第百四話
こんな姿なのに、依然と変わらずに接してくれて、ありがとう。
なんて、気恥ずかしくて言わないが……。
感謝と謝罪の気持ちを込めて、優しく背を撫でる。
「……って、お兄様?! なんで、さっきいなくなったじゃん!!」
とニコラの声と同時に、扉のノブが壁に勢いよくぶつかり、激しく音を立てた。
「ん? あぁ、ニコ。おかえり」
顔を出していた地点で気づいていたが、とりあえず本人は気づかれていなかったと思いたいだろう。
この子はそういう子だから。
……いつみてもこの子は微笑ましいな。
「え、あ。ただいま……?」
ぽかんとしたまま、返事をするニコ。
その姿は昔のままだ。
……とこでニコ。
壁。
凹んでるように見えるのは、俺の目の錯覚かい?
しかし、本人はそれを見らずとも、気づいているのか、徐々に俯いてしまった。
そうだよな。
ニコ達が頑張って手入れしている家だ。
傷つけたなんて、落ち込んでもおかしくないか……。
……ウェルに直させるから、安心しておくれ。
だからそろそろ顔、上げてくれないか?
元気印のニコを落ち込ませているみたいだろう……?
からかうのは大好きだけど、落ち込ませるのは好きでは無い。
この子は元気に笑っていてくれれば良い。
輝く笑顔を持つ子だから。
だが、困ったな。
落ち込んだニコになんと声をかけたらいいのか、分からないんだ……。
この子は常に明るかったから。
いや。
明るい所しか、見せなかったのかもしれない。
そう考えていたら、ニコが勢いよく顔を上げた。
「おかえりなさい。お兄様……!」
浮かべていた笑顔は、依然と同様。
酷く輝かしいモノだった。
心配をかけたのに、それを口にしない二人の優しさが、少し。
痛かった……。
だが、それを表に出したりはしない。
だから、代わりに微笑むことにする。
「…………あぁ。ただいま、ニコラ。母さん……」
二人の名前を呼んだ時はニコと母さんの方を向いて、言った。
ニコについては、愛称でなく、ちゃんと名前で呼んだ。
その方が、ニコ本人に言えたような気がした。
短くなってしましましたが、読んで下さり、誠にありがとうございます。
明日に続きます。




