第百十六話
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時間は遡り。
俺たち三人がシルヴィオたち。
と言うより、ファバル皇国を後にした頃だ。
バルフォンは巣に戻るとうるさかったため、本人の意思を尊重し、俺はラルフォードと共に、妹二人の居る国に来た。
まず向かった先は四番目に生まれた、妹の元。
突然家の中に現れた俺たち三人を見て、アイツは左右で色の違う目を見開き。
その直ぐ後。
バルフォンが猫を作る時に手本とした耳がピクリと動き。
スカートの裾からのぞくしっぽが、ゆらりと揺れた。
「久しいな。リティエル」
「…………なぁに、二人もそろって。何かあったの?」
俺が声をかけると、こいつは俺たちが来た意味を分かっていながら、ふざけた様子で返してきた。
「お前とて、わかっているのだろう……?」
「……なんの事かしら?」
作り物の笑みを浮かべるリティエル。
こいつは俺の知る限りでは、扱いにくい性格だ。
そう考えていたらつい、ため息が出た。
だが、こいつはそんなことを気にするような奴ではない。
……本題に入ったほうが良いな。
「お前も知っての通り、アルティファスが壊れた」
「………………だから、何……?」
変わらずの笑みで問いを返してきた。
こいつとて、今の現状がどれほど危険か。
分かっているはずなのだがな……。
「ハァ……。兎の異形を気に入って構うのは良いが、俺たちの存在意義を見失うな」
「っ……分かってるわ」
「では、フィルファーニはどこだ……?」
「?! あの子は――!」
「リティ」
反論しようとしたリティエルを呼び。
ラルドはゆっくり頭を振ると、リティエルは作り笑顔を止め。
顔を歪めた。
「……わかった。でも、お別れくらい。良いでしょ…………?」
俺の方を向いて問うリティエルに、「手短にな」と伝え。
リティエルと共に、リティエルが居た家から、フィルファーニのいる場所に移った。
俺たちが見たフィルファーニは、椅子に腰かけ、楽しげに鼻歌を歌いながら、布に刺繍をしている。
「アーニャ。もう……『フィルファーニ』に戻る時間だよ」
「え……? っ…………!!」
リティエルの言葉に、フィルファーニは鼻歌を止め、怪訝そうに顔を上げた。
そして。
俺たちを確認し、先ほどまで楽しげたったその顔は、青ざめ。
絶望の色へと変わり、俺は言葉が出なかった。
俺の代わりに口を開いたのは、ラルド。
「フィニ、リティ。お別れを……」
「ラルド兄さん。どぅして……? 私、私は――――!」
「フィニ。つらいのは、貴方だけではないのです。それに……このままでは、貴方の愛しい人は、確実に死にますよ?」
「っ……!」
フィルファーニは、ラルドの言葉に涙を浮かべ。
それを見たリティエルは軽く目を伏せた。
「時間がないから、行くよ。フィニ……」
「えぇ……」
そう言って、二人は消えた。
「ダン。二人はちゃんと、けじめをつけられると思うか……?」
「……無意識に忘れて欲しくないという意思がある限り、無理だな。行くぞ」
そう言って俺たち二人はあいつらの後を追った。




