第十五話
王宮の近くにある粗末な小屋の中。
ロジャードは手を後ろ手に縛られ、椅子に座らされていた。
彼の周りに、先ほどの衛兵たち。
そんな彼の正面に立つ、鋭い目つきの、明るい灰青の瞳の青年。
「貴様は何者だ」
青年は無表情のまま、ロジャードを見下ろし、平坦な声で問う。
そんな青年に、苛立った時のノエルがかぶって見えた。
「あ、あはは。あなたにはノエル・ルイダスと言う名のご親戚がいらっしゃいますか?」
乾いた笑い声を上げ、引きつった笑みで疑問を青年にぶつける。
ロジャードの質問に、青年の整った眉がピクリと動く。
それに気を取られた彼の喉元に、青年の剣が突きつけられていた。
(ひぃぃぃ! こいつ絶対ノエルさんの血縁者だ!!)
ロジャードは勘弁してくれ! とばかりに顔を青くし、声に出さずに叫んだ。
「今一度聞く。貴様は何者だ」
「ロジャード・セメロと申します」
ノエルと同じように、威圧感たっぷりで剣を突きつけ、低く言う青年に、ロジャードは引きつりっぱなしの顔ですぐに答えた。
「何故、あそこにいた」
「………………」
彼は『迷子です』などと情けなさ過ぎて言えるわけもなく、ついっと目をそらす。
このせいで、青年の雰囲気がものすごく悪い方に変わり、鋭い目つきが一層鋭くなった。
「答えられないのか」
「え、えぇっと……ですね。これには深い……ような、浅いような、訳がですね…………」
ロジャードは、ノエルに叱られてるように脳が勘違いし、後半がしどろもどろになってしまった。
そのせいか、青年に剣を下す気配はない。
「では、質問を変えよう。毒を持ったのは貴様か?」
「…………あれ、もしかしなくても私。犯人扱いですか?」
この状況で、やっと現状を理解したロジャード。
青年は、哀れなものを見るような目で彼を見下ろす。
「それ以外に何がある」
「あはは。でーすよね~」
再び乾いた声で笑い、引きつった顔で笑みを作る。
青年は黙って彼を見下ろす。
ロジャードの本能が『超危険。回避せよ』と言っている。
(やばい、絶対怒ってる。これ以上なんか言ったら俺、死ぬ。絶対死ぬ!!)
そう考えて顔面蒼白になるロジャード。
彼は意を決して、謝罪の言葉を口にし、青年を見上げた。
「現実逃避し――」
「ふざけるのもいい加減にしろ」
「?!」
ロジャードの言葉を遮り、威圧感十分で低く言う青年。
彼は、剣を喉元からスッと、こめかみに移動させた。
「さっさと答えろ」
若干、呆れ顔の青年に、ロジャードは表情を引き締める。
「はい。実は…………迷子なんです」
「………………」
「ぅわぁぁ、待て待て振り上げんな! これマジだからぁ!!」
ロジャードは、無言で剣を振り上げた青年に、必死で制止の声をかける。
青年は、彼を冷たく見下した。
「貴様が不審人物であることに変わりはない」
低く、冷たい声音で言う青年。
振り上げたままの姿で静止した青年を見て、これが好機。とばかりにロジャードは彼を説得しようと考えた。
「だからって殺しちゃダメじゃん! ここはしっかり話を聞かなきゃ!!」
「……まともに答えない貴様が言うか」
青年は、ロジャードの頭上に振り上げていた剣を、鞘に納めた。
ロジャードは、青年の剣が鞘に収まったことを確認し、口を開く。
「いやいや言おうとしてたから!」
「それは、いつだ?」
「『現実逃避』って言ったとき!!」
「……あの後があったのか?」
「あったよ、十分あった! だから縄をほどけ!!」
ロジャードは椅子をガタガタ揺らして、青年に抗議する。
そんな彼を静かに見つめ、言った。
「貴様は、自業自得と言う言葉を知っているか?」
「君は俺を馬鹿にしてる?」
ロジャードは彼の言葉に軽く苛立ち、返答した。
「……私を馬鹿にしているのは貴様だろう」
眉をピクリと動かす青年。
ノエルだったら、これは危険信号。
「そんな命知らずなことした覚えはない!!」
真顔で、力いっぱい否定するロジャード。
彼の発言で場の空気が張りつめた。
「その辺にしておけ、ロジャード・セメロ」
ごめんなさい。
まだありました。




