その67 「パティシエール」
お菓子作りって時間がないとできないんですよね。
そして作ってる最中に、においでおなか一杯になることが…
鍋の中がふつふつと泡が立ち始めて、一気にぶわーっと盛り上がって、キッチンにバターの香りが広がってく。
ウチ、ただいま絶賛製菓中。何故か急にお母さんが焼き菓子が食べたいってリクエストしてきたんよね。おすすめのパティスリーに買いに行こうとしたら、これまた何故かウチの手作りがいいっていうもんやから、とにかく作ろうってことになったんよ。
お菓子は食べるのも好きやけど、作るのも結構楽しいから嫌いやないんよね。それで、せっかく作るんやったら好きなもんがいいなって思って、アーモンドプードルだけ買ってきて、あとは家にある物で作れるフィナンシェに決定したってわけ。
「ひなちゃん、まだー?」
「まだーって、始めたばっかりやん」
「残念、たくさん作ってねー」
「はいはい、わかってるから」
せっかくやからゆっくりしてたらいいのに、お母さんたらダイニングのテーブルのとこに座って、ずっとこっち見てるんよね。
バターをシノワで漉しておいて、薄力粉とアーモンドプードルをしっかり計り取る。お菓子って計量がだいじやもんね。失敗なんかしたくないし。卵白と砂糖を混ぜて、そこにさっき計った粉を振るいながら混ぜていって、最後に漉したバターを混ぜれば基本の生地の完成。せっかくやから半分に分けて、一方はココアで風味づけっと。
「あとは焼くだけやし、もうちょっとやよ」
「それじゃ、もうちょっとしたらお紅茶の用意するわね」
生地を型に流し込んで、温めておいたオーブンに入れると、しばらくして甘い香りが漏れてくる。ウチがダイニングで休むのと入れ替わりに、お母さんがキッチンに行ってお湯を沸かし始めた。今日はちゃんといいお茶使うみたい。時間ないときって、ティーバッグに頼りがちなんよね。
結局お茶の方が先にできてしまって、フィナンシェが焼き上がるまで、先にお茶だけいただくことになっちゃったけど。
フィナンシェの第一陣が無事に焼き上がった。オーブンから取り出して、そのまま次の焼きに掛かる。焼き上がった分は、すぐにダイニングのテーブル行きやけど。
「んー、おいしい♪」
「あ、お母さん先にずるい!」
「あらごめんなさい♪」
謝ってるけど、全然謝ってる感じやないやん、お母さん。まあ、いいけどね。ちょっと膨れて見せたら、お母さんがウチの方にも1つ差し出してくれたから、ぱくっと食いついてみた。
「ひなちゃん、何だか小鳥みたいよ」
「もう!あ、でもうまくできてるみたいやね」
「ええ、でも結構たくさん生地を用意したのね。
まだあるんでしょ?」
「うん、もう1回はいけそう。
っても、いつもいくら作っても和忠がすぐに食べてしまうんやもん」
「かずくん、たくさん食べるものね」
かずくん、のフレーズに思わずどきっとしてしまう。本多くんや松本くんは、枚岡くんのこと『カズ』って呼んでたよね。
「あ、そうだわ、忠さんの分、取っておいてもらえる?」
「うん、わかった、今焼いてる分でいけると思うし」
「ありがと、忠さんもひなちゃんのお菓子楽しみにしてると思うわ」
「そう、なんかな?」
「ええ、きっとそうよ」
お母さんとまったり過ごす午後っていうのもなかなか心地いい感じ。しばらくして焼き上がった第二陣を取り出して、そのまま最後に残った生地をオーブンへと入れた。
お母さんと2人じゃ、最初に焼いた分ですら余ってしまうから、和忠用にたっぷり残してあげればいいやんね。
「そういえばこんなにたくさんあるんだったら……」
「どしたん?」
焼き上がったフィナンシェたちを見て、お母さんがぽそっと呟いた。何かちょっと考えてたかと思うと、満面の笑みを浮かべてこっちを見てる。何となく予感が……
「ねえねえ、ひなちゃん、これ、プレゼントしたら?」
「プレゼント?」
「うん、お友達に」
あ、それは思いつかへんかった。せっかくやし、葉月ちゃんやサクちゃんにも……
「ほら、一昨日花火大会の後で送ってくださった彼に♪」
「はぅあ!」
予想外の発言にびっくりして並べてたお皿を思わず突き飛ばしてしまった……んやけど、何故かお母さんお皿どころか乗ってたフィナンシェまでナイスキャッチしてるし!
「あらあら、ひなちゃん、だめよ?
せっかく作ったフィナンシェなんだから、ちゃんとお届けしないとね♪」
「お、おか、おかあさんっ!!」
「何だよ、廊下まで声が響いてんぞ。
わ、うまそう!
食っていい?」
ひぇ、いつの間に和忠帰ってきてたん?!
「あら、かずくんおかえりなさい。
今日のはひなちゃん特製なのよ。
こっちのお皿は忠さんの分だけど、そっちのは食べていいわよ」
「姉ちゃん、サンキュー!
って、まだ焼いてるんだ!」
「あ、それはだめよ。
ひなちゃんのお友達用よ」
「何だ、じゃあこれだけか。
ま、いいや、いっただっきまーす」
「かずくん、ちゃんと手を洗ってからよ?」
「う、わかったよ……
あれ、姉ちゃんさっきから何で固まってんの?
しかも熱でもあるんじゃないか?
顔赤いぞ……」
「な、何でもない!
何でもないからねっ!」
「あ、ああ……俺、手、洗ってくるよ」
和忠が洗面所へ行ったのを確認して、お母さんに耳打ちする。
「和忠には内緒やからね?」
「あら、内緒って何が?」
「枚岡くんにあげること!」
「あらあら、やっぱりあげるのね。
うふふ、よかったわ♪」
あれ……あれれれ?!何であげることになってるんやっけ?!
実は次の章の構想がまとまっていません…
もしかしたら明日からちょっと更新止まるかも…
うまくまとまればもう一話インターミッションをつなぐかも…
かもかもばっかりのあとがきでごめんなさい…




