第六話、リディアさん家のエリスさん、どうしてこうなった?
それは十分前の話だった。
エリスの爆弾発言を聞いたテツと呼ばれた男は、何故か俺達をエリスの家、リディア組の元へと連行された。
そして、今現在。
俺達(エリス抜き)は、やけに広い座敷に通され、族達に囲まれていた。
―マジで怖いです、はい。
―ウチやって怖いわ!!
―てか、一番マシなのって、レンじゃん!!
俺達は視線のみで語り合っていた。……少しでも怖さを紛らわすために。
その時、族の一人が俺達の前に、何故か湯呑に緑茶をいれて置いてきた。
「粗茶ですが」
語尾に「何か?」と聞こえたのは俺だけだろうか……。
そして、もう一人が茶菓子を置いてきた。
「こちらもどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
唯一シリアだけが礼を言っていた。
が、俺とカノンにはそんな余裕はなかった。
なぜなら、目の前に出された茶菓子には、毒が入ってるんじゃないかと思ってしまっていたからだ。
そう思えるほど、族達は人相が悪い。
「……」
「……」
「……」
「……」
―しかも、無言だし、動かねぇし……。
そうしていると、隣にいたシリアが脇腹をつついてきた。
―ンだよ
―ねぇ、あの若って呼ばれてた子って、男よね?なんでレンと駆け落ち?
―はぁ?あいつは……
女だと言おうとした途端、奥のふすまが開き、エリスとその父親らしき奴が入ってきた。
そして、親父さんはこちらを一睨みし、口を開いた。
「貴様が私の娘を誑かした男か」
「「む、娘ぇぇぇぇぇ!?」」
それを聞いた途端、俺の両隣から大声が上がった。
そのおかげで、俺の両耳は「キーン」ってなった。
「ちょっとレン!?聞いてないよ!?」
「……聞かれなかったし」
「そこ、テンプレせぇへんでえぇから!!」
「………………うるせぇ」
「「すいません」」
俺が不機嫌さマックスで言うと、シリアとカノンは黙り込んだ。
後のシリアは語った。
「あの時のレンからは、尋常じゃない殺気を感じた」と。
「……いいかね?」
「気にせず進めてくれ」
親父さんが律儀に俺に確認を取ってきた。
「今までにもエリスに言い寄ってきた男は大勢いた」
「へぇ」
「だが、そのどれもがちゃらけていた。だから、試練を与えたのだ」
「試練?」
「そうだ、私の娘を任せることができるかどうかを、見極めるためにな」
―どこの親バカだ!!
心の中だけで突っ込んでおいた。
これはあれだよ?別に後ろの控えている族達が怖いとか、そんなんじゃないんだよ?
ただ、早く話を進めたいだけで……って誰に言い訳してんだ、俺。
「ということは、俺にも試練があると?」
「あぁ、物分かりがいいな。試練の内容は私の臣下の中でも最も強い者と対戦してもらう事だ」
「誰それ?」
俺がそう言うと、後ろの族達の中から、一人男が歩み出て来た。
「私が相手です」
「アンタが?」
「はい、ハゼルと申します」
馬鹿丁寧な口調だな。
「では、早速始めよ!!」
「相手は一人ですか?」
「当たり前だ、その男一人だ!!」
「了解しました。というわけで、そこのお二方は端の方に」
そして、シリア達が避難を終えた後。俺達は武器を構えあった。
俺は初心者用の剣を抜き正眼へ、向こうは腰に鍔なしの刀を納刀した状態で構えていた。
―居合い切りか?
「始め!!」
俺がそう思った瞬間、号令がかかり、ハゼルが掻き消えた。
次の瞬間、俺は本能的に思いっきり後ろに飛んだ。
ザンッ!!
その途端、俺が今まで立っていた所にハゼルが立っていた。
しかも、ご丁寧に地面に深い亀裂を残して。
―おいおい、あの一瞬であそこまで出来るか普通!?
しかも、納刀状態。
いわゆる「見えない斬撃」ってやつか?
「今のを避けたのはあなたが初めてですね」
「褒めてもなんもでねぇぞ」
「ふふ、そうですね。……行きますよ!!」
「くっ!!」
再びハゼルは掻き消えた。
またもや俺は本能的に動く事しかできなかった。
―埒が明かねぇ!!
