後日談 その一
活動報告あさる(て言うかひっくり返す?)のがめんどくさくなりました。
内容は活動報告に乗せたのと同じです。
うららかな昼下がり。
その暖かな日差しにいざなわれ、ふらふらとリビングの大窓を開け、木製のテラスに出た。
これにより増した囀る小鳥たちの声。
吹き抜けるやわらかな風。
これに乗って聞こえる、賑やかな城下の音。
嗚呼。
俺の選択は、間違いなどではなかったのだな……。
ふと、そう思った。
胸の中にあるモノは、穏やかさに満たされた幸福感と、安堵感。
それは睡魔となり、俺の全身に渡る。
耐えられないほどではないが、この暖かな日差しの中、眠るのも良い。
こう考え、テラスにそのまま寝そべった。
服が汚れるな。
などと考えたが、砂など払い落とせは良い。
今は眠いんだ。
うとうとと、目を閉じる。
瞼を通して、太陽が輝いているのが分かった。
まぶしいという程でもないが、それを遮るため腕を乗せ、迫りくる睡魔に身を任せた。
暖かな太陽が輝く昼。
草原をかける、幼い少年少女。
彼らは徐々に成長し、大人になって行く。
俺はそれを少し離れたところから見守っていると、誰かががやってきて、俺の左横に座った。
その座った人間は、深い笑い皺の刻まれた、ウィルロット。
彼は母さんと同じ、優しい琥珀色の瞳を細め、笑いかけて来た。
これにつられて微笑み。
大人になり、草原の上に座っているフォードたち六人。
それに加わるニコラの姿。
七人はとても楽しげに草原の奥。
突如として現れた幼い子供たちが、自分たちと同じように走り回るのを見て、笑っていた。
俺は彼らにつられ、またしても口角が上がる。
輝いているわけでもないのに七人が、とても眩しく思え。
目を細めた。
その時だ。
誰もいなかったはずの右側から視線を感じ、そちらに目を向ける。
と。
そこには長い黒髪に、ターコイズの瞳の女性。
彼女は柔らかな微笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
これに俺は軽く驚き、目を見開いたが、直ぐにそれは笑みの形に変わる。
彼女の隣には同じ黒髪に、ターコイズの瞳にそばかすのある男。
その男はへラッと笑って二本指を立て、突き出してきた。
まったく。
こいつは…………。
軽く呆れていたら隣に座る彼女が困った顔をした。
あぁ。
彼らは変わらないな……。
いつまでたっても。
そう考えたとき、左肩に手を置かれた。
とても大きく、固い手。
俺は手が置かれた方に顔を向ける。
そこに居たのは黒髪にコバルトブルーの瞳の紳士と、黒髪に琥珀の瞳を持つ淑女。
彼らの後ろに控えるように立つ、黒髪に、鳶色の瞳を持つたれ目の紳士。
遠くの方には故エドレイ国王・レイザイオン・ウェドー・エドレイ。
彼の隣に寄り添う王妃の姿。
そのまた向こうには、かつての戦友たち。
彼らは楽しげに笑って立っていたり、寝そべっていたり、転げまわっていたり。
……なんだ。
みんな居るじゃないか…………。
ふとそう思い、笑う。
すると俺の隣に居た彼らが立ち上がり、笑みを浮かべて消え。
草原には、俺しか居なくなった。
…………そう、だよな。
みんな、もういないんだったな……。
自嘲気味に笑って、そのまま草原に寝転がった。
空は雲一つない、晴天。
これが曇天であれば、太陽がまぶしくはないだろう。
そう思ったとき、猛スピードで降ってくる岩。
これに気が付いたときはもう躱せなかった。
「……ぐはぁあ…………!!」
腹部を猛烈な力で無くられたような衝撃で目が覚めた。
「…………っぅ~……。な、なんだ?」
慌てて腹部を抑えると、なにやら暖かな塊が……?
………………なぜに?
そう思い、上体を少し起こす。
と、目に入ったのは赤髪の赤子……。
……先に言っておく。
俺は今は子を預かって世話をしてはいるが、赤子は居ない。
ましてや赤髪の赤子など身に覚えもない。
なんだこの餓鬼は?!
どこから湧いた!!
くそ!
あの変態逝かれ化け物錬金術師め……!
何が『捨て子をしようとする親をこの林に入れないようにした』だ!
降ってきたぞ?!
おそらくだが、この赤子は俺の腹めがけて降ってきた。
ッチ。
あんのイカレ野郎……。
今度会ったらマジで殺す。
何が『不老不死を手に入れた』だ。
もうよぼよぼの爺のくせしやがって……。
何百年生きれば気が済むんだアイツは!
