ヴィヴァーチェ(4)
[舞羽]:「――くん、吹雪くん」
[吹雪]:「ん? んん」
[舞羽]:「起きて、吹雪くん」
[吹雪]:「ん、んん……」
徐々に視界が広がっていく。てか、眩しいな。
[吹雪]:「んあ? あれ」
[舞羽]:「おはよう、吹雪くん」
[吹雪]:「おはよう、あれ? 今、何時?」
[舞羽]:「四時半だよ、もう夕方」
[吹雪]:「そうか、え? 四時半?」
[舞羽]:「うん、四時半」
[吹雪]:「……ひょっとして俺、午後、全部寝てた?」
[舞羽]:「うん、そうだね」
[吹雪]:「おーい!? 舞羽、何故起こしてくれなかったんだ! 起きなかった俺も悪いけど、マユ姉の時間だけって言ってたじゃないかー」
舞羽の華奢な肩を掴んでぐらぐらと揺さぶる。
[舞羽]:「ああうううう、ご、ごめんん、で、で、でも、りり理由があるんだってばあああ」
[吹雪]:「何言ってるか分かんないぞ、舞羽」
[舞羽]:「ふ、吹雪くんが、揺さぶってるからでしょおお」
[吹雪]:「なるほど」
俺はピタリと動きを止めた。
[舞羽]:「はあ、ふう」
[吹雪]:「情けないぞ、それくらいでへばっていては」
[舞羽]:「だ、だって、結構すごかったよ? 衝撃が」
[吹雪]:「耐えるんだよ、気合いで」
[舞羽]:「そ、そんな~」
[吹雪]:「で? その理由とやらを聞かせてもらいたいんだが」
[舞羽]:「え? うん。一応、吹雪くんを起こそうとはしたんだよ? 起きてって、休み時間の時に何回も声かけたんだよ」
[吹雪]:「ふむ、それで?」
[舞羽]:「そうやって起こそうとしてたら、次の授業の先生が来て吹雪くんのことに気づいてね」
[吹雪]:「ああ」
[舞羽]:「ここ最近、ハーモニクサーとしての努力は知ってるからって、そのまま寝かせてやれって言ってくれたの」
[吹雪]:「先生が言ったのか?」
[舞羽]:「うん、今回だけは許してやるって」
[吹雪]:「何と、そんなことが」
[舞羽]:「だから、私は横で見守ってたの」
[吹雪]:「そんな理由があったのか」
[舞羽]:「うん、納得した?」
[吹雪]:「ああ、揺さぶったりして悪かったな」
[舞羽]:「目は覚めた?」
[吹雪]:「ああ、ばっちりだ」
[舞羽]:「じゃあ、帰ろう?」
[吹雪]:「みんな帰ったのか?」
[舞羽]:「うん、もうかなり前に」
そりゃそうだよな、4時前には全ての日程は終了するわけだし。
[吹雪]:「ごめんな、待たせて」
[舞羽]:「いいよ、早く家に帰ってもやることないしね」
[吹雪]:「準備するから、もう少しだけ待ってくれ」
[舞羽]:「うん、了解」
俺は急いで机の中のものを鞄に閉まった。
[吹雪]:「よし、じゃあ行こうか」
[舞羽]:「うん」
俺たちは揃って教室を後にする。