ラルゴ(4)
[場所:学食]
[吹雪]:「さて、頼まれて買いに来たわけだが」
何を買えばいいんだろう。というより、杠みたいな高潔な奴が自動販売機のジュースなんて飲むのか?
まずそこがちょっと気になる。
[ダルク]:「それは吹雪の偏見だと思うよ」
[吹雪]:「やっぱりそうか?」
[ダルク]:「そうだよ。確かに聖奈美は高潔かもしれないけど、ジュースだって飲むしファーストフードだって食べるよ」
[吹雪]:「そうか、俺の単なる思いこみか」
[ダルク]:「聖奈美も、吹雪たちと全く同じだよ。むしろそういうの大好きだよ、聖奈美は」
[吹雪]:「そうなのか?」
[ダルク]:「うん、特に甘いものが大好きだよ。チョコレートとかクッキーとか」
[吹雪]:「へー、何か意外だな」
随分女の子してるじゃないか。
[ダルク]:「聖奈美も女の子だから、吹雪も覚えといたほうがいいかもね」
[吹雪]:「そうだな、忘れないでおこう」
ダルクのおかげでジュースのチョイスを間違えなくて済みそうだ。
[吹雪]:「甘い飲み物っと」
これでいいかな? いちご牛乳。何かあんまり想像つかないが、甘いものが好きって言ってたし、大丈夫だと思うけど。
[吹雪]:「どうだ? ダルク」
[ダルク]:「うん、ばっちりだと思うよ」
小さな指でグッドのサインを出してくれる。
[吹雪]:「お前は何がいいんだ?」
[ダルク]:「え? 私はいいよ。聖奈美に分けてもらうから」
[吹雪]:「遠慮するなよ、金なら心配いらないぞ?」
[ダルク]:「そうじゃなくて……ちょっと、容量オーバー」
[吹雪]:「……なるほど」
ダルクの体で、この量のジュースは飲みきれないってわけか。確かに、こんなにたくさん飲んだら、宙に浮けなくなるかもしれない。
[ダルク]:「気持ちだけで十分だよ」
[吹雪]:「……、前から思ってたんだけど、使い魔って大体どれくらいの質量によって保たれてるんだ?」
[ダルク]:「それって、人間で言うところの体重ってこと?」
[吹雪]:「そんなところかな、ダルクがメスだということを分かっていながら失礼な質問だとは思うが、もし差し支えなければ参考までに教えてくれると嬉しいな」
[ダルク]:「それは別に構わないけど、……使い魔にも色々種類があるから、それぞれにはっきりとした差があるんだよね。吹雪も、私以外の使い魔って見たことはあるでしょう?」
[吹雪]:「ああ、鷹とか猫とかなら」
[ダルク]:「私はその中の小竜、ドラゴンの一種なんだ」
[吹雪]:「ドラゴン……」
見た目でそれっぽいとは思ってたが、やっぱりそうだったのか。
[ダルク]:「このとおり、私は小さいから、質量は10キロにも満たない。でも、ドラゴンにも種類があって大きなドラゴンだったら普通に100キロを越えるものもいるよ」
[吹雪]:「マスターを軽く上回るのか」
[ダルク]:「ドラゴンだからね、単純に考えればそれが普通のことではあるんだけど」
[吹雪]:「じゃあ、ダルクみたいな種類は珍しいのか?」
[ダルク]:「そう、なのかな? 大半のドラゴンは中か大の部類に入るから、小って部類のドラゴンはあんまり見たことないね」
[吹雪]:「じゃあ、ダルクは希少価値が高いということに?」
[ダルク]:「んー、そう、なるのかな?」
[吹雪]:「今のうちにサインをもらっておいたほうがいいのか?」
[ダルク]:「私は未来のスターにはなれないよ」
[吹雪]:「努力次第でどうにでもなるじゃないか。やる前からあきらめてはいけないぞ」
[ダルク]:「あ、あきらめてはいないけど、芸能関係の仕事には就けないから」
[吹雪]:「そうか? ドラゴンユニットとか組めれば売れそうな気がするんだが」
[ダルク]:「で、できないよ。その前に使い魔がマスターから離れることはできないから」
[吹雪]:「そうか、もったいない」
[ダルク]:「吹雪って、そんなにアイドルが好きなの?」
[吹雪]:「いや、別に」
[ダルク]:「あ、そう……」
[吹雪]:「じゃあ、俺は……コレにするか」
テキトーにボタンをプッシュして飲み物を選んだ。
[吹雪]:「じゃあ、そろそろ戻るか。待たせるとお怒りに触れてしまう」
[ダルク]:「うん」
俺たちは音楽室へと戻る。
……………………。