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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の歩
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第十三話

「アルフの葉」

 ため息交じりにロジャードは言うと、男は怪訝そうな顔をした。

「アルフの葉が――。まさか毒が薄まっているのですか?!」

「えぇ。アルフの葉のおかげて、直接口にした陛下と殿下のみにしか、影響が出なかったんです」

「そうですか……。では、早く解毒の方法を探さなくては」

 男は解毒方法を探すため、ロジャードとすれ違う。

 ロジャードはその時、ルフェアの花。と言った。

 これに男は再び怪訝そうに顔を歪め、振り返る。

「ルフェアの花が、何か?」 

「この毒を解毒する花です。確か、この城に植えられていたはず」

 淡々とした彼の言葉で、解毒方法を探すためにバタバタしていた室内は再び静まり返った。 

 そんな中で、採ってきます! と言って出て行こうとする、扉の近くにいた白衣の若者二人。

 彼らに、二輪だけで大丈夫です。と声をかけると、二人は分かりました。といって出て行った。

 ロジャードは再び男に目を向ける。

 男はロジャードを真剣に見つめていた。

「貴方はなぜ、解毒の方法をしているのですか? 二度目になりますが、毒を飲んで平気なのですか」

 静まり返った室内に、ロジャードから目を離さず言った男の声が響いた。

 ロジャードは一度目をつぶり、ゆっくり開く。

「私は死ぬつもりで、ザバオルの樹が自生する地帯に赴き、一滴で死に至ると聞いた樹液を口にしたようです」 

「……どういうことです。それは貴方の事でしょう?」

 不思議そうな男に、ロジャードは苦笑いを浮かベる。

「私であって私ではない、過去の私が行ったことです。今の私ではありません」

「?! まさか、貴方は――」

「採ってきましたっ!」

 男の言葉を遮り、室内に飛び込んできた、二人の研究者。

 その手には、青い六枚の花弁をもつ大輪の花が二輪。

 二人はひどく息を上げていた。

 ロジャードは、強制的に話を終わらせてくれた二人に近寄る。

「ありがとうございます。ここからは私が行います。ゆっくり休んでください」

 そういって、ルフェアの花を受け取る。

 ロジャードはそれの花弁を一枚一枚取り、一輪分を、蒸留させた水が半分ほど入ったビーカーにいれた。

 そして、その上に茎を刃物で小さく刻んで入れ、それを火にかける。

 同様にもう一つ作り、火にかけた。

 しばらくして、先に火にかけた方の水が緑に変わり、濃い青へと変わる。

 その瞬間、彼は素早く二つのビーカーを温めていた火を消した。

 濃い青の液体を、ろ紙をセットした硝子の漏斗に流す。

 もう一つのビーカーの液体も、同じ装置に流してろ過した。

 こうして、ろ過された濃く青い液体の入ったビーカー。

 彼はそれを持ち、毒入り紅茶の入ったティーカップのあるところに行き、ビーカーを少し傾け、一滴ずつ入れる。

 すると、二つの紅茶は、透明な液体に変わった。

 ロジャードはビーカーを置き、かわりに透明な液体となったティーカップを手に取り、口にした。

 そして、それを机上に戻し、念のためもう一つも口にした。

「本当に、解毒されているのですか?」

「えぇ。ご心配のようでしたらいかがです?」

 ロジャードが最初に話かけた男の質問に、彼は淡々と言って、男の目の前にティーカップを突き出す。

「……いただきます」

 男は彼からティーカップを受け取り、意を決して一口飲んだ。

 ロジャードはそんな男に目もくれず、透明になった紅茶を見つめた。

(にしても、無害なルフェアの花は毒だけでなく、色と味、風味すらも消してしまうのか。こんなことまでは記憶になかったな)

 彼は突如聞こえた声によって、戻ってきた記憶を思い起こしていた。

 そのとき、彼に渡されたティーカップを握ったまま、男が驚く気配がした。

「水……?」

「そう、水です。ルフェアの花は無害ですが、ザバオルの解毒だけに使えます」

「……知りませんでした」

 驚愕を露わに呟く男。

 そんな彼に、ロジャードは首を左右にゆっくり振る。

「無理もありません。ザバオルの樹液自体、毒である時間が限られているのですから」

「では、陛下と殿下はその時間が過ぎれば助かるのでは?」

「いいえ。それより先に命を落とします」

 ロジャードははっきりと彼に言う。

「……ちなみに、ザバオルの樹液が毒の時間はいつまでで?」

「二十四時間。毒の効果が切れるのもその時間です。ですが、先ほども言ったように命が持ちません」

 自身の言葉に、ロジャードは顔を歪める。

 男は彼を見て俯き、ふと考えた。

「……陛下と殿下が毒に倒れられてもう、五時間以上たって……五時間? ザバオルの樹液は猛毒。確か、一瞬で死に至らしめるはず。まさかこれもアルフの葉が……?」

「えぇ。アルフの葉が入っていたおかげです。それより早く陛下と殿下にこれを」

 そう言ったロジャードの言葉で、静まり返っていた室内が慌ただしくなった。

「一つのビーカーで一人分です。確実に全部飲ませて下さい。いいですね」

 ロジャードは室内にいる者たちすべてに向けて言った。

 彼の言葉と同時に、研究者たちが解毒の水の入ったビーカーを普通のカップに入れ替え、それを持って部屋を飛び出していった。

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