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ソプラノ  作者: BAGO
カランド
83/1013

カランド(9)

[吹雪]:「多分、翔の仕業です。あいつ以外に考えられません」

[カホラ]:「……確かに、あの子なら有り得るかもしれないわね」

[吹雪]:「そんな危ないもの学校に持ってこようなんて思うの、あいつくらいしかいませんよ」

[カホラ]:「……妙にたくさんの用紙があると思ったらこういうことだったのね」

はあ、と先輩は大きなため息を吐いた。

[吹雪]:「すいません、俺から言っておきます」

[カホラ]:「……一緒に見ようとか、考えてない?」

[吹雪]:「いやいや! しないですよ。見る勇気なんてないです」

[カホラ]:「本当?」

すっげー不審な目で見られてる……。

[吹雪]:「だ、大丈夫ですって。俺を信じてください」

[カホラ]:「……まあ、健全って言えば健全なのかしらね」

さすが先輩、冷静な見解をしてくれた。

[吹雪]:「にしても、何て破廉恥なもの持ってるのかしら。……この子、確かに胸は大きいけど顔立ちは整ってないじゃない」

いやいやいや!

[吹雪]:「先輩」

[カホラ]:「え?」

[吹雪]:「女優の顔はどうだっていいことではないですか? 問題は何で学校にこんなもの置いてたのかってことで」

[カホラ]:「あら? 関係あるじゃない? このままだと、翔は顔立ちがあんまり整ってない子が好きってことになっちゃうのよ」

[吹雪]:「……メチャクチャどうでもいいことじゃないですか」

あいつの性癖なんて微塵も興味はない。

[吹雪]:「人それぞれってことでまとめておきましょうよ」

[カホラ]:「確かにそうだけど……ひょっとして私がおかしいのかしら? ねえ、吹雪はどう思う?」

[吹雪]:「はい?」

[カホラ]:「この女優の子、かわいいと思う?」

[吹雪]:「え、えええええっ!?」

[カホラ]:「だって、納得いかないんですもの。どうなの? ねえ?」

[吹雪]:「先輩、さっきのアクションと真逆のことしてませんか?」

さっきまであんなに不潔そうに俺たちのこと見てたのに、今度はアダルト女優についての意見を求めるなんて……。

[カホラ]:「それはそれ、これはこれよ。好奇心は誰にも止められないものでしょう? さ、答えて答えて」

目の前にDVDジャケットを差し出される。

[吹雪]:「お、おおおおおっ……」

まじまじと見ると、すごい胸の大きさだ。中に何が詰まってるんだっていうくらいパンパンに膨らんでて、それは正に果実というに相応しい。

[吹雪]:「す、すごいな……」

[カホラ]:「吹雪? 見るところ間違ってるわよ」

[吹雪]:「え? ああ、すいません」

[カホラ]:「エッチなんだから」

[吹雪]:「目の前にこんなもの出されたら、誰だって反応しますよ」

俺、間違ったこと言ってないよな? 俺は言われたとおり、女優の顔を見てみる。

[カホラ]:「ほら、あんまりかわいくないでしょ?」

[吹雪]:「んー、確かにそうかもしれないけど、そこまで酷くもないんじゃないでしょうか?」

角度というのもあるかもしれないが、先輩が言うほど不細工ではないと思われる。

[カホラ]:「えー? 嘘よー、だって崩れてるじゃない。口とか鼻とか」

[吹雪]:「そこまで気にするほどでも……」

[カホラ]:「吹雪もかわいくない子が好みなの?」

[吹雪]:「そ、そういうわけじゃないです。かわいいに越したことはないですから」

[カホラ]:「じゃあ、この子はダメじゃない。かわいくないもの」

[吹雪]:「どうしてそこまで否定するんですか?」

この女優に罪はないはずだが……。

[吹雪]:「何か恨みでもあるんですか?」

[カホラ]:「別に、そういうわけじゃないけど。ただ、かわいくないなーって思ったから」

[吹雪]:「……その分、スタイルがいいからいいんじゃないですか?」

[カホラ]:「……エッチ」

[吹雪]:「ええ? 何で?」

[カホラ]:「そうやって女の子を見定めてるんでしょう? あの子の肌が綺麗ーとか、おっぱい大きいとか」

