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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
143/185

第百十六話

 ◆◆◆


 時間は遡り。

 俺たち三人がシルヴィオたち。

 と言うより、ファバル皇国を後にした頃だ。

 バルフォンは巣に戻るとうるさかったため、本人の意思を尊重し、俺はラルフォードと共に、妹二人の居る国に来た。

 まず向かった先は四番目に生まれた、妹の元。

 突然家の中に現れた俺たち三人を見て、アイツは左右で色の違う目を見開き。

 その直ぐ後。

 バルフォンが猫を作る時に手本とした耳がピクリと動き。

 スカートの裾からのぞくしっぽが、ゆらりと揺れた。

「久しいな。リティエル」

「…………なぁに、二人もそろって。何かあったの?」

 俺が声をかけると、こいつは俺たちが来た意味を分かっていながら、ふざけた様子で返してきた。

「お前とて、わかっているのだろう……?」

「……なんの事かしら?」

 作り物の笑みを浮かべるリティエル。

 こいつは俺の知る限りでは、扱いにくい性格だ。

 そう考えていたらつい、ため息が出た。

 だが、こいつはそんなことを気にするような奴ではない。

 ……本題に入ったほうが良いな。

「お前も知っての通り、アルティファスが壊れた」

「………………だから、何……?」

 変わらずの笑みで問いを返してきた。

 こいつとて、今の現状がどれほど危険か。

 分かっているはずなのだがな……。

「ハァ……。兎の異形を気に入って構うのは良いが、俺たちの存在意義を見失うな」

「っ……分かってるわ」

「では、フィルファーニはどこだ……?」

「?! あの子は――!」

「リティ」

 反論しようとしたリティエルを呼び。

 ラルドはゆっくり頭を振ると、リティエルは作り笑顔を止め。

 顔を歪めた。

「……わかった。でも、お別れくらい。良いでしょ…………?」

 俺の方を向いて問うリティエルに、「手短にな」と伝え。

 リティエルと共に、リティエルが居た家から、フィルファーニのいる場所に移った。

 俺たちが見たフィルファーニは、椅子に腰かけ、楽しげに鼻歌を歌いながら、布に刺繍をしている。

「アーニャ。もう……『フィルファーニ』に戻る時間だよ」

「え……? っ…………!!」

 リティエルの言葉に、フィルファーニは鼻歌を止め、怪訝そうに顔を上げた。

 そして。

 俺たちを確認し、先ほどまで楽しげたったその顔は、青ざめ。

 絶望の色へと変わり、俺は言葉が出なかった。

 俺の代わりに口を開いたのは、ラルド。

「フィニ、リティ。お別れを……」

「ラルド兄さん。どぅして……? 私、私は――――!」

「フィニ。つらいのは、貴方だけではないのです。それに……このままでは、貴方の愛しい人は、確実に死にますよ?」 

「っ……!」

 フィルファーニは、ラルドの言葉に涙を浮かべ。

 それを見たリティエルは軽く目を伏せた。

「時間がないから、行くよ。フィニ……」

「えぇ……」

 そう言って、二人は消えた。

「ダン。二人はちゃんと、けじめをつけられると思うか……?」

「……無意識に忘れて欲しくないという意思がある限り、無理だな。行くぞ」

 そう言って俺たち二人はあいつらの後を追った。

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