………。つまんねぇの! ま、いいや。さっさと帰ろっと! あの偏屈餓鬼に会いたくねーもん……」
げんなりとした顔で言ったアルティファス。
奴は気づかない。
背後に、ウェルが立っていることに。
「ほぉ。それは、誰にでしょうかねぇ。アルティファス…………?」
「っ?! な、なんでお前がここにいるんだよ!!」
慌てて振り向きつつ、上を向くアルティファス。
そしてそんなヤツを、額に青筋を浮かべ、椅子の背宛ての上から見下ろし、笑うウェルコット。
「馬鹿ですねぇ……。 そんなこと、ここがシルヴィオの家だからに決まっているでしょう?」
「……あ、そう、だった…………。じゃ、じゃぁ。私、か、かか、帰るっ!!」
すっと消えたアルティファス。
それが居た場所を鋭く睨みつけるウェルコット。
そんな彼はもう赤子ではなく、成人を迎えていた。
「どうしたんだ。ウェル」
「…………今の名はジフリーです。なんど言えば分かるんです?」
「すまん。長い事『ウェル』と言い続けていたせいだな。ジフリー」
「ふふ、そうですね。私も本当は『ウェル』で構わないのですが、今世の両親が不振がるのです。ですから、これからは厳しく言わせていただきます」
「そうか」
「えぇ。来世ではまた、名が変わる――――……いえ。もう、変わらなくなったのでした…………」
微笑んだかと思うと、また急に目つきが鋭くなったウェル――ではなく、ジフリー。
「どういう意味だ?」
「……あのくそ餓鬼にやられたのですよ。不老不死に。ですから、やはり『ウェル』でいいです」
そう言ったウェルの表情は、怒りを通り越し、笑っていた……。
「ふふふ……。次、あの餓鬼がこちらに来たときは…………ふふふふふ」
あぁ。
ウェルが、壊れた…………。
だが、アルティファス。
お前の死は、間近のようだぞ……?
よかったな。
完。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
後日談も、この回で完結です。
ありがとうございました!
それと、アルティファスが人格破綻者に似てるとか、言っちゃダメ。
それ裏設定だから……。
てか、クーがアルティファスに似てるんです。
まいったな……。
ま、これで完結です。
もうネタが尽きたので、本当の完結になります。
本当にありがとうございました!




