アンダンテ(5)
11月25日(木曜日)
「――吹雪くん、あれじゃないかな?」
「ああ、そうかもな」
「行ってみようよ」
「おう」
俺たちは、グランドに掲示板に張り出されたテスト結果を見に行く。
「ん? あ、吹雪、こっちこっち」
一足先に来ていた祐喜が、俺たちに手招きしていた。
「早いな、祐喜」
「気になっちゃって早く来ちゃったよ。それより吹雪、あれ見てよ、舞羽ちゃんも」
「どれどれ」
「うーん」
掲示板にはそれぞれの教科ごとの結果と、全体の成績が記されている。
「――あ、ねえ吹雪くん。あれあれ」
「ん? どれ?」
「吹雪くん、魔法の実技試験、1位に入ってるよ」
「何? マジか!?」
「マジマジ。ほら、あそこ」
舞羽の指差したところに目を凝らしてみる。……1位、大久保吹雪94点。
「ホントだ、やったぜ」
「よかったね、吹雪」
「おめでとう」
「おう、サンキュー」
二人とハイタッチを交わした。普通に嬉しかった。頑張って練習した甲斐があったってものだな。
「二人は何かランクインはあったか?」
「うーん……私は何も」
「僕は、一つだけ筆記でランクインしてるよ。5位だけどね」
「だっていいじゃないか? へい」
バチっとハイタッチをもう一度交わす。
「後は全体結果だね。探そう」
「そうだな」
「うん」
俺たちは協力してそれぞれの全体順位を探す。
「お、舞羽あったぞ」
「え? ホントに?」
「ああ、200人中、68位だ」
「やったー、前より上がったよー」
「やったな、へい」
バチっ。
「――お、僕のあった」
「何位だ? 祐喜」
「65位、舞羽ちゃんと同じくらいだね」
「でも、上なのは祐喜くんだよ? すごいなー」
「あはは、ありがとう。後は、吹雪のだけだね」
「何処にあるんだろうな、俺の」
「きっと吹雪くんのは前のほうだよ、前のほう探してみよう」
「そうだね」
三人で掲示板を見回す。
「うーん――あ、あった。吹雪くん、あったよ」
「何処だ? 何処だ?」
「ほら、あそこ」
「お、ホントだ」
大久保吹雪、34位。掲示板にそう書かれていた。
「おお、前よりも上がってる」
「やったね、吹雪くん」
「おめでとう、吹雪」
「サンキュー、二人とも」
今日すでに4回目のハイタッチを三人と交わした。
「やっぱりすごいな吹雪は。尊敬するよ」
「そうか? 面と向かって言われると照れるぞ」
「本当のことだよ、僕は本気で思ってるよ」
「マジか? …………」
「あれ? 吹雪くん、顔赤いよ?」
「い、いや、気のせいだ。うん、そうに違いない」
「怪しいな~」
「気にするな。あんまり言うと、デコピンすんぞ?」
「それはイヤだな~」
「じゃあ、下手な干渉は避けていただきたい。オーケー?」
「はーい」
「邪魔になるから、そろそろ引き上げようか? ある程度人が引いたら、また見に行こうよ」
「そうだな」
「じゃあ、一旦帰ろう」
……そういえば、翔の順位見てなかったな。ビリではないと自信満々だったが、果たしてどうだったのか、後で本人に聞いてみるか。
「…………」
「聖奈美、そんなに気にすることはないよ」
「このあたしが、また負けるなんて……何てことなの……」
「……たった1点だよ? 悲観することじゃないよ」
「1点でも負けは負けよ。……大久保吹雪、覚えてなさい」
教室に入った瞬間だった――。
「吹雪~!」
「おわあっ!?」
突然デカ物に胸に飛び込まれた。
「な、何だよ突然、気持ち悪いから離れろ!」
「オレ、頑張ったんだぜ? 今までにないくらい全力でテストに挑んだんだぜ、それなのに……それなのに……くう……」
ああ、なるほど。こいつの反応から察するにまたダメだったんだろう。これで掲示板の後ろからトップの座を6回防衛成功か。
とりあえずだ……。
「いい加減離れろ、白い目で見られちまうだろ」
「もう少し、このままでいさせて……」
「やめんか! お前は女子か!」
無理やり引っぺがした。
「くそ、何でだよ……何がダメだったって言うんだよ」
「勉強しないで遊んでたからに決まってんだろ」
「そんなことはない、前よりも大幅に勉強時間は増やしたはずだ」
「何分したんだよ、一体」
「1時間」
「少ないんだよ、それじゃあ」
「そんなことは、いつもの60倍勉強したんだぞ?」
「全然足りねぇんだよ」
つうか60倍って、今まで1分しかしてないってことか? 宿題すらできねぇぞそれじゃあ。
「そんなんじゃあ当たり前だよ、お前がビリなのは必然だ」
「でも、全部埋めたんだぞ? 一つ残らず埋めたんだぜ?」
「埋め方に問題があったとしか言いようがない。関係ないことでも書いてたんじゃないのか?」
「……くそ、悔しいぜ」
「勉強時間をもっと増やせ、それしか方法はねぇよ」
「それじゃあナンパができないじゃないか!?」
「それを削れって言ってんだよ! 一番いらねぇ時間だろそれが」
「生きがいなんだよ、吹雪はオレに死ねって言ってるの!?」
「そんなことしなくても人間生きていけるって何度も言ってるだろうが。いい加減目を覚ませ」
「覚めてるからこうなってるんだよ」
「アホかお前は!」
「うわあああ、吹雪~」
「だから、抱きつくな! 顔が近い! 乳首を触るなー!」
「……大変だよな、大久保も」
いやいやクラスメイトたちよ、静観してないで少しは手伝ってくれよ!
