カランド(16)
近くにあったベンチに座って早速ご賞味。
[吹雪]:「ほら、飲んでみろって」
[聖奈美]:「わ、分かってるわ」
[吹雪]:「そこまで警戒する必要ないと思うんだが」
[聖奈美]:「だって、こんなに鮮やかな色は初めてみるんですもの」
杠が頼んだのはパッションフルーツとパイナップルのミックス。涼しそうな黄色のジュースがグラスに注がれている。
[聖奈美]:「毒とか入ってないでしょうね?」
[吹雪]:「入ってたら俺とっくに死んでるだろうが」
[聖奈美]:「免疫付いてるんじゃないの?」
[吹雪]:「毒が入ってたら1回飲んだだけで死ぬだろうが、免疫付く前に」
[聖奈美]:「そ、それもそうね」
[吹雪]:「大丈夫だって、とりあえず飲んでみろって。絶対美味しいから」
[聖奈美]:「わ、分かった」
グラスに向き合って神妙な面持ちをしている。マジックコロシアムでもこんな表情はしてなかったのにな。
[聖奈美]:「――んっ! ちゅう、ちゅう」
ようやく杠はストローに口を付けた。
[吹雪]:「どうだ?」
[聖奈美]:「……美味しい。すごく美味しいわ」
[吹雪]:「だろう?」
曇ってた表情が一気に晴れやかになった。
[聖奈美]:「酸っぱいけど、イヤな酸っぱさじゃない。心地いい酸っぱさだから飲みやすくて、それでいてちゃんと甘みもある」
[吹雪]:「嘘は言ってないって言っただろう?」
[聖奈美]:「そうね、買って正解だったわ」
[ダルク]:「聖奈美、その、私も……」
[聖奈美]:「ええ、ほら、飲んでみなさい」
杠はダルクにグラスを持っていく。
[ダルク]:「わー、すっごく美味しい」
[吹雪]:「お、ダルクも分かってくれるか?」
[ダルク]:「こんな美味しい飲み物、久しぶりに飲んだよー」
[吹雪]:「誘った甲斐もあるってもんだ」
[聖奈美]:「あなた、あのお店は行き着けなの?」
[吹雪]:「毎日ってわけではないけど、一ヶ月に1回くらいは飲んでるかもな。3年前に試しにって思って飲んでみたらハマっちゃってな」
[聖奈美]:「好奇心が福を呼んだわけね」
[吹雪]:「だな。お前にとっても福だろう?」
[聖奈美]:「そうね。この味なら確かに飲みたくなっちゃうわ」
そう言って杠は微笑んだ。こいつの笑顔は、初めてみたかもしれない。打ち解けることができたみたいで少し嬉しい。