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ソプラノ  作者: BAGO
カランド
99/1013

カランド(25)

[フェルシア]:「――ここの廊下にも落ちてないわね」

[吹雪]:「あっちにもありませんでした」

[繭子]:「以下同文」

あれから色々な場所を回ってみたけど、何処にも見当たらなかった。

[繭子]:「やっぱり、処分されちゃったのかな~?」

[フェルシア]:「うーん、目ぼしいところはそれなりに見て回ったわよね」

[吹雪]:「後、回ってないところは何処なんだ?」

[繭子]:「うーん、トイレと図書室くらいかな?」

[吹雪]:「ここまで来たんだ、ちょっとでも可能性があるところに行ってみよう」

[フェルシア]:「じゃあ、一番近い職員室トイレからね」

……………………。

[繭子]:「中を手分けして探そう~二人とも」

[吹雪]:「いやいや、待て待て」

[繭子]:「ん? 何か問題ある~?」

[吹雪]:「分かって言ってるんじゃないか? 問題大アリだろうが」

[繭子]:「――あ」

[吹雪]:「そう、マユ姉は女で俺は男だ。俺が女性トイレに入ったら学校を追い出されちまうだろう」

[繭子]:「ふーちゃんでもやっぱりダメか~」

[吹雪]:「ダメに決まってるだろ」

[繭子]:「じゃあ、ふーちゃんは男子トイレ探してよ。あるかもしれない」

[吹雪]:「いやないだろう、単純に考えて。マユ姉が男子トイレ入ったらそれはそれで問題になる

[繭子]:「少しの可能性があるかもしれないのに?」

[吹雪]:「ねぇよ。俺はここで待ってますから、二人は中を調べてきてください」

[フェルシア]:「ええ、じゃあちょっと待っててね」

[繭子]:「ふーちゃん、すぐに、すぐに戻ってくるから!」

何故今生の別れのような台詞を残したんだ、訳が分からん。

俺はトイレの前で二人を待つ。

……やはり冬は日が暮れるのが早いな。もうすっかり空は暗くなっていた。

今の時間は――まだ大丈夫か、完全下校まではまだ時間がある。

[フェルシア]:「はあ、ダメね。ここにもなかったわ」

フェルシア先生がトイレから出てきた。

[吹雪]:「あれ? マユ姉は?」

[フェルシア]:「ああ、探索してたら催したらしいの。ちょっと待ってあげましょう」

[吹雪]:「あ、はい」

[フェルシア]:「ここにないとなると、後は図書室しかないわね」

[吹雪]:「あるといいんですけど」

[フェルシア]:「そうね。吹雪くんは、ちゃんと持ってるんでしょう?」

[吹雪]:「はい、俺は――このとおりです」

ベルトのところにチェーンを付け、アクセサリーと一緒に止めている。

[フェルシア]:「あら、何だかかっこいいことしてるわね」

[吹雪]:「こういうのはよくないかなってちょっと思うんですけど、家の鍵だったらいいかなって思って」

[フェルシア]:「別に問題ないと思うわよ。むしろ下手な細工よりも全然いいと思うわ」

[吹雪]:「それは、どうもありがとうございます」

[フェルシア]:「確かにそうやって付けてれば、すぐに落としたことにも気付けるわね

[吹雪]:「それに、前に落ちる可能性も高いですから、喧騒に対しても予防線を張れるんで」

[フェルシア]:「なるほど、考えるものね色々と」

[吹雪]:「無くすと困りますからね、家の鍵は」

[フェルシア]:「閉め出されてしまうものね、肌身離さず持っておかないと」

[吹雪]:「先生は、問題なしですか?」

[フェルシア]:「ええ、ちゃーんと持ってるわよ」

胸ポケットから取り出して見せる。

[吹雪]:「あ、先生は鈴を付けてるんですね」

[フェルシア]:「ええ、音が鳴れば落とした時に気付きやすいかなって思って」

[吹雪]:「賢い発想ですね」

[フェルシア]:「誰でも考えると思うわよ? これくらいは」

[吹雪]:「でも、ほら、俺のとこは、見失っちゃってるんで」

[フェルシア]:「あ、そうね。そうだったわ」

[吹雪]:「アクセサリーも、ただ付けているだけじゃただの錘でしかないんですね」

[フェルシア]:「あ、今の何かすごく心に響く言葉だったわ」

[吹雪]:「ちょっと意識してみました」

[フェルシア]:「なかなかよかったわ。次の授業の時に使ってみようかしら?」

[吹雪]:「保健のですか?」

[フェルシア]:「ええ、臓器はアクセサリーみたいなもので――とかどうかしら?」

[吹雪]:「アクセサリーというには少々重要度が高すぎる気が……」

[フェルシア]:「確かに、体を作ってる器官だもんね。アクセサリーと言うにはちょっと軽んじすぎてるわね」

[吹雪]:「そんな大層な言葉でもないんで、無理に使おうとしないでください。フェルシア先生の生徒に対する思いを授業で伝えるだけでいいんですから」

[フェルシア]:「……また、素敵な言葉が飛び出したわね。吹雪くん、将来詩の本とか出したらどうかしら?」

[吹雪]:「え? 今のは特に意識もしてないんですけど」

[フェルシア]:「だとしたら才能かもしれないわ。今のうちに開花させておくといいことがあるかも」

[吹雪]:「え? 別にこれくらい誰でも……フェルシア先生だってやろうと思えばできますよ、きっと」

[フェルシア]:「そうかしら? う~ん。…………。……人こそが世界に巣食う魔物である」

[吹雪]:「とてつもなくダークな格言ですね」

[フェルシア]:「何か、頭を空にしたらそんなことが浮かんできて」

[吹雪]:「先生のほうが、向いてると思いますよ? 俺は」

[フェルシア]:「そんなことないわよ」

俺たちは声をそろえて笑った。

[吹雪]:「にしても、ちょっと出てくるの遅いですね」

[フェルシア]:「そうね。見てきましょうか?」

[吹雪]:「そうですね」

フェルシア先生はトイレに戻っていった。すると――。

[フェルシア]:「ちょっとマユ、何いびきかいて寝てるのよ!? 起きなさい!」

[繭子]:「にゃあっ!? ワタシのコンソメスープが!」

[フェルシア]:「訳分かんないこと言ってないで、早く済ませて出てきなさい!」

――出てきたら、とりあえずゲンコツだな。


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