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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
134/185

第百六話

 ――ぽた、ぽた。

 小さな音と共にニコラの着ているワンピースに水滴が落ちた。

 隣では、顔を覆って涙を隠す母さん。

 二人は。

 完全にすれ違っていた。

 互いが互いの事を思ったがために……。

 こういう時は、感情を吐き出す手伝いをしてやることが、一番だと思う。

 だから、隣に座る。

 強がりで、無邪気な、優しい母さん。

 俺は少しでも、不安を取り除きたくて。

 その華奢な背を撫でた。

 母さんは、顔を覆っていた手を離し、少し驚いた顔をして、こちらを向く。

 その時の振動で、母さんの着ているドレスには。

 涙の雫で小さなシミが出来た。

 俺は、少しでも母さんに落ち着いてほしくて、微笑んでみる。

 だが、あまり効果はないようで、母さんは困惑気だ。

 …………困ったな……。

 ただ俺は。

 再びニコと向き合ってほしいだけなんだ……。

 以前と同じ様。

 とても仲の良い。

 母子に戻ってほしい。

 そう思うのは。

 二人の関係を狂わせた、俺の……。

 ……身勝手な願いだ。

「っ……ぅ」

 小さくて、抑えつけたような嗚咽が、ニコから聞こえ。

 膝の上で、小さな両手を握りしめていた。

「……っ。お、かぁさま…………。おかぁさま、お母様、あたし。あたし、そんなこと思ったことも、言ったこともないよ……! なんで、なんであたしが、お母様を嫌いにならないといけないのっ……?!」

 さっきまで座ってたソファーから、ニコが勢いよく立ち会がり。 

 涙に濡れ、悲しみにくれた赤い瞳が。

 まっすぐに。

 こちらを向いている。

 俺と違い。

 まっすぐで、澄んだ赤い瞳。

 それは宝石のように美しかった。

「お母様はあたしのたった一人の『お母さん』だよ!! なのに、お母様は『夢のあたし』を信じるの? 『現実のあたし』を信じてくれないの? 見てもくれないのっ?!」

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、必死に言葉を紡いだニコ。

 きっと、この二年間で溜まっていた不安が、母さんの言葉で爆発しているんだろう。

 そして母さんは。

 ニコの様子で一瞬にして泣き止み。

 訳が分からない様子でおたつき。

 とりあえず泣き止ませようと手を出そうとしたが、慌ててひっこめ。

 その後。

 顎に軽く指先をあて、おろおろし始めた。

 …………何やってるんだ、この人は……。

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