第八十八話
そう言ったのは、光の柱から現れたウェルコット。
シルヴィオはそれを見て、一つため息をつく。
「…………ウェルコット。今すぐ解け。命令だ」
平坦に告げたシルヴィオ。
ウェルコットはそんな彼に、困った顔でゆっくりと頭を振った。
「この者は、民の前で裁くべきです。そう、思われませんか……?」
「……………そうだったな……」
シルヴィオはまっすぐな眼差しを受け、ため息交じりに言い。
行くぞ、と付け足す。
ウェルコットはこれに返事と共に頷き。
シルヴィオは先に城の外――つまり城下――へ。
あとを追って、ウェルコットは捕らえている王と共に彼の元へと飛んだ。
「さて、オグダンの民よ。そなたらは、何もせず、国庫を食い荒らすしか能のない者を生かすか? はたまた殺すか? 決定権はそなたらにある」
先に城下の広場に姿を現したシルヴィオ。
彼はエルセリーネを使い、オグダン王国中に言葉を飛ばした。
広場に突如現れた彼に対し、驚きをしめす者。
彼の言葉に顔を歪めた者。
反応は様々だ。
「殺せ」と叫ぶ者。
「王侯貴族には死を」と声を上げる男。
そんな声を聞きながら、彼はエルセリーネを通じ。
オグダン王と貴族に対し、嫌悪と憎悪の感情を抱いていることを確認した。
同時に、九割の民はそれらの死を望んでいることも。
残りの一割は、一人の貴族が納めている領地のみ。
(よほど、この領主は領民に慕われているようだな……。まぁ、知ったこっちゃねぇがな)
そう考えたシルヴィオの頭にあるものは『所詮は他国。自国ではない』。
つまり、彼にとってみれば。
王を殺そうと、国を消そうと、何も感じない。
彼はそう、割り切っている。
その線引きは残酷だ。
しかし、彼はそれより残酷なものを見て、感じてきた。
そんな彼だからこそ、知っている。
他国の傀儡となるよりましだということを……。
(ファバルの様な傀儡は、もう。必要ない…………)
表情を動かさない彼の耳に届くは、大勢の『殺せ』という声。
その声が彼の過去を思い出させた。
かつて。
何十年と大国の傀儡と化していたファバル皇国。




