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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
138/185

第百十一話

 けれど。

 私の中の不安は消えずに、増すばかり。

 うーちゃん、遅いな……。

 しーちゃんも帰ってこないし。

 この状況。

 どうしたらいいのかしら……?

「テファさん。何かあったのか?」

 そう言ってきたのはフォード。

「あ、何でもないわ」

「……そんな顔に見えないよ? ね、ルルク」

「そうだよね、ルルカ」

 二人はそう言って顔を見合わせて、軽く微笑んだ。

「ルルカ、ルルク。騙されないわよ?」

 まったく、この子たちったら……。

 逆じゃないの。

 もう……。

「「え? 何のこと?」」 

「とぼけてもダメよ? ルルク、ルルカ」

 そう。

 フォードの次に話しかけてきた方が、ルルク。

 その次がルルカ。

 それぐらいわかるのよ?

 しーちゃんじゃないんだから。

「「ちぇ、ばれちゃった!」」

「うふふ。そうね、しーちゃんなら間違いなくわからなかったと思うわ」

 だって、あの子。

 人の顔を覚えるのが基本的に苦手だもの!

 おまけにこの子たちはそっくりの双子。

 初対面だと、人の顔を見ているようで見てないしーちゃんが、見分けられるわけ無いのよね……。

 なんて、現実を忘れて考えていたら、今度はルルカが楽しそうに笑って言ったの。

「しーちゃんって、からかうと面白いよね!」

「うんうん! 今でもウチらの見分けられてないし!!」

「でも~」

「あのくらいが」

「「ちょーど良いよね~!」」

 そう言ってルルカとルルクはいたずらっ子の笑みを浮かべていたわ。

 しーちゃん。

 これもまた、お勉強よ。

 頑張りましょうね。

「おねぇちゃん?」

 そう言ったラティが軽く服を引っ張られたので、しゃがんで目線を合わせた。

「どうしたの? ラティ」

「んとね。えっとね。……………………わすれちゃった……」

 ラティは、必死に何か言おうと頑張っていたのよ?

 でも、言葉通り忘れちゃったみたいで、頭を左右に傾けているの。

 ……危険だわ!

 幼児趣味の変態に連れて行かれたらどうしましょう!!

 あぁ!

 そうだったわ、家の外に得体のしれない魔術が展開されていたんだったわ!!

 ど、どうしましょう!

 …………なんちゃって!

「フォード。皆をお願いね」

「え? テファさん、どこかいくの?」

「えぇ。ちょっとね」 

 私は怪訝そうにしているフォードに微笑んで、自室に向かって、剣を二本。

 そのうち一本は腰に紐を巻いて、挿して、もう一本は手に持った。

 本当は手に持ってる一本でもいいかなと思ったんだけど。

 剣が折れないって保証はないもの。

 そう思って一本余分にね。

 ……これを使わなくて済むと良いのだけれど…………。

 でも、あの子たちに危害を加えるようなモノであれば。

 確実に排除、しなくきゃね……。

 私はそう思い、家を出た。

 外には、巨大な魔術の陣が、地面より少し上の方で浮かんでいた。

 今のところ、嫌な気配はない。

 でも、警戒することに越したことはないわ。

 …………そして、この家は。

 誰にも傷つけさせたりはしない……!

 私は……。

 シルヴィオ・レファニア・ファバル殿下に。

 絶対の忠誠を誓いし者。

 あの方は私の絶対。

 あの方が守ると決めたモノを、私は命に代えても守って見せる。

 以前のように。

 すべてを抱え込んで、一人で苦しんだりしないように……。

 必ず。

 必ず。

 私が、お守りいたします。

 愛しく、可愛い。

 大切な。

 大切な、主様……。

 


 ――――――

 

 ――――



 

 所戻って、エドレイ王国。

 セメロ公爵邸・サロン。




 ニコは、母さんを不安にさせた挙句。

 落ち込ませ。

 このことに気づいて狼狽えたかと思ったら、なんかドヤ顔で俺の方を向いて来たんだ。

 まぁ。

 『自分で何とかしなさい』って意味も込めて、冷笑を浮かべてやったさ。

 ……次の瞬間に涙目になったから、助け舟は出した。

 それからちょっとニコをからかったら、幻想の世界に飛んで行ってしまった。

 この癖には困ったものだ。

 本人はあんまり気づいてないせいもあるんだけど。

 ちょっとやそっと揺らしたくらいでは戻ってこないからなぁ……。

 そこで現実に連れ戻す方法。

 それは、手を叩いて音を立ててやること。

 二回ぐらい音を立ててやれば驚いてすぐに戻って来る。

 基本この子は素直で単純だ。

 まぁ。

 そこが可愛いんだけどね。

 無害感があって……。

 あぁ。

 そう言えは前にとってもリアルなニコの肖像画が、高値で取引されてたな……。

 そして、その肖像画を買った奴らの鼻息が荒すぎて気味が悪かった。

 ……成長した、とは言えないが。

 時間の経過で、そう言う危険そうな奴らが居なくなっていると良いが。

 恐らく、無理だろう……。

 そう考えたら、知らず知らずのうちにため息が出た。

 まったく、この子の将来が心配だ。

 そう思ってニコの方を見たら、口をへの字に曲げていた。

「ニコ、どうした?」

 問うと、どうもしないと返事。

 俺はこれに、ならばどうしてそんな顔をしていると問う。

 返事は「元からだもん」と来た。

 そして、腕を組み。

 誰もいない方に顔をそむけている。

 ……完全に拗ねてるな…………。

 機嫌を取ろうにも、菓子を持っていない。

 さて。

 この拗ねてヘソを曲げた子供を、どうやってあやそうか……。

「フン。お兄様は『卑屈』だって言われてるの知ってるんだから!」

 ほぉ……………。

 俺をそんな風に言うやつが居たとは知らなかったなぁ。

 どこのどいつだ?

 んなふざけたこと抜かず馬鹿は。

 などと、思っていることは顔に出したりはしない。

 雰囲気に出ているとよく言われるが、いちいち気にかけたりするものか。

「……誰がそんなこと言ったんだい、ニコ?」

 ニコ。

 そんなに困惑して、どうしたんだい?

 あぁ。

 その顔は、口に出した覚えがないって言いたそうな顔だね。

 ふふふ……。

「なに困惑した顔してるの。ニコ? ばっちり聞こえたよ『お兄様は『卑屈』だって言われてるの知ってるんだから』ってね?」

 ほら、そんなばつ悪そうな顔してなくていいから、お答え?

 可愛いニコにそんなことを吹き込んだ奴を。

 俺が抹殺してくるから。

 ね……?

「あ、あははは! えっとね、絵本に出てきたんだよ!」

 引きつった顔でニコは素直に答え。

 俺は、ニコの言った『絵本』と言う単語で確信を持った。

 そして。

 こんなことをできる奴は、俺の周りには三人。

 しかし、二人は俺をほとんど知らなければ、興味もないだろう。

 ここで一人に絞れる。

 この推測を確かなものとするのは、ウェルとニコが話していた内容。

「ふふふ。ニコは素直で良い子だね。ふふふふふ……。母さん。来てそんなに立たないけど、帰るよ。……大事な用事が出来たから」

 そう。

 大事な用事が、ね……?

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