俺と翔の戦いはしばらく続いた。
「――というわけで、みんなよく頑張ったね。一先ずはお疲れ様~」
あれから翔は机に突っ伏してぴくりとも動かなくなった。どうやらビリということが結構ショックだったらしいな。
「特にふーちゃん、実技で1位はとってもすごいです。おねーちゃんは感動しました、また次も、1位狙って頑張ってね」
「はいはい」
「あーちょっと~、口調が荒っぽいよ~? ふーちゃん」
「今は、その呼び方はやめてください、先生」
「ぐすん……繭子悲しい……」
どうせウソ泣きだろ。
「えっと、後は……そうだ。大半の人は済ませたとは思うけどー、マジックコロシアムの締め切りは今日の夕方までだから、出ようか考えてる人は急いで生徒会まで行ってね~? それと、ピアニストとハーモニクサーの発表も、絶対に忘れないように~。いいですか~?」
「はーい」(全員)
「はい、じゃあ朝のホームルームはこれで終わりー、みんなまた授業でね~、ばいばーい」
チビ介はトットコ走って教室を出て行った。
「おめでとう、ふーちゃん」
「からかうなよな、日野」
「いいじゃなーい、愛されてる証拠じゃないの?」
「学園では公私混同はしてほしくないんだよ」
学園に着いたら、あくまであっちは先生、こっちは生徒。けじめはつけないとダメだろう。
「そんなこと言ったって、もうみんな分かっちゃってるわよ? 大久保くんと繭子先生の関係のことは」
「まあ、そりゃそうだろうな」
あんだけ連呼されてれば、誰だって分かるだろう。
「今更気にしてもしょうがないんじゃないの?」
「そうかもしれないけどよ……」
「それにかわいいしさ、ふーちゃんって呼び方」
「やめんか、それは」
「吹雪っていう勇ましい名前を完璧に打ち壊す柔らかい呼び方、よく考えたものだわ、うん」
「こっちは結構恥ずかしいんだぞ。しかもみんながいる前であんな呼び方されて……赤っ恥じゃねぇかよ」
「大丈夫よ、もうみんな分かってることだから」
「何か納得いかねぇな、それは……」
「仲がいいってステキじゃない? ねえ舞羽」
「あ、うん。そうだね」
斜め前の舞羽がこっちを振り向く。
「吹雪くんと繭さんは、見ていて羨ましいよ」
「ホントかよ?」
「うん、今時珍しいと思うよ? あんなに仲がいいのは」
一方通行の気もするんだけどな、俺としては……。
「私は、一人っ子だから分からないけど、繭さんみたいなお姉ちゃんなら欲しいと思うな」
「あげるぞ? よかったら」
「え、ええ? それは遠慮するよ」
「何だよ、ウソかよ、舞羽」
「そ、そうじゃなくて。いたらいいなってことで、実際にはもらえないよ……」
「冗談に決まってるだろ? 本気にするなよ」
「もう、イジワル~……」
――そんなゆったりとした会話をしている時だった。
バン。教室のドアが力強く開け放たれた。教室にいるクラスメイトは一瞬ピタリと止まる。
「げっ!? あ、アイツは……」
「な、何しに来たんだ?」
何やらクラスメイトが怯えているぞ。開け放たれたドアの場所にいるのは、一人の女性……随分と厳しそうな顔をしている。それに、見覚えがないわけでもない。あれは確か……隣のクラスの……。
「…………」
こっちに歩いてくるぞ、……ひょっとして、俺か?
