アレグロ(3)
11月28日(土曜日)
――そして、マジックコロシアム当日。
「いいね? みんな。今日は、ワタシの弟のふーちゃんを全力で応援してあげてね? いいですかー?」
「おー!」(全員)
何でこんな乗り気なんだ? みんなは。応援してくれるのは素直に嬉しいけど。
「ちょっとー、先生」
「うん? 何? 翔くん」
「マジックコロシアムに出るの、吹雪だけじゃないんですけど」
「あり? 翔くんも出るんだっけ」
「言ったじゃないですか。オレも出ますって」
「あ、ごめーん。すっかり忘れちゃってたよー」
「がはぁ!?」
翔は声を上げて机につんのめった。
「ひどい、みんなして吹雪ばっかり……」
「だってよ、翔には期待しても無駄だもんな」(男子A)
「そうよね。魔法できないし、成績も悪いし」(女子A)
「初戦敗退が妥当だろう」(男子B)
「ぐにょうるむふぐは……がくっ」
あまりのショックに、翔は完全にダウンした。でもまあ、事実だから何のフォローもできないっていう。今は自分のことを心配してたほうがよさそうだ。
「ふーちゃん、こんなに期待が寄せられてるんだから、絶対に勝ってね」
「まあ、全力は尽くすよ」
「そして、舞ちゃんの手料理を……じゅる」
やっぱり、狙いはそっちかい。薄々感づいてはいたけどよ。
「それじゃあ、一旦終わります。今日は授業はないから、各自自由に行動していいから。でも、ふーちゃんの出番になったら全員集合。みんなで応援しましょー」
――さて、俺はトーナメント表を見に行くか。
……………………。
えーっと、俺の名前は……。お、発見。エントリーナンバー17思ったよりも出場者は多いんだな。アイツは――何だ? 一回戦がシードになってやがる。あれだろうか? 去年の優勝者だから少し優遇されているんだろうか? 分からなくもないけどよ。
「確認に来たの? 吹雪」
「ん? あ、先輩、おはようございます」
振り返った先にはカホラ先輩が立っていた。
「後姿が吹雪っぽかったから来てみたら、やっぱり吹雪だったわね。どうなの? 調子は」
「まあ、ボチボチ。昨日は練習もしたんで、簡単にはやられないと思いますよ」
「3年の間でも結構噂になっててさ。杠さんに刺客現るみたいな話が流れてて、それってやっぱり吹雪だったのね」
「だ、誰からそんな話を聞いたんですか?」
「愛海」
やっぱりアイツか……。
「強ち間違いじゃないと私は思ってるけど」
「ありがとうございます、やる気が益々出てきましたよ」
「ふふ、本当?」
「はい、先輩は出ないですよね?」
「もちろん、私は観戦。攻撃系の魔法は得意じゃないから」
「いいとこイケると思うんですけどね、先輩ならば」
「またお世辞言って。吹雪は口が上手すぎるわよ」
「ええ? ホントのことを言ってるだけですよ、俺は」
「ありがと。でも、やっぱり出ないわ、というより、もう参加申し込みは終了してるもの。出たくても出れないわ」
「そうですか」
「その代わり、吹雪を全力で応援するわ。少なくとも、決勝までは行かないとね」
「ぷ、プレッシャーですね」
「いつもどおりにいけば大丈夫よ。絶対いいとこまで行けるわ」
「期待に応えられるように頑張ります」
「ええ、その意気よ」
「ちょっとすいませんー。翔が通りますよー」
おっ、復活したのか。あれだけ貶されても立ち上がれるとは、ハートだけはすごく堅いようだ、翔は。
「翔もコロシアムに出るの?」
「はい、どうやらそうみたいで……」
「あの子、魔法不得意なんじゃなかったかしら?」
「と思って、出るのやめたほうがいいんじゃないかって止めたんですけど、聞かなくて」
「そうなんだ……出来ない子が出ても、どうにもならないと思うんだけどね」
「そうですよね」
「――呼びましたか? カホラ先輩」
「きゃあ!?」
「き、急に出て来んな。びっくりするだろうが」
「いや、オレを呼ぶ声がしたからよー。何か言ったか?」
「いや、お前、本当に出るのか?」
