第九十九話
「ふっ……」
あ。
つい笑いが漏れた。
そして横から鋭い視線。
ウェルだな。
変態だな。
幼児趣味か……?
「…………シルヴィオ……おっと失礼。私はウェルコット・オルバーナと申します」
おそらくさっきウェルが言った謝罪の言葉は俺に向けられたものではない。
ニコに向けた言葉だな。
まったく【守護者の聖域】。
つまり、ザバオルの林で倒れて毒に蝕まれ。
死にかけていたお前を拾ってやったのは誰だと思っている。
まぁ。
ウェルは俺の家族の様なものだ。
気にはしないさ。
さて。
どうでも良い話してるウェルとニコ。
おい。
時間ねぇからさっさと帰るぞ。
まったく、全然思い通りにすすまねぇな……。
「おいウェルコット。その辺にしておけ」
「ふふ。そうですね。正解は、私が魔導師だからですよ」
おい。
まだその話つづけんのか……。
いい加減にしろよ。
「……魔導師?」
「えぇ。世間一般で知られている魔術師や魔女。それらを育成する、いわば教師のようなものです」
「てことは、偉いの?」
「えっと……――――」
馬鹿め。
純粋なニコの質問で追いやられてやがる。
まぁ。
言えねぇよな。
『家族と恩師の娘を助けるために禁術使って記憶いじくって逃げました』
なんて、墓穴を掘るだけだ。
変なことになる前に、助けてやろう。
「その辺にしておいてあげなさい、ニコ。ウェルコットは脱走者だからね」
俺はそう言って、ソファーから腰を上げ。
無言でウェルに帰る意思を伝える。
そして、なんとなくニコの方を向いた。
もちろん。
可愛いニコの顔は見えない。
……ニコ。
君はこの二年間の間にどれほど大きくなったんだろうね。
可愛い妹の成長を見てやれなかった事が少し、悔しいな……。
「?! おにい、さま……?」
そう言ったニコの声は震え。
動揺が手に取るようにわかった。
だが、そんなに動揺することだろうか?
まぁ。
気になどしない。
「久しぶり。ニコ」
俺は安心してくれることを少し願って言葉を紡いだ。
そのおかげが、少し動揺が収まったように感じられた。
「本当に、お兄様なの?」
訝しげに問うニコ。
そうだよな。
こんな爺が俺だって簡単に認めるなんて、無理あるよな。
「なんだ。気づいたわけじゃなかったんだ」
「だって、ディティナが教えてくれたから……」
……どういうことだ?
ディティナは馬だぞ?
馬は人語を話さない。
その上、人は人以外の動物の言葉など、わかるはず無いんだ。
それでもニコは馬がしゃべったというのか?
「…………ディティナもいるのか?」
俺がそう言うと、カポカポと蹄の音が聞こえ。
近づいてきたのが分かった。
空気の揺れに近い所に手を伸ばす。
と、そこに柔らかな毛と、ぬくもりを感じた。
……本当にいたんだな…………。
一応室内のはずだがな。
まぁ、王が何も言わないのなら俺は何も言いうまい。




