第百二話
「ただ今戻りました。兄上」
着いた先は、兄上と兄さんがいる王宮。
そして、兄上の執務室。
「あぁ。おかえり、シンディ。エドレイはどうだった」
そう言ったのは兄上。
兄上は書類の載った机に向かっていたが、俺が帰ってきたのを確認してか、こちらを向いた。
ちなみに、室内には兄上と数人の護衛。
前室には同じく護衛が居る気配。
兄さんはいない。
まぁ、兄さんには後で伝えるとして、俺がここに来た目的はエドレイと同盟を結ぶことを伝えるため。
それと同時に、エドレイに進行しないよう伝えるためだ。
異形の異変とかの報告はしない。
そもそも兄上たちにはそのことを言っていないしな。
だから、異形の異変についてはダンドルディック達に報告すべきだ。
なにより、異形や世界の異変は、人間には解決は不可能。
それが分かっているからこそ、不安を煽ることはしない。
「はい。エドレイ王に、我が国と同盟を結ぶ事を了承させてきました」
「そうか。で、その書類は…………?」
兄上は机の上で手を組んで、怪訝そうな顔で問う。
……もちろん。
俺は手ぶらだ。
そう考えたとき、背後に気配を感じた。
軽く振り返って確認したが、よく見たことのある光の柱。
一瞬後。
出てきたのはウェルコット。
こいつも手ぶら(と言うわけでもないが、そう言うことで)だ。
「………………なぁ、ウェル。俺、アイツに『同盟についての書類』って書かせたか?」
「ぁ……。そう言えば…………」
「俺、アイツに書かせた記憶がないんだが……」
「……申し訳ございません。書類そのものを持っていっておりませんでした」
勢いよく頭を下げたウェル。
いや、お前のせいじゃねぇし……。
俺もころっと忘れてたしな…………。
「すみません、兄上。戻って書かせてきます」
「あ、あぁ……。行って来るといい」
そう言って、兄上は伯父上と同じ薄い青の瞳を細めた。
俺たちは頭を下げ、退室し、前室を抜け。
廊下を歩く。
「ウェル。ダンドルディック達に報告を頼んだぞ」
「え? あの、私もニコラに訪ねそこねたことがあるのですが……」
そう申し訳なさそうに言ったウェルに、俺はそうかと言い、続ける。
「俺がついでに聞いて来よう」
二人でところに行っては、時間の無駄だ。
「……では、『他に異常がないか』と」
そう言ったウェルの表情からは、若干混乱の色が見て取れた。
まぁ、あたり前か……。
「…………あぁ。では、ウェル。こちらは頼んだ」
俺はそう言い、兄さんの居る部屋に向かうため。
近くの曲がり角を曲がり、ウェルと離れた。
その際。
ウェルの返事が聞こえた。