「もちろんだぜ! 何もしないでいるよりは、出たほうが絶対にいいはずだからな。……そしてかわい子ちゃんを、いひひっ」
「欲望が隠しきれてないみたいね……」
「そんな考えで勝てるほど、この大会は甘くないんじゃないか?」
「ふっふっふ……そんなこともあろうかと対策はちゃんと考えてきたさ」
「あら、意外ね」
「先輩、オレはやるときゃやる男ですよ。見くびってもらっちゃあ困ります」
「お前、魔法使えるようになったのかよ」
「それは、オレの番になったら分かるぜ。きっと吹雪もびっくりするはずだ。『なひょー』とか言っちゃうぜ、きっと」
「いや、言わねぇし」
「とにかく、今のオレは昨日のオレとは違うぜ! 善戦して、注目を集めてみせる!」
「まあ、頑張ってね、翔」
「ありがとうございます。応援してくれたのはカホラ先輩が初めてです」
先輩の手を持って、翔はブンブンと上下に振った。
「あはは……」
「よし、じゃあオレは自分の最終確認してくるからこれで。では、アデュー」
「……急に来て急に帰って行きましたね」
「そうね、元気だけはすごいと思うわ」
そうだよな、やっぱり……。
「――まあとりあえず、自分のペースでしっかり、ね?」
「はい、了解です」
「頑張ったら、何かご褒美あげようかしら」
「え、本当ですか?」
「うん、そうねベスト4に入ったら、かしら? 何かご褒美考えとくわ」
「よっしゃ、俺、頑張ります!」
モチベーションが益々上がってきたぜ。
「さあ、第二試合に行ってみましょう。仲野健太選手(1年)VS小林啓太選手(二年)の対決です。この戦いを制し、二回戦に駒を進めるのは一体どちらの選手でしょうか?」
俺の出番は4試合目だから、もう少し時間があるな。今魔法を使うのは体力の消費になってしまうし……教室で座りながら観戦してるか。
……………………。
ガラガラガラ。
「ん? 舞羽か」
「あ、吹雪くん」
どうやら俺と同じことを考えてた奴がいたらしい。
「どうしたんだ? こんなところで」
「下だと人がいて混んでるから、ここなら落ち着いてみられるかなーって思って」
「なるほど、俺と同じだな」
「あ、吹雪くんも?」
「ああ、自分の出番まで、ここで観戦しようかと」
「4回戦だったっけ?」
「ああ、後、40分後くらいだな」
「じゃあ、一緒に見よう」
「ああ」
俺は舞羽の横に座った。
「――お、すごいなあいつ。あれを相殺しやがった」
「そうだね。あの二人、結構戦い慣れてるのかな」
「かもな。特に小林のほうはさっきから戦いの主導権握ってるし……去年のコロシアムにも出場してたのかもな」
「えーっと……」
舞羽はプログラムをペラペラと捲っている。
「舞羽、それ買ったのか?」
「えへへ、300円だったから。どんな人が出てるのか知りたかったし」
ペラペラ。
「えっと、小林くんは……あ、ホントだ。去年のコロシアムにも出場してる。しかも去年はベスト4に入ってるよ。結構注目はされてるみたい」
「じゃあ、実力者ではあるってことだな」
「そうだね。杠さんが目立ってるから、それに隠れちゃってるだけで上位に食い込んでくる可能性は高いかも」
「もし俺が勝ち続けることができれば、準決勝あたりでぶつかるってことだな」
「そうだね、彼の戦い、見ておいたほうがいいかもしれないね」
「よし、じゃあ二人で小林をサーチングだ」
「了解」
……………………。
「どうやら、得意魔法は炎系みたいだな。で、仲野ってほうは補助系の魔法でかき乱す戦い方が主な戦法のようだ」
「そうだね、霧系の魔法を使ってたし、バリアも使ってたしね」
「こりゃあ、どっちが勝ってもおかしくないな」
そして、マークしておいたほうがよさそうだ。
「おっと、小林選手の魔法が仲野選手のバリアを突き破って命中したー!」
「あ、仲野くんが倒れちゃった」
「仲野選手立ち上がれるか? ――ダメです、立ち上がれません。試合終了、勝ったのは小林啓太、昨年の準決勝進出者としての実力を見せつけました!」
「小林が勝ったか」
「でも、すごいいい勝負だったね」
「だな、カードが違っていたら、どっちも二回戦に進めてたかもな」
