ラルゴ(2)
……………………。。
[舞羽]:「ほら、買ってきたぞ」
[吹雪]:「うん、ありがとう」
俺が買ってきたのは、パインサイダーとアイスココア。
[舞羽]:「どっちか好きなのを選ぶといい」
[吹雪]:「うん、これはどういう方針で買ってきたの?」
[舞羽]:「ん? いや、目をつぶって適当にポチっと」
[吹雪]:「本当にランダムに買ったんだ……」
[舞羽]:「はは、まあちゃんとしたもの買えたし、気にするなって」
ココアがホットじゃないのはちょっと失敗だったかもしれないが。
[吹雪]:「ほら、どっち?」
[舞羽]:「じゃあ――こっち」
舞羽はパインサイダーのほうを選んだ。
[舞羽]:「普通のサイダーと何が違うのかな?」
[吹雪]:「そりゃパインだから、パイナップル風味なんだろうよ。飲んでみれば分かるさ」
[舞羽]:「そうだね、いただきまーす」
舞羽はプルタブを開けて缶に口をつけた。
[舞羽]:「あ、おいしい。酸味が適度に利いてて」
[吹雪]:「そりゃよかった。たまにはいいだろう? 俺のランダムセレクトは」
[舞羽]:「今回は正解だね」
[吹雪]:「俺も飲むか」
タブを開けて一口。
[舞羽]:「ん、ちょっと甘みが強いな」
[舞羽]:「本当?」
[吹雪]:「ああ、今まで数々のココアを飲んできた俺には分かる。いわゆるダダ甘だ」
[舞羽]:「吹雪くん、そこまでココア通だっけ?」
[吹雪]:「いや、一ヶ月に一本飲むか程度だが」
[舞羽]:「すごく一般的だと思うけど」
[吹雪]:「だが、このココアは甘い。甘みが強い」
[舞羽]:「ココアってそんなものなんじゃないの? お砂糖たっぷり入ってるはずだし」
[吹雪]:「それを引いてもだ、この甘さは俺にはキツい。甘いものがそれほど得意ではない俺にとっては」
[舞羽]:「それが一番甘く感じる理由なんじゃ……」
[吹雪]:「そうかもしれないな」
[舞羽]:「とっかえっこする?」
[吹雪]:「いや、大丈夫。これくらいでヘバってたら男が廃る」
[舞羽]:「缶ジュースにそこまで頑張らなくても」
[吹雪]:「飲むのがいやなわけじゃないから平気だ。舞羽は気にせず飲んでくれ、ゴクゴクと」
[舞羽]:「う、うん、分かった」
舞羽はそう返してサイダーを口に運ぶ。
[吹雪]:「……べっくしゅん!」
[舞羽]:「風邪? 吹雪くん」
[吹雪]:「いや、ちょっとむずっときただけだ」
[舞羽]:「そう? ならいいけど」
[吹雪]:「最近、めっきり寒くなってきたからな」
[舞羽]:「そうだね、コートを羽織ってもまだ寒いもんね」
[吹雪]:「だな、この島が四季の変化が顕著ってのもあるんだろうけど」
[舞羽]:「そうだね、変わり目がはっきりしてるもんね」
[吹雪]:「最近は、ストーブから離れることが全くできない」
[舞羽]:「みかんでも食べながら?」
[吹雪]:「いや、食べてないな」
[舞羽]:「そうなの? 時期なのに?」
[吹雪]:「ないんだよな家に。今が旬だから食いたいとは思うんだけどよ」
[舞羽]:「今ならスーパー行くと結構安く売ってるんじゃない?」
[吹雪]:「うん、近々買いに行くか。あ、でも合宿までに食いきれる量を買わないと。腐っちまう」
[舞羽]:「お裾分けしてもいいんじゃない? メンバーに。評価が上がるんじゃない?」
[吹雪]:「うーん、そういう手もあるか」
[舞羽]:「私にしてもいいよ?」
[吹雪]:「なら舞羽にはみかんの皮をあげよう」
[舞羽]:「それって、単なる生ゴミじゃない!?」
[吹雪]:「いや、そうでもないぞ? 皮には果汁が含まれてるから、ちょっとムカつく輩がいたらこうブシュっと」
[舞羽]:「何だか仕返しが地味のような気が、というかムカつく人、今はいないから」
[吹雪]:「ん? そうなのか?」
[舞羽]:「うん。……そういうことにしておいて」
[吹雪]:「ここで舞羽の評価を下げても困るしな。うん、分かった」
[舞羽]:「評価?」
[吹雪]:「気にしたら負けだぞ」
[舞羽]:「わ、分かった」
ゴクゴクゴク。
[舞羽]:「はあ、美味しかった」
[吹雪]:「どうするんだ?」
[舞羽]:「もちろん、再開するよ。アシスタントよろしく」
[吹雪]:「やる気十分だな、よし、任せとけ」
親指を突き出すと、舞羽も同じように返してきた。
次は選択肢、第二音楽室の内容です。