06「因果応報の連鎖」
自動ドアが開いた瞬間、ヒロの鞄を店員がつかんだ。
「お客さん、清算してない物持って、どこに行くんですかね?」
「あ、いや、違くて」
「ちょと事務所まで来なさい。いいね」
冷や汗が噴き出た。
脳内は案外と冷静で、ついに来るべき時が来たのか、と感じた。
と同時に、ヒロの頭に家族の顔が浮かんだ。
……捕まる事への抵抗心は特にない。自業自得なのだからとうに覚悟はしている。
だが、警察が未成年の自分に対し、保護者を呼ぶ事になるのは自然な流れだ。
その時に親は一体どんな顔をするのか?
「う、うわぁあああっ!!」
体が勝手に叫んでいた。
振り回したスポーツバッグは、遠心力で加速して初老の店員の後頭部に当たった。
その隙に緩んだ手を振り切り、その場から全力で逃げ出す。
バッグから漏れ落ちた盗品を拾う暇は無かった。
不幸は連鎖するもので。
仕方なく、自室に眠っていたゲーム機とソフトをやっとこさビデオ屋まで運んだのだが、いつもの店員があっさりと買い取り拒否を告げてきた。
終いには、警察を呼ぶと言われヒロに言い返す言葉はない。
大量の荷物のまま再び原付に乗る。
ガソリンも後わずかで、財布の中には小銭しか残っていない。思わずため息が漏れた。
「万事休す、か」
もうヒロにできる事はない。だが、それを理解してもらえるほど、優しい相手ではないこともわかっていた。
ブブブッ、ブブブッ!
携帯が鳴った。
その時のヒロの顔は他人に見せられないほど惨めな表情を浮かべていた。
荷物を放置したまま、親の寝室に向かう。
年代物の衣装箪笥の中を端から漁っていく。
しかし出てきたのは安物の偽真珠や、エグい色彩のブローチだけで金目のものが無い。
諦めきれず、ベージュの下着をひっくり返すが、湿気取りの新聞紙の裏にも何も無かった。
「どこに隠してんだよクソっ! 昔はあったのに・・・・・」
「昔とはどういう意味だ」
「親父っ!?」
父親が立っていた。
(見つかった!? ……いや、どうにか誤魔化して……無理だろそんなのっ! ……なんでまたこんな時間に!?)
焦るヒロの姿を見て、父親が全て理解したという顔をする。
「説明しなさい。ここで、何をしている?」
「何もしてないって、ただ……」
「言い訳するなっ! お前はそうやっていつも逃げてばかりで。少しは真正面から向き合ってみたらどうだ、このバカ息子がっ!!」
その勢いに逃げ出すヒロ。
自室の鍵を閉めて閉じこもるが、父親も無理やり開けようとして家の柱から悲鳴が上がった。
全てから逃げ出したくて、ヒロは耳を塞いだ。