もう常人の何倍も生きていると思うがな……。
「……ん。……ぅ……?」
やべぇ……。
赤子が目を覚ました様だ……。
……大声あげて泣かれたらたまったもんじゃねぇな…………。
なんて思いながら、赤子を見た。
恐れを抱きそうな程綺麗な金の瞳。
視線がその金とぶつかった。
赤子は驚いた顔をし、ふわりと笑うと。
「しーぉ」
そう言った。
何が言いたいのかさっぱりわからず、ポカンとして赤子をみつめていると。
赤子は心底嬉そうにキャッキャと笑い。
もう一度「しーぉ」と言うと、俺の腹の上を這って、胸ほどまで上がってきた。
この時、俺はやっと赤子の異質さに気が付ついた。
この赤子、普通の人間ではない。
おそらく、魔力持ちだ……。
「……親はどうした?」
問うと、赤子は一層楽しそうに笑った。
なんなんだ、この餓鬼は……。
そう頭を抱えそうになったとき。
真横に光る陣。
それは幾重にも重なり、中から出てきたのは雪の様な白髪と、アイスブルーの瞳のイカレ錬金術師。
そして、ファムロード魔法研究科学共和国。
通称ファムローダ。
つまりこいつはその国の王だ。
……って、もう共和国じゃねぇか…………。
確かファムロード魔法研究科学国だったな。
まぁ、そこで何百年と王様してるイカレ野郎だ。
「よぉ。今度は赤子拉致ってきたのか?」
「お前と一緒にするな……」
「……もう人体実験は辞めたんだ」
「そうか。そいつは良かったな」
さっさと帰れ。
暗にそう言うが、このイカレ野郎。
テラスの床に胡坐をかいて座り、俺の腹の上から赤子を抱き上げた。
この時、赤子はひどく嫌そうに顔を歪める。
「……?!」
イカレ野郎が息を鋭く飲んだ。
そして真剣な表情で赤子を膝に乗せ、その小さな頭に手を置く。
これに赤子は必死に抵抗。
しかし、赤子の弱い力では大した抵抗になっていない。
イカレ頭は空いている方の手で木炭を持ち、テラスに陣を掻き始めた――……って。
おい、こらイカレ頭。
綺麗にしてから帰れよ……?
分かっているな。
上体を起こしてそう言う目で睨むと、イカレ頭はにこっと笑いやがった。
「掃除しろよ?」
「頼んだ」
「ふざけるなよ?」
「大真面目なんだがな」
「……死ぬか?」
「そっちがな」
「さっさと帰れ」
「息抜きぐらいさせろよ」
「よそでやれ」
「よそだとうるさいんだ」
「お前の存在がウザいからだろ」
「うわ。辛辣……」
「思考回路が焼け切れた奴をもてなしてやるほど、変人じゃないんでな」
「もてなす方が常識人だとおもうがねぇ……」
「そうか。さっさと帰れ」
「イヤ」
「帰れ。お前の様な逝かれた奴の話相手なんぞ誰がするか」
「してくれてるじゃん」
「…………イカレ野郎に正論を言われるとはな……」
はぁ。
こんなイカレ野郎なんかと話をするんじゃないな。
酷く疲れる。
「さっさと帰れ」
「それで三回目……」
「わかっているなら帰れ」
「だからいやって言ってるだろ?」
晴れやかに笑うイカレ頭。
疲れがどっと出てきた……。
はぁ……。
内心でため息をついたとき。
イカレ頭が『出来た』と嬉しそうに笑った。
まったく。
何が出来たというんだ……。
そう思い、奴が向けている視線を追うと、胡坐の上に居る赤子に向いていた。
「ほら、君の名前をお兄さんに教えて?」
胡散臭い笑みを浮かべて赤子に微笑むイカレ頭の王。
その様は巷で有名な幼女趣味の変態な人さらいに良く似ていた。
気味が悪い。
そう思い、赤子を取り上げる。
赤子は驚いたのか、身を固くしたが、それは一瞬のことで直ぐに力を抜いた。
「何するんだよ。シルヴィオ」
「お前はその胡散臭い笑顔をやめろ」
不服そうに言ってきたのでそう言いかえす。
そうしたら、膝の上に置いた赤子は強く頷いた。
「「…………」」
無言。
視線はもちろん頷いた赤子。
俺から見える赤子の表情は、やってしまったと言わんばかりの顔で固まっている。
「……俺の目をごまかせると思ったか? ウェル」
「?!」
イカレ頭の低い声に、盛大に肩をはねる赤子。
その表情は驚愕と、恐怖が入り乱れ。
赤子は必死に俺の服にすがってきた。
「口がきけるようにしてやったんだ。しゃべったらどうだ?」
「っ……!」
イカレ野郎の顔が近づいてきたことにより、赤子は顔を強張らせた。
「おい、やめろ。怯え――――」
ているだろうが。
そうつづけようとした時。
赤子は自分自身の頭上に陣を形成後。
光の柱となり、姿を消した。
これにイカレ頭でイカレ野郎でもあり、一国の王。
クラジーズ・グルヴィ・キーゼはニヤリと笑った。
その眼は獲物を見つけた動物にも似ていた。
「おかえり。待ってたよ、ウェル」
心底嬉しそうに、ゆっくりとした口調で言葉を吐いた。
……と、鳥肌が…………!
怖!!
「さぁ~てと! かぁ~えろっと!!」
そう言ってクラジーズは一瞬にしてクーの姿をとり、『ばいばぁ~い』といって消えた。
……後生だから、二度と来るな。
切にそう願い。
頭を抱えたとき。
「ひいおじいちゃーん。おやつの時間だよ」
大窓を開け、ひょっこりと顔をのぞかせ、こちらに歩み寄ってきた金髪にエメラルドの瞳の少女。
「あぁ。分かった」
「すぐに来てね!」
そう少女は言って室内に入っていき。
入れ替わるようにして、金髪にターコイズの女性が現れた。
「おじいちゃん。誰か来ていたの?」
「……逝かれた奴と、友が来ていた…………」
「……そう。ちゃんと背中、払ってから入ってきてね。砂だらけは嫌よ」
クスッと笑う彼女に「わかった」と返事を返す。
「もぉ~、お母さん、ひいおじいーちゃん。まぁだぁ~!!」
そう叫ぶ少女の声に、笑って俺たちは室内に入っていった。




