第九十六話
「前から思っていたのですが、大尉は変な人ですよね……」
しみじみと言ってシルヴィオが頷くと、マディティスは困ったように顔を歪めた。
「お前の親父さんほどじゃないさ」
「……まぁ、そうですね…………」
シルヴィオは痛い所を突かれた、と苦笑し、マディティスはそんな彼に表情を引き締めて問う。
「で。お前はなんでまた目を閉じているんだ……?」
「……見えないんです」
「そうか……。では、何があった。何故お前はそんなに年を取っている?」
「あー……。そうですね……。『生き物としての領域を超えてしまった』。と言ったところだと思います」
「何がなんなのかさっぱりだが、まぁ、そう言うことで納得しておいてやる」
「ありがとうございます。さて、エルセリーネ。大尉にかけた呪いを解け」
「……はい。シルヴィオ様…………」
振り返り、そう言って頷いた彼女は、スッと両手をマディティスに差し出し、微笑みを浮かべ。
『戻っておいで』と優しく声をかける。
その声によって、マディティスの体からは黒い煙のような風が抜けだし、彼女の手のひらに集まり、消えた。
「おい、ロジャード。今のはなんだ」
「私があなたを殺すために仕掛けておいた呪いです」
さらっと答えた彼に、マディティスは顔をひきつらせた。
「…………お前。確かちゃんと、俺を敬ってくれてたよな……? 確か、俺の行動は尊敬に値するっていってなかったか?」
「はい。今でも尊敬しておりますよ」
「『信じてはいない』ってか……?」
目をそらして諦めたような顔でフッと笑うマディティスに、シルヴィオは満面の笑みだけで返答。
「……曲者ばかり生きてやがる」
「大尉と私、ウィル。たったの三人だけですよ」
「俺を除いた二人が曲者な上、厄介者でな……」
「そんなことありませんよ。私と彼は、ただ生き延びることに必死なだけでしたから」
困った顔で言った彼に、マディティスはふっと微笑んだ。
「まぁ、元気そうで何より。俺は警備だのなんだのがあるのでな、失礼するとしよう」
「あ、はい。すみません、お仕事の邪魔をしてしまって」
「いや、気にするな」
ではな。そう言ってフッと笑ってマディティスは居なくなった。