「……っ!」
バン。突然机を叩かれた。
「な、何だよ? いきなり来てその態度は」
「あなたが、大久保吹雪?」
「だったらどうしたっていうんだ?」
「あなた、一体どんな方法で1位になったの?」
「な、何がだよ……」
「実技試験よ。魔法の実技試験」
「それがどうしたって言うんだよ」
「あなた1位になっていたじゃない。あたしを、杠聖奈美を差し置いてね」
杠……ああ、そうだ、思い出したぞ。こいつは、生徒会の会長だ。周りの男子たちが怯えてるのはそのせいか。別名風紀の鬼、学園のルールにめっぽう厳しいことからその名が付けられたって翔が前言ってたな。そいつが、一体俺に何のようだ?
「一度ならず二度までも、このあたしが実技で負けるなんて……信じられないわ」
「さっきから何だって言うんだよ、お前は」
「このあたしが、二度も凡人に負けるなんて、あってはいけないことなのよ。いえ、有り得ないわ。あなた、どんなインチキを使ったの?」
「……いきなり人のところに来て何言うかと思えば、随分とひどいこと言うじゃねぇか。やってねぇよ、インチキなんざ」
「じゃああなた、実力で1位になったって言うの?」
「それ以外に何があるっつうんだよ。実技だぞ? 誤魔化しようがねぇだろうが」
「そ、それはそうだけど……だってあたしは見てないもの。証拠にはならないわ」
「……アホかてめぇは」
「あ、アホ!? あなた、今あたしにアホって言ったの?」
「当然だろうが、証拠にはならねぇだ? テストだぞ? 横で教師がじっくり見てるんだぞ。それであたしが見てないから証拠にはならないだ? 訳分かんない事言ってんじゃねぇよ」
「ぐぐぐ……この男……」
「何だよ? じゃあお前は教師よりも偉い立場だって言うのか? じゃあ聞いてみろよ、俺が担当してもらった先生の名前教えてやるからよ」
「ぐうう……」
「おお、すげー、あの杠が押されてるぞ」
「大久保すげー……」
「い、言っておくけどね」
「何だよ?」
「あたしはアホじゃないわ。テストだって、ずっといい点数をキープしてるんだから。実技以外は、あなたよりもずっといい点数を取ってるんだから。全体順位だって、あんたよりもずーっと上なんだから」
「だから何だって言うんだよ? 俺に自分の成績を自慢しに来たのか、お前は」
「分からないの? あんたは?」
「何が?」
「杠の法則よ」
「何じゃそりゃ!?」
「杠聖奈美=頭がいい=テストでいい点を取るのは当たり前=負けるわけがない=負けることは許されない=あたしが負けたというのなら、そいつはインチキを使ってる――ってことよ」
「ただのやっかみじゃねぇかよ! アホ!」
「キー! あんた、またアホって言ったわね!?」
「言われるようなことしてるからだろ」
「一度ならず二度までも、こんな屈辱味わったのは生まれて初めてだわ」
「お前が勝手に来たんじゃねぇかよ……」
「うるさい、とにかく、あたしは納得できないの!」
「お前になんて納得してもらわなくても結構だ」
「してもらわないと困るの。というかしなさいよ、あたしを唸らせて見なさいよ」
「何で上から目線なんだよお前は! 仮にも負けたのはお前なんだぞ」
「あたしは負けてない。まだ決まってないわ」
「決まってるだろ! 掲示板見ただろ!」
「あたしが決まってないって言ったら決まってないの。そう決まってるの」
何ていうエゴなんだ……本当にコイツ、風紀の鬼なのか? やってること無茶苦茶だぞ。
「大体何よ、その吹雪って名前は。氷系の魔法を得意とするあたしへの挑戦状?」
「名前は関係ないだろ。俺の意思でこの名前にしたんじゃないんだよ」
変わってる名前だとはよく言われるが、今問題はそこじゃない。
「あなた、気に入らないわ」
「俺の台詞だ! それは。ホントに何なんだ? お前は。俺に喧嘩売りに来たのか?」
「だから言ってるでしょ? 納得させて欲しいの」
「それが人にものを頼む態度かよ?」
「見せてくれてもいいわよ?」
「何も変わってねぇじゃねぇかよ!」
「とにかく見せてほしいの! それまであたしは、あなたが実技で1位だって認めないからね」
「だから、お前に何て認めてもらわなくても……」
