第九十八話
「ところでさ、君たち。いつの間に昔みたいに戻ったの?」
そう言ったのは紛れもなく俺の前に座るアホ。
……もうこいつの相手に疲れた。
誰か何とかしてくれ……。
俺はそう思って深くため息をついた。
「あははは! ウィルもロイドもなにため息ついるんだい?」
お前のせいだよ。
馬鹿王。
すこし黙ってろ。
ま、さっさと用を済ませて帰らねぇとな。
「で。返事はどうだ?」
「ん? 返事……? 何かあったか?」
小首をかしげる馬鹿。
……もう帰っていいか?
やらなければならないことが詰まりに詰まってんだ……。
「……陛下。同盟のお話です」
言ったのはウィル。
声からして呆れていることが分かる。
「あ。そういう話してたような気がするな」
「陛下。その頭は飾りですか? 被り物ですか? 空っぽなのですか?」
「ウィル。そんな笑顔で怖い声出すなよ! なんでそんなに低くて怖い声なんて出せるの?!」
と、馬鹿はウィルに叫んだ。
声からは、怯えたと、恐怖と言ったモノを感じた。
その時。
この部屋の前の部屋。
つまり俺たちが居る部屋に続く、前の部屋の扉がカチャリと音を立てて開く音がした。
あぁ。
きっとルーフ近衛だろう。
ていうか、遅すぎのような気もするが。
まぁ。
そこは見逃してやる。
もし。
侵入者が居て、ルーフの命を狙ったとしても、傍にウィルロットが居る。
だからすぐに彼が片づけるだろう。
こいつの剣術の腕はノエルさん譲りだからな。
俺はこいつに剣術で勝ったためしがない。
そういえば、最近忙しすぎて本格的に剣を握っていないな……。
鈍って居るだろうな。
なんて考えてたら、この部屋の扉が開いた音が聞こえ。
ウィルロットが剣を抜いたであろう気配と、素早く移動した気配がした。
刹那。
剣のぶつかる音が聞こえ。
入ってきた者からは焦りの様な気配を感じた。
「ウィ……お兄ちゃん。危ないじゃん!!」
聞こえたのは酷く懐かしく感じる声。
「ニコちゃん?! え? どうしてここに? 帰ったんじゃ――」
続くウィルロットの驚愕と焦りのこもった声。
俺は彼の声で動けなくなった。
……ニコが、どうしてここに?
「それは後! ディティナ、どれ?」
え?
ディティナもいるのか?
……忘れていたが。
なんで俺、馬に母上の名前を付けたんだ…………?
母上に失礼すぎる。
…………不本意だが、帰ったらすぐに母上のもとに謝罪に行こう。
国が元通りになってからと決めていたが、さすがにそれは失礼すぎる。
……そうしよう。
さて。
話を戻そうか。
なんでここにニコが居るんだ?
俺が居たときは、この日は確実に屋敷でノエルさんの手伝いをしていたはず……。
というより、屋敷から出るのをあまり好いていなかったような気がするが。
まぁ。
その辺は二年たったんだ。
成長したのだろう。
それと。
さっきから騒がしい。
その上、ウェルが魔術を使ったような気配もした。
……魔術の使い過ぎて倒れかける癖に、こいつはいったい何をやっているんだ…………。
ニコが驚いでいるだろう。
「お会いするのは初めてですね。ニコラ」
そう親しみのこもった声で言ったのはウェルコットだ。
ニコからは困惑している気配。
長い沈黙の後。
それに続く『誰?』と言う言葉。
……まぁ。
そりゃそうだよな。
ニコはウェルにあったことも話したこともないはずだ。
となると……。
ウェルが勝手に見ていただけか。
一方通行だな。