二十分後。
俺は全身に細かい切り傷を負っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「しぶといですねぇ、なかなか」
「それだけが取り柄だからな」
しかし、まったく反撃できず、今まで避け続けてきたが、さすがに集中力の限界も近い。
「くっそ……!!」
「次で止めです。……ハァッ!!」
気合の声と共に、掻き消えたハゼル。
―どうする?死になくねぇぞ、こんな所で!!
もうだめだと思った瞬間だった。
何故かハゼルの姿が見えたような気がした。
俺は藁にもすがるような気持ちで、刀を避けた。
「なっ!?」
すると、どういうことか、ハゼルの攻撃を完璧に避けることができた。
「バカな!?」
ハゼルは距離を取り、再び腰を落とし構えた。
―もう一度、もしかしたらできるかもしれない!!
俺は集中し、ハゼルを目で追った。
ハゼルが加速した。
「そこだっ!!!」
俺は踏み込み、ハゼルの胸にタックルした。
「!?」
すると、ハゼルは吹き飛び、刀を取り落した。
「ま、参りましたね、これは……」
「か、勝ったのか……?」
よくわからず俺が困惑していると、突然後ろから抱きつかれた。
その犯人を見ようと体をひねった。
すると、そこにはエリスがいた。
「エリス?」
「……ぼ、僕のせいで、レンさんが死んじゃうかと、思っちゃいましたよ……」
安心したのか、エリスは俺に抱きついたまま、涙を流し始めた。
俺は返す言葉が見つからず、エリスの頭を撫で続けた。
しばらくして、エリスが落ち着き、親父さんに事情説明をした。
「そうか、そんなに旅に出たかったのか」
エリスの花嫁修業がしたくないという言葉を聞いて、どうしてそうなる。
「ご、ごめん……」
そして、何故エリスが謝る?
「レン君よ、一つ頼みたいことがあるのだが」
「エリスを連れて行ってくれってことだろ?」
「あぁ」
「俺達は別にかまわんが、エリス、お前はどうしたいんだ?」
「え?」
「いいのか?このままついて来ても。しばらく親に会えなくなるんだぞ?」
「そ、それは……」
一瞬不安そうな顔をして、親父さんを見やった。
だが、再び俺達に向き直ったエリスの顔は何処か決意を固めた顔をしていた。
「ぼ、僕は、レンさんと一緒にいたいです!!だから一緒に行かせてください!!」
取りようによっちゃあ、告白に聞こえなくもないが、こんな場面で告白は無いだろう。
「なら、俺達は歓迎するぜ。な、シリア」
「うん、歓迎するよ。……レンのバカ」
「なんか言ったか?」
「あっはは~、レンも鈍いなぁ~。ま、よろしゅうな、エリス」
「は、はい!!」
こうして、俺達の仲間にエリスが加わったのだった。
その夜、俺達はリディア家総出を上げて、広間でもてなされた。
「も、もう食べれない……」
「う、ウチもやわ……げぷっ」
「そうか?」
「なんでケロッと……」
「……してれるんや」
シリアとカノンはその言葉を最後に、倒れこんだ。
「レンさんって凄い食べるんですね」
「まぁな」
ちなみにエリスは途中で食べるのをやめていた。
俺が座って溜息をついていると、後ろから声を掛けられた。
「レンさん」
「あン?あぁ、ハゼルか」
「一つお聞きしたいのですが、どうして最後私に攻撃できたのです?」
「あぁ、なんでか知らんが、最後の時だけ、お前が遅くなったんだよな」
「私は速さを変えてませんよ?」
「ん~、目が慣れたんじゃねぇの?」
「それはありえないかと……」
「ま、過ぎたことは気にしないということで」
「は、はぁ……」
釈然としない様子のハゼルは放っておいて、俺は割り当てられた部屋に案内してもらった。
そこに敷いてあった敷布団を見て、テンションが上がったのは内緒だ。
俺は敷布団に潜り込み、すぐに意識を手放した。
次回予告
新たに加わったエリスと共に、旅に出た蓮達。
しかし、山賊に会うは、魔物の群れに襲われるはで、てんやわんや。
はたして、蓮達は無事、次の街にたどり着けるのか!?