「逃げるの? あたしに怖気づいて、尻尾巻いて逃げるの?」
何なんだこの状況は……どうして俺が不利な状況に追い込まれているんだ。
「その程度の男なの? あなたは」
「……ち、じゃあどうすりゃいいんだよ」
「ふふん、簡単なことよ。マジックコロシアムに出てちょうだい。それで、決勝の舞台であたしと戦って、見事あたしに勝てたならば、認めてやってもいいわ」
やってもいいって……俺が言いたいよ、その台詞。
「実技でそこそこの成績をキープしているようだし、まさか決勝までこれないということはないでしょう? あたしが直々に、あなたの力を試してあげるわ」
「お前が決勝まで上がってこれるって保障もないだろう」
「何ですって!? あなた、去年のマジックコロシアムを見てなかったの?」
「見てたけど、それがどうしたっていうんだよ」
「あたし、去年1年生だけど、優勝したのよ。自分の実力を学園中に知らしめたのよ。それを知らないっていうの?」
「そうだったのか……」
「くうう……何よそのどうでもよさそうな反応は」
確かにすごいとは思ってるけど、コイツが言うとどうもすごいと思えなくなる。
「ホントに、あなたはあたしを怒らせるのが得意ね」
「お前がこの教室に来なきゃこんなことにはならなかったと思うぞ」
「とにかくよ、あたしは今年、マジックコロシアムで二連覇がかかってるの。言わば優勝候補よ。そのあたしを下してみなさい。ま、無理だとは思うけどね」
随分と自信があるようだな、コイツは。やっぱり、出なきゃダメなのかね? 流れからして。
「ここまで来て、出ないなんてことはないわよね。大久保吹雪」
「ちょっと待て、今考えてる……」
「考えないでそこはスパっと決めなさいよ。男でしょう、あなた!」
「うるさいんだよ! 少し口閉じてろ馬鹿たれ」
「アホに続いて馬鹿ですって……少ししか言われたことないのに」
言われたことあるんかい。
「吹雪くん……」
確かに、ここまでコケにされて(?)黙ってるのもおもしろくないな。出る気なんてなかったけど……仕方ない。
「分かった、出てやるよ」
「ふふん」
「おおー、大久保くんが立ち上がった」
「いいの? 出たことに後悔するかもしれないわよ?」
「お前が出ろって言ったんじゃねぇかよ」
「そういうのは言わなくていいのよ」
「何なんだよ……」
「見てなさい、あたしは絶対、あなたに勝ってみせるわ。絶対にね」
「ああ、そうかい」
「その冷めた口調、ホントに気に食わないわね」
「お互い様だよ」
「逃げるんじゃないわよ? ふんっ」
言うだけ言って、杠は身を翻して帰っていった。何ちゅう女だ、アイツは……。
「ふ、吹雪くん」
「――てわけだ。出ることになっちまったから、応援よろしくな」
「う、うん。頑張ってね、吹雪くんなら絶対に勝てるよ。でも……大丈夫なの? 急にこんなことになって」
「――まあ、大丈夫だろう」
最近は――落ち着いてもいるしな。
「やるからには頑張るよ」
「これはおもしろくなってきたわねー。今年のマジックコロシアムは必見ね」
「そんな大事じゃあないだろ?」
「いやいや、これはとんでもない名勝負になる予感がするわよ。近年は凡戦ばっかりであんまり見る気はしなかったけどさ、実技1位と2位の者同士の争いなんて、胸躍る大イベントじゃない。……どっちに賭けようかしら」
「賭博かよ、おい!」
「大丈夫よ~、大久保くんのほうにも賭けるから~」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「よし、オレも吹雪に一点賭けだ。負けんなよ? 吹雪」
「賭けんな!」
「翔だけに?」
「寝てろ」
「ふぐおっ!?」
翔はまた机に突っ伏した。
「ふう……にしても、すごい奴だったな、あいつ」
「うん、そうだね」
「あまり、聖奈美を憎まないでやってくれませんか?」
「ん? 誰だ?」
「あ、ここ、ここです」
「おお!?」
ふと顔を上げると、目の前にふわふわと浮かんでいる生き物の姿があった。
「君は?」
「あ、わたし聖奈美の使い魔やってます、ダルクっていいます。始めまして」
「ああ、どうも」
「おはようございます」