あんな奴らが出るのが、マジックコロシアムか。想像以上の戦いになりそうだ。
「次は――あ」
「どうした? 舞羽」
「うん、次の三回戦に翔くんが出るみたい」
「本当かよ」
「相手は――後藤鮎美さん、三年生だね」
「あいつ、本当に大丈夫なのかよ」
「少しは張り合えるといいんだけどね」
俺たちの不安は募るばかりだ。
「では三回戦いってみましょう! 島貫翔選手(二年)VS後藤鮎美選手(三年)です」
「みなさーん、こんにちはー、島貫翔でーす! みんな、元気ですかー?」
「…………」
「あれ、みんな元気がないな。もう一回、こんにちはー!」
「…………」
「おっと、まだみんなにエンジンがかかってないようだな。分かった、オレの熱い戦いで、みんなにエンジンをかけてやるぜ!」
翔、そこはライブ会場とはわけが違うんだぞ。
「えー、対するは、後藤鮎美選手、今年でマジックコロシアムは三年連続の出場、今年最後、この舞台で大輪を咲かせることができるでしょうか」
「みなさん、よろしくお願いします」
「わー!」
「えー!? ちょっとちょっとー、みんなー、さっきと全然勝手が違うんじゃないのー?」
お前が出しゃばってるからだろうが。
「くそーみんなオレの力を試してるんだな。よし分かった。オレの力、全て出し切ってやるぜ!」
それ以前に使える魔法がお前にはあるのか? そういえばさっき秘策があるとか何とか言ってたが。
「吹雪くん、翔くん、大丈夫なの?」
「どうだろうな、多分瞬殺だと思うが」
「善戦、はちょっと無理かな?」
「多分な」
どうやら、舞羽でもフォローは難しいようだ。
「やりきっては欲しいね。せめて」
「まあ、な」
秘策が秘策であれば、だが。
「ふん、ふん、よし、体調も万全だ」
「(不安だな……)」
「さあ、それではいってみましょう。三回戦、レディー・ゴー!」
試合開始の鐘が鳴った。
「行くわよ――エル・エルアス・グローリア、水の精よ、我に力を与えたまえ。スプラッシュ!」
「うおお!? な、なんだ!?」
大地が激しく揺れだし、翔は体をよろつかせる。割れ目からは、勢いよく水柱があがり始めていた。
「出ました、スプラッシュ。水系の高位魔法。島貫選手、果たしてこれを交わすことはできるのか!?」
「うわ、すげぇ、何だよこれ」
「翔くん、初めから後藤さんにペースを持ってかれてるね」
「まあ、当然って言えば当然なんだけどな」
何にも魔法を使えないような奴だ。ペースを握られても何ら不思議はない。
「お、やべぇぜ」
「島貫選手、徐々に逃げ場を失っていく。尚周りから上がる水柱、このピンチ、逃れることはできるのか」
「ふっふっふ……」
「翔くん、ひょっとして笑ってる?」
「ああ、俺にもそう見えてる」
「ふっふっふ……苦節二日、頑張って練習したかいあってようやくこの技を会得することができた。もう今までのオレとは違う。オレは覚醒したんだ」
翔は大きく手を振りかぶった。
「いくぜ! エル・エリアーデュス・精霊よ、我を守りたまえ。――マジックバリア!」
翔がそう唱えると、目の前に透明の壁のようなものが姿を現した。その壁は翔を覆い、水柱をはじき返す。
「翔くん、あんな技使えたんだね」
「みたいだな」
二日で覚えたようだが、どこで一体覚えたんだか。
「はっはっは、この技がある限り、オレに攻撃は通らない。どうしますか? 後藤さん」
「く、バリアか」
「島貫選手、見事なディフェンスを見せました。後藤選手、この状況をどう変えていくのか」
「なら、これでどうかしら。エル・エルフィディウス・雷よ我の力となれ、――ボルテクス!」
「おお、何だ!? 手から稲妻らしきものが!」
「おおっと、ボルテクスです。雷系の中でかなりの威力を誇る攻撃魔法。この攻撃が、果たして島貫選手に届くのか」
「後藤さん、すごい攻撃を連発してるね」
「だな、ボルテクスは俺も初めてみた」
さすが3年生か、高度な魔法も何のそのってところだろうか。この攻撃、翔は切り抜けることができるのか?
