表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

04「stage16」

 その生意気な顔に拳を叩きこんだ。

 鼻血を飛び散らし、倒れる姿を冷ややかに見下ろした。溜まっていた鬱憤がすぅと晴れる。慌てて庇う仲間から謝罪の言葉を受けた。

 こいつらだって心の中では俺の事を馬鹿にしてるんだろう?

 抑えようとする仲間を脇へ投げ飛ばし、倒れている相手に近寄っていく。

 怒りが次々に押し寄せ、体が湯気が立つほどに熱い。

 ……もちろん夢の話だ。

 降りそぼる雨が火照る体に心地よい。

 それでも沸騰した頭の芯は収まらず、仲間を振り切り倒れた体に更に追いうちを加えた。

 子猫のように丸まる体をサンドバックにした。

 何度も、何度も蹴る。

 口から体液を吐くが、万が一にもこの世界なら責任を取る必要は無いのだ。ここにあるのは、ヒロの心の滓に溜まった、捻くれた鬱屈だけなのだから。

 謝罪の言葉を繰り返すソレはまるで壊れた人形の様だ。

「スミマセン、スミマセン、スミマセン」

「だったらぁっ! そこぉ、地面を舐めろよっ! ほらぁっ!」

 吐しゃ物に、踏みつけた顔を押しつけて叫ぶ。

 ソレの舌が伸びる。おずおずと震えるのは痛みか羞恥からか。

「早くしろよっ!!」

 怯えた目はガラス玉のように暗い。ぞっとした恐怖を振り払うように、その顎先を蹴り上げてしまう。

 舌を噛んだらしい口の端から、だらだらと血が流れた。

「スイマセ……ミマセン……スミ……セン……」

「いいから早くっ! 地面を舐めろっ! 舐めろよォッ!!」

 痙攣させたままの舌が地面へと伸び、雨水と胃液の混ざるアスファルトにぴちゃりとつく。

「くくっ、ふふははは、あはははははっ!!」

 厚い雲にヒロの笑い声がこだました。


 夜のコインパーキングだった。

 幾度目かの場面転換を経て、突然の記憶の跳躍にヒロは既に慣れていた。

 濡れそぼっていたはずの学生服からは、卸したての糊の香りがする。

 目の前には一台のワゴン車。側面には有名カメラ店のロゴが描かれていた。

 街灯で照らされた後部座席に映る冴えない高校生が、今の自分の過去の姿のようだ。おおよそ一年ほど前の記憶の光景らしい。

 その、リアハッチに触れる。

 カチリとロックが外れ、跳ね上がった扉から車内が丸見えになった。

「……なんだ、これは?」

 黒い箱がある。

 わずかな影すら吸い込むような漆黒の箱。

 この夢想の世界においてすら異質に思わせる存在に、おそるおそる手を触れてみた。

 冷たくも、温かくもない。

 強いて言えば、その空間だけがぽっかりと夢の中から切り取られた、そんな印象を受けた。

「このくぼみは、鍵穴か?」

 ただ一か所だけ、指先に違和感を感じた。

 家の鍵を入れてみると、案外すんなりと中に差し込むことができた。やはり鍵穴だ。だが、回そうとしてもロックされたまま全く動かない。

 車内を物色してみたが、それらしきものは見当たらなかった。

 時間ももうないだろう。

 諦めようとしたヒロだが、その脇に自分の原付バイクがある事に今更気がついた。

 高校の入学祝いに、親を説得してようやく手に入れた愛車。

「まさか、ね」

 その鍵を抜き、黒い箱へ挿し代えた。

 ピタリとハマった鍵を、いつものように時計回りで捻る。

「ああっ!?」

 箱が、光を湧き出しながら四方に割れた。

 光の消滅と共に消えた箱の後に残ったのは、キラキラと輝くパズルのピース。

 それを見て、ヒロの頭の中に「希望」という言葉が浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