[吹雪]:「し、してませんよ。ただのヘンタイじゃないですか?」

[カホラ]:「男の子なんてみーんなヘンタイじゃない」

[吹雪]:「それ言ったら身も蓋もないじゃないですか……」

[カホラ]:「まあ、別にいいんだけどー? 襲ったりしたらダメだからね?」

[吹雪]:「しませんってば! そんなこと」

[カホラ]:「……うーん、納得いかないわね?」

[吹雪]:「一体先輩は誰とその女優を比べてるんですか?」

[カホラ]:「へ? ああ、聖奈美だけど?」

[吹雪]:「……だからですよ。この子がかわいく見えないのは」

基準が随分と高い……。

[吹雪]:「杠を平均として見ちゃったら、そりゃかわいくは見えないですよ」

[カホラ]:「え? 私がおかしかったの?」

[吹雪]:「おかしいですよ」

[カホラ]:「それって、つまり吹雪は聖奈美のことをかわいいって思ってるってことね?」

[吹雪]:「え? ま、まあ一般論ですよ」

[カホラ]:「この女優さんじゃ、聖奈美には勝てないってことでしょう?」

[吹雪]:「まあ、はい」

[カホラ]:「ふうん、そっかそっか。私の基準がおかしかったのね」

[吹雪]:「まあ、何度も言いますけど、人それぞれですから。見てどう感じるかもそれぞれの自由ですから、先輩にはかわいく見えないかもしれないけどだからと言って他の人もそうだとは一概に言えないってことです」

[カホラ]:「吹雪、何だか哲学者みたいね」

[吹雪]:「「自分でもちょっと思いました」

どっかの学者さんが論じそうな意見だった気がする。

[吹雪]:「というか、何で先輩は杠を基準に持ってきてたんですか?」

[カホラ]:「やっぱり、一番この女優に体型が似てるからかしら。まあ、顔は全く似てないけどね」

[吹雪]:「た、体型ですか?」

[カホラ]:「ええ、ナイスバディでしょ? 聖奈美は」

[吹雪]:「ん、んん? ま、まあ……」

[カホラ]:「あら? その反応を見る限り、吹雪も思ってるってこと?」

[吹雪]:「え? そ、そういうわけじゃなくて。あの、あれですよ一般論です。周りからはそう見えてるみたいですから」

ガン見したことないから分からないが、確かにそんな話はあちらこちらで耳にしたことはある。そんなこと大っぴらに言えるわけないが。

[カホラ]:「とにかく、私が基準を間違ってたってことなのね?」

[吹雪]:「そう、なりますかね」

[カホラ]:「でも、この子をかわいいとは認めないわよ?」

[吹雪]:「まあ、それはご自由に」

誰の意見が正しいってこともないからな。それにしても、体型が似てるから杠に重ねて見てたか……。

確かに、杠はスタイル悪くないんだろうが、この体型ならむしろ――。

[カホラ]:「……? どうしたの?」

[吹雪]:「あ、いえ、何も」

先輩の方がスタイルだけだったら近いものがあるんじゃないのか? 胸でかいし、それに……。

[カホラ]:「吹雪? 何考えてるの?」

[吹雪]:「え? 俺、何も考えてませんよ?」

[カホラ]:「嘘ばっかり。顔に書いてあるわよ? この女優に一番近いのは先輩じゃないのって」

[吹雪]:「ええ? い、いやいや、そんなこと全く!」

[カホラ]:「だとしたら何でそんなに狼狽えてるのよ?」

[吹雪]:「あ、あらぬ疑いをかけられたからですよ」

[カホラ]:「ふうん、あらぬ疑いだったらもっとはっきり言えるものじゃないのかしら?」

[吹雪]:「え? だって、それは……」

[カホラ]:「エッチ」

[吹雪]:「く……」

[カホラ]:「他の女の子もそうやって吟味してるんじゃないでしょうね?」

[吹雪]:「そんなことしませんって! そんな勇気は俺にありません」

[カホラ]:「本当に? 信じていいのね?」

[吹雪]:「もちろんです!」

[カホラ]:「まあ、今回は許してあげるわ。こんなもの持ってきた翔が悪いんだからね」

[吹雪]:「ありがとうございます」

[カホラ]:「さ、作業再開しましょう。まだ見つかってないんだから」

[吹雪]:「あ、はい。そうですね」

忘れてしまうところだった……。

……………………。


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