「もう一回だ。――マジックバリア!」
翔の前に、また透明の壁が現れる。
「これもダメか……」
「ふっふっふ、通りませんよ、攻撃は」
「これも島貫選手に通りません。島貫選手のバリアの前に攻撃が通りません」
「翔くん、すごい」
「マジかよ、あれを抑えたのか?」
しかもバリアだけで、あいつどんだけの強度のものを出現させてるんだ。
「これって、ひょっとしちゃうのかな?」
「いや、言っても相手は経験者だ、翔よりもたくさんの苦難を乗り越えてきてる。簡単にはいかないはずだ」
「そうだよね、後藤さんにも意地があるはずだしね」
「ここからだろう、きっと」
向こうだって、このままで終わるわけはない。
「攻撃は効かないってことね、なら――」
「……瞑想か」
「瞑想?」
「ああ、精神を集中させて、己の力を引き上げるんだ。翔のバリアを、能力をあげて突き破ろうって考えたんだと思う」
「大地の精霊よ、我の奥に眠りし力を解放したまえ、――ふっ!」
「後藤選手のオーラが変わった。パワーが溢れているのが伝わってきます」
「おっと、パワーアップってことですかい?」
「さっきのようには行かないわよ。――エル・エルフィディウス、雷よ、我の力となれ、ボルテクス!」
「おおっと、すごい威力の雷が指から迸っています。島貫選手、これを切り抜けることは可能なのか!?」
「威力が上がったって、こっちにはバリアがあるんだぜ! 精霊よ、我を守りたまえ、マジックバリア!」
「――あれ? 出てこないよ」
「……ついにやらかしたか」
「あれ? 出ない? 何で?」
「おおっと、島貫選手、バリアが現れません」
「――あ、そうか。バリアは魔力の消費が激しいから多用しちゃいけないんだったっけ。授業で習ったの、忘れてたぜ、えへ、翔大失敗」
「喰らいなさい!」
「え? マジで? あ、ひ、いぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」
「あーあー」
「……でも、後藤さんみたいな女性の技を喰らって負けるなら、痛さも快感、だぜ」
「う……」
「キモっ!」
おそらく、会場全員がどん引きしたに違いない。
「し、島貫選手、立ち上がれるかどうか?」
「こんなことなら、攻撃魔法も何か覚えてくればよかった、ぜ、ふっ」
って覚えてなかったのかよ! お前防御系だけで張り合おうとしてたのかよ。
「オレの、屍を越えていってください」
「し、試合終了、勝ったのは、後藤選手です。二回戦に駒を進めました」
「負けちゃったね、翔くん」
「まあ、誰もが予想した結果だろう」
攻撃を防いだのは、結構驚いたけどな。
「おっと、次は俺だな。召集場所に行かないと」
「あ、いよいよ吹雪くんかー。じゃあ、私も繭さんのところに行かなくっちゃ」
「頑張って勝つぜ」
「うん、私、信じてるよ」
俺は召集場所へと向かった。




