第百二十六話
「若様。ここは危険です。お下がりください」
軽く落ち込んでいた時に聞こえた声。
それは……そう、俺の空耳でなければリディの声だ。
だが。
ありえない。
リディは、エドレイのセメロ邸の、ただの使用人。
それがなぜこのようなところに居るんだ?
俺の聞き間違いだ。
そう思うが、一度確認しておこう。
「どうなさいました? 若様」
振り返ったところに居た者。
猫耳に、猫のしっぽ。
黒髪。
青と金のオッドアイ。
間違いなく、あのリディだった。
「なんで、お前がここに?」
「創世の、異形ですから……」
そう言ったリディからは、セメロ邸に居たころのような、ふざけた様子はなく。
凛としていた。
「こんにちわ、ロジャードさん。いえ。、シルヴィオさん」
ふわりとほほ笑む、可憐な女性は、そう言った。
だが。
この女性も本来であれば、こんなところに居るはずもないんだ。
それなのに、ここに居る。
と、言うことは。
「……アーニャさん。あなたも、【創世の異形】なのですね」
そう問うと、アーニャさんは悲しげに顔を歪め、唇を噛んだ。
「…………えぇ。そうよ……」
俯いたアーニャさんの返答。
………この女性は、セメロ邸・執事。
ノエル・ルイダスの、妻。
そして……レティの母、だ……。
俺はこの事実に言葉を失った。
「若様。こちらを……」
リディに手渡された物。
それは、剣と、見慣れた【危険物】のはいった小瓶。
俺はそれらを受け取る。
「ありがとう。助かった」
「礼ならばクーに、私は彼に頼まれただけなの。…………若様。ここは私たちに任せ、一刻も早くファバルへお戻り下さい」
セメロ邸に居たころの笑みとは違う、笑みを見せ、リディはラルフォード同様。
俺の横を通り過ぎ、前に出た。
アーニャさんも、俺に軽く頭を下げ、前へ。
二人はいつの間にか、ラルフォード同様に、武器を構えていた。




