第百七話
つい呆れてしまった……。
こんなにニコが泣いているんだ。
抱きしめてあげればいいじゃないか。
え?
俺が抱きしめてやれって?
無理だよ。
俺じゃ。
だって、この場で一番ニコを癒せるのは母さんだから。
それに。
俺は昔ニコが可愛くて可愛くて、構い倒したらちょっと距離をおかれてしまったしな……。
それに、国に戻った俺は。
以前のようにエドレイに長く居ることはできない。
だったら。
狂わせたものを、また元に戻さず。
再び新しい形に変えてしまえば良い。
では、何をするか。
決まっている。
ニコに正式にセメロ邸の娘になることを決断させる。
それとなくでも、ほんの少しでも良い。
俺が常に傍に居ないことを知らせるんだ。
きっとニコには、無意識のうちに俺の思う方に転がってくれる。
ふふ。
この子はそう言う子だから……。
「ねぇ、知ってる?」
そういって問う。
ニコの声。
その声は、聞いたこともないほど、冷たい。
「あたしを産んでくれた人は生まれたあたしの姿を見て、ひどく落胆したんだよ。『こんな不気味なのいらない』って。だからお爺とお婆に押し付けた。でも、二人はあたしのせいで殺された。あたしを引き取りたくなかった二人は……」
笑みを浮かべて、必死に冗談のように言おうとしているようだが。
その表情は様々な感情に歪み、笑みと呼べない、顔で言い。
涙が頬をすべり、床に落ちた。
それから一呼吸おいて。
「遠く離れた王都の裏道に、あたしを捨てた。うわべだけの笑顔を張り付けて、『ここで待っていてね』って」
再び顔を歪めたニコ。
握りしめられた小さな拳は、小刻みに震え、力がこもっていることが見て取れ。
これ以上、ニコに口を開かせたくない衝動に駆られたが、必死にそれを抑えた。
ニコは、自嘲するかのように小さく笑った。
「腕に、【化け物】じゃない、二人に良く似た赤ちゃんを――――っ!!」
驚いた顔で言葉を止めたニコ。
そして、ニコに言葉を止めさせたのは、他でもない母さん。
母さんは床に膝立ちになって、ニコを抱きしめた。




