第百三十一話
剣を振るい。
受け止め。
薙ぎ払う。
それを繰り返す。
もちろん傷など負っていない。
負ってはいないが…………。
鍔迫り合いとなり、合わさった剣の向こうに見える。
不敵に笑うアルティファス。
長い事打ち合っているというのに、こいつもかすり傷一つ負わせていない。
……怒りに任せ振るっていた。
だが、徐々にその怒りは冷たく固まり、腹の底にとどまっている気がする。
そんな風に頭の片隅で考える。
「終焉だ……」
アルティファスは突如そう言い、笑みを深めた。
「下がれ。シルヴィオ!」
焦りを含んだダンドルディックの声と同時に、なぜか体が勢いよく後ろに飛ばされた。
「……?!」
驚愕を隠せずにいると、何かに包み込まれ、地面に再び立たされた。
慌てて振り返ったが、そこには何もいない。
…………エルセリーネたち、か……?
……良くわからないが、そうだろう。
もし、そうなら惚けるのをやめたと言うことだ。
……………そして。
飛ばされた衝撃のせいか、少し冷静になれた。
――――ドォォォオオン
突如響いた低い轟音。
そちらに目を向けると、先ほどまでアルティファスが居た場に、土のドーム。
そして少しこちら側に、地面に片手を着くダンドルディック。
足元から伝わる横揺れ。
……これは、地震…………?
…………こんなものを起こせる者は間違いなく、アルティファスだろう。
そう思い。
アルティファスが捕らえられたであろう、土のドーム。
しかし、そのドームに走り始めた亀裂。
その亀裂はあっという間に全体に広がり。
その中から、すべてを黒に塗りつぶされた人影が現れた。
人影と言っても、黒一色の影の様なもの。
それはひどく嫌な気配を放っている。
俺の前方に居る、ダンドルディック達は酷く動揺しているように見えた。
表情が確認できたリディとアーニャさんは、青ざめている。
『う、そ』
そう。
アーニャさんの唇がそう動き。
握っている槍に力を込め。
駆け出した。
彼女の握る槍の切っ先は、影に向かい。
ありえない速さで流れるように素早く。
的確に影を襲った。
――ガン
固い物どうしがぶつかる鈍い音。
アーニャさんの繰り出した攻撃は、影の片手により。
防がれた。
しかし、攻撃の手を休めず。
打ち込んでいく。
「そんなになってまでこの世界を壊して何になるの? 答えて、アルティファス!!」
泣きながら、アーニャさんは叫んだ。
けれど影に変化はない。
ただ彼女の槍を受け止め。
受け流し、攻めに転じる。
彼女の隙を埋めるべく、リディが動き、ラルフォードが動いた。
それでもなお。
風のように素早い攻撃に、影は変わらずに対応している。
ダンドルディックにおいては、地面に片手をついたままだ。
……リディ達からしたら、助太刀と言う程役に立ちそうにないが、アルティファスの気をそらすことぐらいはできるだろう。
…………大事なことだから言っておく。
奴らは『人外』だ。
『人間の異形』ではない。
そして、俺は『人間の異形』だ。
そこを忘れてはいけない……。




