第九十一話
「…………………………」
「うん。クラジーズ、無言の拒否やめて。もぅちょっとだから~ん…………いや~ん。皆に無言で死ねって言われたぁ!」
「バルフォン……? 殺されたいのか」
そう言ったのは腕を組んで眉間に皺を寄せたラルフォード。
「あはははは! ラルド、疑問形無くなっちゃってるよ~ぅ」
「……………………」
彼の笑顔が気に入らなかったのか、ラルフォードが剣の柄に手をかけた。
それを見たダンドルディックは疲れた様子で彼の肩に手を置く。
「ラルド。バルは元からこうだっただろう? もう、あきらめろ」
「……分かっている」
彼の言葉に、ラルフォードはしぶしぶと言った様子で手を下ろす。
「え? 分かっちゃったの?! なんで! ボクチャンフツーだよ!!」
「おい、古。いい加減にしろ……。なんなら、生け贄に使ってやろうか」
低く粗い口調。
これに顔を強張らせたバルフォン。
「い、いやだな……。ク、クラジーズ。確かに生け贄使ったら簡単になるけど、それに僕を使おうとしないでよ」
「じゃぁ、さっさとやれ。一人で支えるのに限界がきてんだよ」
クーはそう言って人形の様に綺麗な顔を歪め。
バルフォンは指で自分自身を示し、首をかしげる。
「あれ。せっかく僕っ子やってみたのに、反応なし?」
「…………よほど生け贄になりたいようだな……」
「い、いやだな! ちゃんと手伝うよ!!」
鋭くなったクーの目を見て、バルフォンは慌てて先ほどまでいた場所に戻り、クー同様両手をかざした。
その様子に、ラルフォードは小さく笑い。
ダンドルディックは腕を組んで高く、暗い天井を見上げた。
◆◆◆
程よい大きさの家から出てきた二人・シルヴィオと、ウェルコット。
彼らの体を包む、外套代わりの長いマントの裾が風にあおられ、膨らむ。
季節は春。
冬と比べると温かいが、風はまだ冷たい。
「……行くぞ、ウェル」
シルヴィオはそう言いながら、マントについているフードを目深に被り、消え。
ウェルコットも後を追うように消えた。
二人が向かった先はエドレイ王国。
遠く離れた場所ではあるが、彼らにはたいした距離ではない。
こうして、一瞬にしてエドレイについたシルヴィオ。
彼はあたりを軽く見渡した。
(記憶にない場所だな……。だが、ルーフの気配はこの扉の向こう。まったく、護衛が一人って、どういうことだよ……)
そう考え、彼は呆れて深くため息をついた。
(ウェル来てねぇけど、さっさと話しつけるか……)
シルヴィオはそう考え、扉を開け。
室内に入った。




