第百二十八話
とはいえ、城の傍に居ても危険はない。
だが、民に王の崩御を伝えるべきだ。
その考えしかなかった。
ただ。
広場のすぐ前で、民に動揺を与えるだけではないだろうか?
そう。
混乱していた頭が冷静さを取り戻したとき、当たり前の事を思った。
一国の王と、宰相、次期皇帝の死。
民は酷く動揺するだろう。
しかし、三人の死を隠すことは不可能。
それに。
民には知る権利がある。
俺はそう納得し、広場に足を踏み入れた。
広場は人の声でざわついている。
だがそれも、次第に治まった。
こちらを見つめる民の表情は、信じられないといった顔だ。
…………俺だって、信じたくなどない。
だが、腕の中の小さく冷たい甥が、容赦なく。
俺に現実を突きつけてくる……。
『あの男の血はお前で最後』
再び頭の中に響いたアルティファスの声。
最後……?
と言うことは、まさか。
そう思い。
兄たちを運んでいる風に、貴族の安否の確認に行くよう命じ。
風は兄たちをその場に寝かせ、飛んで行った。
「殿下」
ふと後ろから聞こえた声。
振り返ると、ガルダロが居た。
「皇太子殿下をこちらへ」
そう、ガルダロはいった。
適当に寝かされた兄たちの亡骸は、兄たちそれぞれの側近が苦渋の表情で、恭しく抱え上げ、入ってすぐのこの場から移動させている。
俺はそれを見て、甥をガルダロに渡した。
この時。
風が運ぶ、遠くの悲鳴が聞こえ。
国を一周した風が戻ってきた。
風が見たものは、ルッティーフ以外の貴族の屋敷。
それらは城同様炎上していた。
炎の中には、貴族が兄たち同様胸に血を流し、息絶え。
炎を前に慌てふためく使用人。
そして、鎮火した宮城。
……どうやら消火を命じていた風も同時に戻っていたようだ。
なので俺は風たちに貴族の屋敷の消火を命じる。
すると風は海を目指し、一直線に飛んで行った。
…………別に海でなくてもよかったのだが……。
勝手に飛んで行ったモノは仕方がない。
そう考え、広場を見渡した。
報告に来た兵士の話だと、宮城から広場に来た者の中に死者は皆無。
皆、命に別状のない軽いやけどや、擦り傷で済んでいる。
つまり、死んだのは王族のみ…………いや、違うな。
ルッティーフと俺を除いた、王侯貴族。
……そして、王族の血を引いた者。
だが、王侯貴族以外の死を、風は報告してきていない。
となると。
狙われたのは、王族の血を引いた王侯貴族。
ルッティーフが逃れたのは、あの赤髪金目の当主。
あの少年がアルティファスが仕えた王に似ていて、かつての愛着が邪魔をしたか……。
はたまた気まぐれか。
…………両方か……?
まぁ、それはどうでも良い。
「殿下。いかがないました……?」
問いをぶつけてきたのは、ガルダロ。
腕に甥の姿は無い。
辺りを見わたし、甥の姿を探す。
……甥は、兄上の傍に横たえらていた。
腹の中で何かが暴れ、表面上に表れようとするのを抑え込むため。
ゆっくり目を閉じた。




