ラルゴ(5)
[場所:第二音楽室]
[吹雪]:「ほら、どうぞ」
[聖奈美]:「ええ、いただくわ」
すっかり杠の表情は戻っていた。杠はストローを刺していちご牛乳を飲んでいく。
[聖奈美]:「んっ、んっ……」
[吹雪]:「…………」
何だか、イメージにそぐわない光景が目の前に広がってるな。杠が紙パックの飲み物を飲んでいるとは。勝手なイメージで、ティーカップに注がれた飲み物しか興味がないように見えるんだよな、どうしても。俺の偏見にすぎないんだが。
[聖奈美]:「何よ? 人のことジロジロ見て」
[吹雪]:「いや、飲み物、それでよかったか?」
[聖奈美]:「ええ、別に問題ないわ。選ばせたのはあたしなんだから」
[吹雪]:「そうだけど、やっぱ気になるだろ?」
[聖奈美]:「大丈夫よ、甘いものは基本的に好きだから」
[吹雪]:「そうか」
ダルクは微笑んで見せた。
[吹雪]:「よかった」
[聖奈美]:「変ね、文句を言うなって言っていたのに」
[吹雪]:「いや、買う側としてはなるべく不味いものは飲ませたくないだろう」
[聖奈美]:「ふーん、なかなかいい心がけじゃない」
[吹雪]:「そりゃどうも」
[聖奈美]:「とりあえず、甘いものは基本好きだから、覚えておくといいわ」
[吹雪]:「ああ、そうする」
[聖奈美]:「あなたは何が好きなのよ?」
[吹雪]:「え、俺?」
何だろうな……。
[吹雪]:「基本何でも好きだぞ」
[聖奈美]:「何よ、その返答。答えになってないじゃない」
[吹雪]:「いや、だって」
[聖奈美]:「その中で、特に何が好きなの?」
[吹雪]:「うーん、ハンバーグとかカレーとか?」
[聖奈美]:「随分子供っぽいものが好きなのね」
[吹雪]:「いいだろー? すっげぇ美味しいじゃないか。子供にも大人にも愛される料理だぜ。お前、嫌いなのか?」
[聖奈美]:「そういうわけではないけど」
[吹雪]:「じゃあいいじゃないか。答えになってるだろ?」
[聖奈美]:「まあ、いいわ。誰が何を好きだろうと否定はできないものね」
そう言いながら杠はパックに口をつける。
[聖奈美]:「ふう、さて、再開しましょう」
[吹雪]:「もう休憩終了か?」
[聖奈美]:「ええ、あんまり休むと、時間がもったいないもの」
[ダルク]:「無理はダメだからね? 聖奈美」
[聖奈美]:「ええ、分かってるわ」
杠はイスに腰を下ろす。
[聖奈美]:「大久保」
[吹雪]:「何だ?」
[聖奈美]:「今回は、何でもいいから気づいたことを言ってちょうだい、いいわね」
[吹雪]:「ああ、善処する」
[聖奈美]:「じゃあ、弾くから聴いててちょうだい」
杠は鍵盤に指を置いた。
次回、第三音楽室のお話です。