第七十五話
「……『今のところ』と、おっしゃられますと……もしや…………!」
「あぁ。直ぐに崩壊は始まる」
コクリと頷き、肯定を示すタヌキに、ウェルコットは息を呑む。
「?! それではこの国も――――!」
「それはない」
絶望の表情で言うウェルコットの言葉を遮り。
タヌキは凛とした声と表情で言った。
「……え? どういうことですか」
「おそらくだが、アイツはファバル大帝国――いや、今はファバル皇国だったな…………」
狼狽えるウェルコットに、タヌキはフッと笑う。
その笑う音にシルヴィオがうっすら目を開けると、懐かしむような顔だった。
しかしそれも一瞬のことで、すぐにその表情は消える。
シルヴィオはまっすぐにタヌキを見据えた。
「お前は何者だ……?」
「…………ダンドルディック。お前たちが、【創世の異形】と呼ぶ者だ……」
「……フッ。猫の分際で…………。そのような戯言、誰が信じる?」
頬杖をついたまま、見下すシルヴィオ。
彼の反応に、タヌキはスッと顔をそらす。
「しかたなかろう。自分で作っておきながら、目つきが悪いだなんだと言って、この姿に変えられたからな……」
どんよりと落ちこみ、深々とため息をついたタヌキ。
もとい、ダンドルディック。
そんな猫の姿を注意深く見つめるシルヴィオに、少し離れたところに居たウェルコット彼の傍にやってきて、小声で言った。
「タヌキ、いえ。この方は嘘を言っておられません。すべて……事実のようです」
そう言って彼は手のひらに浮かぶ、赤く光る小さな円陣を見せた。
「これは……?」
「はい。嘘偽りを申すようであればと思い、古の呪いを確認したと同時に発生させております」
「嘘を言っていればどうなる?」
「頭か、胸を一突きし、殺すよう。設定しております」
真顔で言うウェルコットに、シルヴィオは頷く。
彼の反応を見たダンドルディックは、彼が座るテーブルに飛び乗った。
「俺は嘘偽りが嫌いでな……」
「?! お気づき、だったのですか……?」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている?」
鼻で笑うダンドルディックに、ウェルコットは肩をすくめた。
「これは失礼……」
「良い。話を戻すぞ……?」
ダンドルディックはそう言って、シルヴィオが頬杖をついているテーブルに乗り、彼の前で止まって彼を見据えた。
「……話を戻すのは良いが、畜生の分際でテーブルの上に乗るな」
冷ややかな視線を送るシルヴィオ。
この反応にダンドルディックは呆れ顔でため息をついた。
「…………ふぅ。わかった。椅子を引け」
「自分でやれ」
「……この手では無理であろう?」
スッと右手を差し出し、ふるふると揺らして見せる猫に、シルヴィオは舌打ちして、ウェルコットに椅子を引くように言い。
呼ばれたウェルコットはシルヴィオの隣の椅子を引いた。
「おい。なんで俺の隣を引いた」
「え? あ、つい……」
「良い。この餓鬼の隣でな」
シルヴィオを見て、ククッと笑い、椅子に座ったダンドルディック。
それに舌打ちしそうになったシルヴィオだったが、堪え。
話の続きを促した。




