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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の歩
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第十二話

 ロジャードが向かった先は、薬品のにおいが充満する室内。

 そこにいる人々は皆、白い白衣を羽織り、忙しそうにしている。

 その中で、ロジャードは彼らに指示を出している、左目の下に小さなほくろのある男に歩み寄った。

「王と王子に盛られた毒はまだ残っていますか?」

「……それが何か?」

 突然現れたロジャードの問いに、男は一瞬、訝しげに顔をゆがめたが、すぐに居住まいを正す。

「毒は分かっているのですか?」

「そ、それは、研究中、です……」

 男はロジャードの質問に、しどろもどろに言う。

 その様子に、ロジャードはため息をついた。

「解っていないのですね。では、王と王子は同じ毒を?」

「そ、それも、まだ……」

 あいかわらず、情けのない男。

(こいつ本当にこの場で指揮をとっていたのか?)

 この男が指揮を出していたところを見て、話しかけたロジャードの頭にそんな疑問が湧いた。

 らちが明かない。と、本題に入る。 

「……とりあえず、二人が飲んだ毒を見せていただけますか?」

「ですか――」

「後は確認をとるだけでなのです」

「?! あなたはこれが解るのですか?」

 驚く男は、ロジャードの肩を勢い良く掴み、揺らしながら言った。

「…………確信ではありません。お願いです、揺らさないでください……」

「え? あ。す、すみません! 毒はこちらです!」

 男は慌てて彼の肩を離し、ロジャードを毒のあるところに案内する。

(……一見。落ち着いた判断をしてそうにみえたんだけどな…………)

 軽く目が回ったロジャードは、外見に騙されたか? と思いながら彼の後に続いた。

「これが陛下と殿下に盛られた、毒の入ったものです」

 落ち着きを取り戻した男は、机上の、紅茶の入った二つのティーカップを手で示した。

「どうやら、毒が利くまでに時間がかかったようでして、零れずに残っておりました」

 そうですか。とロジャードはあいぐちを打つ。

「この紅茶は何の葉を?」

「ブレンドされた王家専用の紅茶です」

 男はロジャードに微笑んで答えた。

 ロジャードは秘密か。と、納得して質問を変える。

「では、それの中身を知っているものは?」

「絶対に居ません」

「その根拠は?」

「私の頭の中にしかレシピがありませんから」

 にっこりとほほ笑む男。

 ロジャードは彼の微笑みから、つい目をそらす。

(この笑い方……なんかひっかかる、と言うより恐怖感か?)

 ふと、一大事だというのに、どうでも良いことを思った。

(だが、こいつ絶対何十種類。いや、百近く混ぜ込んでやがるな)

 そうさっしたロジャードは、そうですかとだけかえした。

「では、それを見分けられるということは?」

「どうでしょうか。私は日によって茶葉を変えたり、今日のように総入れ替えしますから」

 この言葉にロジャードは、顔を引きつらせた。

「ちなみに、その中にアルフの茶葉が入っていますか?」  

 ロジャードは、毒入り紅茶のティーカップを手持つ。

「……なぜです?」

 ティーカップを持ったロジャードの言葉に、男は目つきが鋭くする。

 ロジャードは彼の反応を肯定と取り、手にある紅茶を一口飲む。

 男は目を見開き、彼を見つめる。

「?! それは――」

「アルフの茶葉には、この毒の効果を弱める効果があります」

 ロジャードは、驚愕する彼の言葉を遮って言った。

「?! では、アルフの茶葉を飲ませれば――!」

「無駄です。それではこの毒は解毒できません」

 ロジャードの言葉に驚きを隠せない男に、淡々と伝え、ティーカップを机上に戻す。

 男はその言葉に俯いたが、顔を上げ、ロジャードをひたりと見つめた。

「では、二つ。お聞きしても?」

「かまいません」

 ロジャードは男を見つめ、頷く。

「まず、『この毒』ではなく毒の名を。そして、貴方はその毒が平気なのか、教えてください。」

「…………毒の名はザバオルの樹液。またの名を……『もろともの樹液』と呼ばれています」

 ややためらったが、ロジャードは男に毒の名を告げた。

 そして、ロジャードの言葉に室内が静まり返り、室内に居る者たちは、それぞれ驚愕と絶望の表情で彼を見つめる。

 男も他の人と同様の顔で、こちらを見つめていた。

「そん、な……。あの猛毒は採取すら困難のはず――」

「えぇ。あれは『もろともの樹液』と呼ばれる通り、触れた者、匂いを嗅いだ者すべてを死に至らしめる。たとえ、触れないように、嗅がないようにしようとも……」

 ロジャードの言葉に、息を飲む音が聞こえた。

 男は毒の名を聞き、驚愕と絶望の表情から、完全に絶望の表情に変わる。

「では、この城にいる者たちは――」

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