第七十七話
世界は、すべてが平穏で、暖かく。
何より平和だった。
――そう、今では【人間】【異形】と呼ばれる者たちが、嫌悪という感情を抱くまでは……。
初めに嫌悪を抱いたのは、【異形】。
それらは、自分らとは違い。
何の力も持たない【人間】を恐れた。
そして、彼らを力でねじ伏せ。
意に添わねば殺し。
恐怖で支配した。
世界を眺めていた六人はこれに驚き。
言葉を失い。
四番目と五番目に生まれたモノが、ささいな言い合いで、いがみ合うようになった。
【神】はひどく悲しんだ。
それを知った三番目は、一番目と二番目にそのことを伝え。
三人がかりでいがみ合う二人の仲を取り持った。
不仲になっていた四番目と五番目は、自身の非を詫び。
自分自身の事で手一杯だったが、世界に目を向ける余裕を得て、作った世界に目を向ける。
二人が見た世界は、かつての鮮やかな世界とは違い、混沌渦巻く世界に成り果て。
それを静かに見つめ、涙を流す【神】に気づいた。
四番目はこれに慌て。
作ったモノたちの元へ行き。
今すぐ【人間】と共に生きるよう、命じた。
しかし、彼らは四番目言うことを聞かず。
一斉に攻撃を仕掛けた。
それを【神】と共に見ていた四人。
彼らは慌てて駆け付けた。
まさか自分自身が作ったモノに裏切られたことに驚き。
突然の事だったせいもあり、防御のできなかった四番目は死にかけていた。
【神】は、真っ先に四番目を抱きかかえ。
静かに。
静かに涙を流した。
かろうじてそれが見えた四番目は、【神】の顔を見て、とても悲しそうな顔になっていた。
だが、【神】にはもう。
四番目の悲しげな顔など映っていなかった。
【神】の瞳にあるものは、とてもどろどろとした、真っ黒な感情。
【神】は、一番目に四番目を預け。
四番目が作ったモノを見つめ、抹消しようとした。
その手にすがりついたのは五番目。
五番目は必死に四番目が悲しむと訴え。
思いとどまらせた。
しかし、【神】の怒りは収まらず。
【神】は異形からすべての力を奪い取った。
その後しばらくして。
死にかけていた四番目は死なず。
生きた。
それからほんの数十年後。
世界は【異形】ではなく【人間】が支配した。
かつての【異形】たち同様。
武力もって……。
【神】は『自業自得だ』いった。
『せいぜい自分たちの行為を悔め』とも……。
声を上げて笑ったのだ。
世界を彩った五人は、その言葉に深く傷ついた。
そのことに【神】は気づいていない。




