第八十九話
彼は、傀儡となっていることを知りつつも、何もできない伯父のため。
戦場に立った。
そして、それが終わるとともに。
傀儡を操る大国の懐に潜り込み、それを消した。
同時に、自身の存在も……。
幼かった彼には、それが正しい選択に思えたのだ。
彼はそれをきっかけに、世界を彷徨い。
エルセリーネを作り、人となり、力尽きたところを拾われた。
心優しきセメロ公爵夫妻に……。
(父さんと母さん、ニコ。皆、元気だろうか……?)
ふっと遠く離れた地に思いをはせたシルヴィオだったが、すぐ傍にウェルコットが現れたため、その思考を消した。
「来たか」
シルヴィオはそう言うだけで、ウェルコットの方を向かずに声をかけた。
「はい。……やはりというか、なんというか。と言った感じですね……」
そう言ったウェルコットの表情は無。
彼の隣。
みえない箱に入れられた王は、必死にそれに手を打ち付ける。
声も上げているようだが、ウェルコットの魔術で作られた箱のためか、シルヴィオたちには届かない。
おそらく王はそれに気づいていないようだ。
「あぁ。まぁ、当然だな。さっさと終わらせて、次に行くぞ」
「わかっていますよ。で、これ。どうやって始末します?」
無表情で問うウェルコット。
彼にシルヴィオはめんどくさげに頭を掻いた。
「その辺に断頭台作って終わらせろ」
「……断頭台って…………。また、面倒なことを」
眉根をよせて、ウェルコットはため息を一つ。
「…………では、エルセリーネ。正しく納めている者以外。すべて、やれ……」
シルヴィオはウェルコットに言葉を返す代わりに、エルセリーネに指示を出し。
彼女はすぐさま行動を起こした。
「?! ちょ、うわぁ!」
驚愕を示し、叫んだウェルコット。
そして、そんな彼の隣。
王の入っていた見えない箱は、全面赤色になっていた。
「殿下……」
「その呼び名をやめろ。次に行くぞ。ウェル」
そういってシルヴィオは姿を消した。
残されたウェルコットは顔に手を当て、緩く頭を振り、彼の後を追った。




