第八十ニ話
「……俺一人では無理だ。それに、アイツが気づいてまた壊す。イタチごっこだ…………」
悔し気な彼に、テファは「そう」とだけ答え、彼同様俯いた。
「…………おいタヌキ。俺の知っている神話と異なるのは、なぜだ?」
「どういうことだ……?」
俯いていた彼は、シルヴィオの問いに、顔を上げた。
「……神がお前たち五神に、世界を作るよう命じたのではないのか……?」
「馬鹿なことを……。アイツは、俺たち五人が居れば、それでよかったのだ。…………アイツの意思ではない。俺たち五人が、勝手にしたことだ」
ダンドルティックは、後悔の表情を浮かべ、顔をそらす。
彼の声音はひどく悔しげで、悲しげだった。
そんな彼の言葉を、皆表情は様々だが静かに耳を傾ける。
「今だって後悔してる……。この、世界を作ったことを、な…………」
ダンドルディックは、短い毛に覆われた手にぐっと力を込めた。
「あなたのせいだけではない。そう言っているだろう? ダン」
しばしの沈黙後。
突如として聞こえた聞いたことのない声。
驚きすぎて声も出なかったシルヴィオたちは、勢いよく、声のした方を向いた。
そこに立っていた者は、短く茶色い髪を、流れるままに流した、温かい鳶色の瞳を持った青年。
ダンドルディックはその青年に目を向け、顔を歪めた。
「ラルド……。バルを見つけたか?」
『ラルド』と呼ばれた青年は、ダンドルディックの顔を見て、困った顔をしたが、すぐさまフッと微笑んだ。
「あぁ。見つけたよ。だからもうすぐ――――」
――ガシャァァァン!
ラルドの言葉を遮った破壊音。
それと同時にリビングは真っ暗になった。
「「「「「……………………」」」」」
しばし沈黙。
「……………………あ、あぁぁぁあああ! 魔法照明がぁぁぁ!!」
絶叫したのはウェルコット。
クーはケタケタ笑い。
携帯している小物入れの中から透明な石を取り出し、テーブルに置いた。
「『昼のごとく輝き。照らせ』」
クーの言葉に答えるよう、灯りを失ったリビングをその石が照らした。
そのおかげで、ウェルコットが絶叫する原因を作ったモノの姿が浮かぶ。
「「な?! い、古?!」」
驚愕の表情のウェルコットとクー。
そして、天井に張り付くようについていた光る機械。
それが先ほど声を発した者の足元で、破壊されいる。
「よっ! ウェルコット、クラジーズ。元気そうだなぁ」
そう言って片手を上げる、青く髪を後ろになでつけた、紫色の瞳を持つ、緩そうな顔をした男。
しかし、ウェルコットはそれより驚いた顔でそれを踏みつけている人間を見つめた。
「え? なぜ、地上に?! 封印されていたはずでは……!」
「その名前で呼ばないで!! てか、なんであんたが出て来てるの?!」
かぶった二人の言葉。
シルヴィオには聞き取れなかったが、二人が非常に驚いていることだけは分かった。




