第百三話
視界は切り替わり、セメロ公爵邸・サロン。
ちなみにこの国は、ファバルからだと何十日とかかる、らしい。
詳しいことは知らん。
ただ、そうらしい。
そのため、俺もこの国のどこに誰が居て、何をしているのか。
なんて。
このままの姿では無理だ。
と言うか、俺があの姿になりたくない。
良いか。
背中に黒の翼だぞ?
しかも片方。
……中途半端過ぎる…………。
そのうえ、気味が悪い。
何より俺があの姿が嫌いだということもある。
よほどのことが無ければ、絶対に出しはしない。
…………切り落とすか……?
……またすぐに生え変わりそうだな。
「ろ……い、ど…………?」
驚愕と歓喜に混乱している母さん。
もといセメロ公爵夫人。
一言良いか?
なんでわかった……。
と言うより。
普通そこは不審者の侵入に悲鳴あげるか何かするべきじゃないか?!
俺の基準がおかしいのか?
俺の頭がおかしいのか?
自意識過剰なのか?
大体な……。
髪の色も、目の色、顔の形も違うんだ。
ロジャードの時とはまるで違う。
そのはずなのだが……。
そう思っているのは俺だけなのか?
いや。
さっき会ったウィルロットは困惑していた程だ。
マディティス大尉については、あの人は勘が鋭い。
その上気配だとか何とか言ってたしな。
あの人はもう変人と言うことで片づけよう。
今は、目の前の問題と向き合おう。
それは言うまでもないが、俺の目の前。
大きな琥珀色の瞳を潤ませて、両手の白くて細い指で口元を抑えてる、母さんだ。
えぇっと……。
――ガチャ。
どうしたらいいのか分からずにいたら、サロンの扉が少し開いた。
その隙間からひょこっと、顔を出したのは、ウサギの耳に、ボブカットの黒髪少女。
ニコラだった。
やはり、戦場に向かう前に見た姿と変わらず、小さい。
……見間違いではなかったようだ。
とか考えていたら。
ふわっとした優しい匂いと、程よい暖かさのモノに抱き着かれた。
一瞬わからなかったが、すぐに答えは出た。
…………母さんだ。
母さんが、抱き着いて来たんだ。
小さく聞こえる嗚咽。
それはもちろん母さんから。
正直に言ったら、嬉しい。
けれど。
この状況をどうしろと……?
…………と、とりあえず。
あやす。
それが一番だ。
俺はそう考え、母さんの背に手を回した。