とりあえずは自己紹介をしておいた。何だ、あいつ使い魔なんて持ってるのか。杠とは違って理解力がありそうで。
「すいません、えっと……」
「ああ、吹雪だよ」
「舞羽です、よろしくね」
「吹雪さん、ごめんなさい。驚いたでしょう?」
「まあ、ちょっとな」
あんな唐突に勝負を申し込まれるとは思わなかったからな。
「俺、あいつに何か悪いことってしたか?」
「いえ、そんなことは。吹雪さんは何にも悪くありませんよ」
「そうなのか?」
「はい、吹雪さんは自分で努力してあの結果を出したんですから、誰も口出しすることはできません。それに、誰も吹雪さんがズルをする人なんて思ってないでしょう?」
「もちろんだよ」
いち早く舞羽がうなずいてくれた。
「聖奈美は昔からあんな感じなんです。さっきのあれも、別に吹雪さんにイラついてたんじゃないと思います。多分、負けてしまった自分に対してイラついてたんだとわたしは思ってます」
さすが使い魔、主のことを理解しているようで。
「聖奈美はとんでもない負けず嫌いでして。何でもトップになりたい性格なんです」
「だから、生徒会か?」
「そうかもしれないですね」
なるほどね。まあ、勝ちたいと思う気持ちは悪いとは思わないが。
「根は普通の女の子ですから」
「確かに、いや、それ以上だ」
「うわっ!? 急に起きんな」
「見てたか? 吹雪よ」
「何をだよ?」
「杠のことだよ。あいつ、かなり胸でかかったぞ」
「どこ見てんだよ! お前は」
「女性って言ったらまずは体チェックだろ。基本だぞ」
「――ふんっ!」
「んがあっ!?」
ふう、大人しくなったな。
「悪い、忘れてくれ」
「あ、あはは……」
ダルクと舞羽は案の定苦笑いを浮かべていた。
「男の人って、みんなあんなのなんですか?」
「……無きにしもあらずだが、あいつは自他ともに認める変態だから。普通はあんなオープンではない」
「な、なるほど」
「悪いな、気持ち悪い奴で」
「あ、大丈夫です」
「――ダルク、別に敬語じゃなくていいぞ。普通にしゃべれ、何だかむずがゆい」
「そ、そうですか?」
「ああ、落ち着かないからよ」
「――分かった。これでいい?」
「うむ」
「ところで、吹雪は本当に出るの? マジックコロシアムに」
「ん?」
「だって、聖奈美が勝手に決めたことでしょ? 無理に出なくても問題ないと思うから」
「んー、でもな。一度言った手前、キャンセルってのはちょっと気が引けるんだよな」
それに、あそこまで言われてしまうと、どうも気分がすっきりしない。
「問題ない、出る。出て杠を打ち負かして、完全に証明してやるさ」
「……そっか。本当はマスターを応援しなくちゃいけないんだけど、頑張ってね」
「おう、サンキュー」
「決勝の時は聖奈美を応援しなきゃいけないから、許してね」
「ダルクは、杠が決勝にいけることを確信してるんだな」
「まあね、何だかんだいっても、聖奈美は魔法が得意だし、去年は優勝してるし。いける可能性は高いと思う」
「なるほど」
いい使い魔じゃないか、ダルクは。
「じゃあ、そろそろ戻らないと。またね」
「ああ」
「バイバイ」
ダルクはふわふわと教室を出ていった。
「杠さん、あんなかわいい使い魔飼ってたんだね」
「みたいだな」
悔しいがそれだけ杠は力を持ってるということになる。人並みの魔力では使い魔は召喚することはできない。だけどあいつはそれを飼っている。使い魔を召喚するだけの魔力を持っているということだ。ナメてかかると痛い目を見そうだな、こりゃ。
「私もほしいな、あんな使い魔」
「魔導書でもあさってみたらどうだ? 明日から飼える使い魔、みたいな」
「そんな簡単に召喚できたら苦労しないよー」
「言ってみただけさ」
「というか、吹雪よ」
「もう起きるなよ、お前」
「お前マジックコロシアムに出るのか?」
「ん? ああ、そういうことになっちまった」
「じゃあ、オレと一緒に――」
「却下だ」
「まだ全部言ってないのに! どうして? 何で?」
「邪魔なの」
「そんなはっきりと!?」
「というか、今回はだめなんだよ。俺一人で出なきゃいけないんだ」
「残念だぜ、じゃあ、来年一緒に出ような? な?」
「か、考えといてやるよ」
というか、やっぱりお前出るのかよ……。