第九十話
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薄暗く、冷たい壁に挟まれた螺旋階段。
固い長靴が石段に当たるたび、響く二つの足音。
先を行く黒髪長髪のダンドルディック。
彼の背を追う、鳶色の髪の青年・ラルフォードが口を開いた。
「ダン。あの子たちはとても素晴らしい、そう思わないか……?」
「…………あぁ。だが、あれらの居る大陸が、この世界で一番大きい……。半分ほど制圧したくらいでは、なんともいえん……」
ラルフォードの落ち着いた声に、ダンドルディックは彼を振り返ることも、足を止めることもせず、階段を下りながらそう言った。
彼の表情はとても複雑で、不安といった感情が大きいように見える。
「そうだな。まだ他にも大陸があったな……。だが、たったの一年ほどであそこまで広げるとは、驚きだ」
「…………化け物と、化け物級の魔術師。二人居れば当然であろう」
めんどくさげに言葉を紡いだダンドルディックに、ラルフォードは小さく笑った。
「ラルド。何がおかしい……?」
「いえ。あなたがそこまであの子らをかっているとは、驚きだと思ってな。やはり、愛着があるか……?」
ラルフォードの言葉に、先ほどまで一度も歩を止めなかった彼が、足を止め。
「………………さぁな…………」
そう短く言うとまた、階段を下りて行った。
これにまた小さく笑ったラルフォードは、彼の後を追う。
石造りの螺旋階段には、再び二人の足音だけが響いた。
それからしばらくして、彼らはそこを抜け。
目の前に広がる薄暗い空間の中央。
そこにある淡い光。
それの前に居る、青い髪を後ろになでつけた男と、長い白髪の少女。
つまり、バルフォンとクーの元に向かった。
「バル、クー。順調か……?」
「あ。ダン! それがさぁ~……――ごめんなさいちゃんとします! だからラルド剣抜かないで!!」
クルッと笑顔で振り返ったバルフォン。
しかし、次の瞬間には懇願に入った。
これに、ダンドルディックはため息をつく。
「ラルド、止めろ。これ殺しても、崩壊が早まるだけだ」
呆れ顔のダンドルディックの言葉に、ラルドは抜こうとしていた剣を納め、手を降ろした。
「それで、どうなんだ?」
「あ~……それなんだけどねぇ、アルティファス。結構抵抗しているよ……やっぱり、そう簡単に繋がれてくれないみたいだよ」
困っちゃった、と言って肩をすくめたバルフォン。
「そうか……。まぁ、そうだろうな…………」
「ねぇ、いにしえちゃん? いつまで私一人にこれを任せてるつもり?」
クーはそう言って、一枚の紙に手をかざしたまま、首をひねって彼らを見て言った。
「あ、あ~……。もちょっと待って」
バルフォンはそう言って、へラッと笑う。
クーの目と表情は、死んだ。




