カランド(13)
[場所:隣の教室]
さて、いるかね? 俺は教室のドアを開けてみた。
[聖奈美]:「行くわよ? ダル――ふぐっ!?」
[吹雪]:「ごおおっ!?」
頭が、モロに鼻先に――い、いってえええ!
[聖奈美]:「いったた……ちょ、ちょっと!? 気をつけなさいよ――って、大久保?」
[吹雪]:「おおっ……ぐ、ぐうう……!」
[聖奈美]:「ちょ、ちょっと? そんな大げさな……ちょっとぶつかっただけじゃないの?」
[吹雪]:「ぐ、ぐうう……ああ……」
[聖奈美]:「お互い様のはずなのに、あたしが悪いみたいじゃないの。もう、とりあえず、ここに座りなさい」
腕を引っ張られて席に座らせられる。本当は返事がしたいんだが、予想外の激痛に何も言うことができない。
[聖奈美]:「ダルク、あたしのハンカチ水で濡らしてきてちょうだい」
[ダルク]:「うん、分かった」
…………。
[ダルク]:「はい、聖奈美」
[聖奈美]:「ありがとう」
熱を持った鼻先に冷たいハンカチが当てられる。
[吹雪]:「はあ、ふう……」
[聖奈美]:「どお? 落ち着いた?」
[吹雪]:「ああ、面目ない」
[聖奈美]:「しょうがなかった、ってことにしましょう。お互いにあれは避けられないでしょう」
[吹雪]:「そうだな。お前は大丈夫だったのか? ケガとかしてないか?」
[聖奈美]:「痛そうにしてるあなたの様子見てたら、痛みなんてどこかに行っちゃったわ」
[吹雪]:「……大したことないと受け取っていいのか?」
[聖奈美]:「あなたに任せるわ。少なくとも、あなたより打ち所は悪くないわよ」
[吹雪]:「なら、よかった」
[聖奈美]:「……よく自分のほうが痛いのに相手の心配をできるわね」
[吹雪]:「ん? 何か言ったか?」
[聖奈美]:「いえ、別に。……そろそろ、自分でハンカチ持ってくれないかしら?」
[吹雪]:「ああ、悪い。ついうっかり」
俺は自分でハンカチを固定する。
[吹雪]:「それより杠よ」
[聖奈美]:「何よ?」
[吹雪]:「お前、俺のことを探してたって祐喜から聞いたんだが、本当なのか?」
[聖奈美]:「祐喜が?」
[吹雪]:「ああ、探してるみたいだって言われて。だからクラスに顔を出してみたんだが……」
[聖奈美]:「一言も口に出してないのに、どうしてそこまであたしのことを……」
[吹雪]:「違ったか? ひょっとして」
[聖奈美]:「ちょっと待って、今考えるから」
[吹雪]:「あ、ああ……」
考えるって、一体何をだ?
[聖奈美]:「…………」
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「…………」
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「…………」
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「まあ、この際大久保でいいでしょう?」
[吹雪]:「終わったか?」
[聖奈美]:「ええ」
[吹雪]:「そういえば、さっきどっかに行こうとしてたよな? それと関係があったりするのか?」
[聖奈美]:「まあ、そうなるわね」
ダルクも横でうなずいている。
[聖奈美]:「今日は街のほうで生徒会で使用する備品を買い揃える予定なの。買い物に行く前に必要な物品を定めたら、どうにも一人で買い物するには買い切れない量だってことに気付いたの。でも、生徒会の人には一人で行くと言ってしまったからどうしようかって少し悩んでたところだっらのよ」
[吹雪]:「じゃあ、明確に俺を探していたというわけじゃあない?」
[聖奈美]:「ええ、祐喜があたしの様子を見て勝手にそう解釈したってわけ」
[吹雪]:「で、俺に妥協したと?」
[聖奈美]:「自分から来るってことは、暇があるってことなんでしょう?」
[吹雪]:「まあな。でも……妥協って言われるとちょっと寂しいというか」
[聖奈美]:「じゃあ……大久保、悪いんだけどあたしと買い物に付き合いなさい。一人じゃちょっと荷が重いから。……これでいいかしら?」
[吹雪]:「……さっきよりは良くなったとは思うんだけども」
[聖奈美]:「まだ何か不満があるの?」
最初の頃から比べれば、十分成長したか。
[吹雪]:「いや、ない。俺でよければ手伝うぜ」
[聖奈美]:「よろしい、じゃあ行きましょう。一先ずは商店街に向かいましょう、ダルク」
[ダルク]:「はーい」
ダルクは返事すると、杠の頭の上にチョコンと座った。なるほど、いつもああやって持ち運んでいるのか。
……………………。