エスプレッシーヴォ(9)
[場所:スーパー]
よし、とりあえず卵があるかチェックだ。残ってるといいが。
[繭子]:「あ、ふーちゃん、あれじゃない?」
[吹雪]:「ん? おっ!」
マユ姉が指差す先には、確かに俺たちの欲する卵があった。
[繭子]:「よかった、まだ余ってた」
半分くらい減っていたが、どうやら手にいれることができた。
[吹雪]:「マユ姉、かごに入れてくれ」
[繭子]:「はーい。よいしょ、よいしょ」
よし、とりあえず第一の目的の品はゲットだ。ここのスーパーはとりあえずオッケー、すぐ次のスーパーに行くとしよう。
……………………。
[吹雪]:「マユ姉、今日は何が食いたい」
[繭子]:「え? リクエストしていいのー?」
[吹雪]:「特に今日は決めてなかったからな。決めてもらったほうが作りやすい」
[繭子]:「ホント? やったー」
そんなに嬉しいことなのか。
[繭子]:「えっと、じゃあねー」
[吹雪]:「できれば俺が作れるもので頼むぞ」
[繭子]:「うん、じゃあ、えっとー。うーん、食べたいものがいっぱいあって一つに絞れないよー」
[吹雪]:「絞れ、気合いで」
[繭子]:「気合いで、よし、脳内ルーレット、スタート!」
何かわけ分からんことを始めやがった。
[繭子]:「グルグルグルグルー」
効果音自分でつけるのかよ。
[繭子]:「ピタ。よーし、決まったー!」
[吹雪]:「で? 何にするんだ?」
[繭子]:「唐揚げ~」
[吹雪]:「唐揚げか……」
それなら、何とか作れるな。ただ、それだけだとバランスが悪いから、
[吹雪]:「唐揚げと野菜サラダでいいか?」
[繭子]:「うん、ノープロブレム」
決定だな、じゃあ野菜を買わないと。俺たちは野菜コーナーへと向かう。
[吹雪]:「えっとキャベツにニンジン長ネギにゴボウ」
なるべく利用機会の多いものを多めに買って食費を節約したいから、
[繭子]:「ふーちゃん、お菓子は?」
[吹雪]:「まだ家に残ってるだろう? 食いかけの奴」
[繭子]:「買っちゃダメ?」
[吹雪]:「だから残ってるだろう? あれ食べてからにしろって」
[繭子]:「だってー、あれあんまり美味しくないんだもん」
[吹雪]:「買ってって頼んだのマユ姉じゃねぇかよ」
[繭子]:「だって、買う前は美味しいと思ったんだもん、食べてみたら全然美味しくなくて、むしろマズくて食べる気起きないの」
[吹雪]:「だって買ったのはマユ姉なんだから、食べきるのが常識だろう」
[繭子]:「ふーちゃんも食べてみてよー。絶対食べる気おきなくなるからー」
[吹雪]:「どんな味するんだよ、そのお菓子は」
[繭子]:「えっとね、捌く前の魚の味」
[吹雪]:「どんな味だよ、それ」
[繭子]:「ホントにそんな感じなんだってば」
[吹雪]:「何故それを美味しいと思ったんだよ、マユ姉は」
[繭子]:「何事もチャレンジだと思って」
[吹雪]:「もっと違うとこに活かせ、そういうのは」
[繭子]:「次から気をつけるからーね? お願い」
[吹雪]:「はあ、一つだけだからな? 二つは持ってくるんじゃないぞ?」
[繭子]:「やったー、ふーちゃん大好きー」
マユ姉はお菓子コーナーにとっとこ走っていった。あんなことしてるから子供に間違えられるんだと思うのは俺だけか? まあ、俺は品定めを続けよう。
[おばさん]:「あら? 吹雪くん?」
[吹雪]:「あ、どうも」
昔から働いているスーパーのおばさんだ。
[おばさん]:「いつもご贔屓ありがとうね」
[吹雪]:「いえ、こちらこそ。いつも美味しく食べさせてもらってます」
[おばさん]:「本当? それならよかったわ。今日も一人で来たの?」
[吹雪]:「いや、今日は姉と一緒です」
[おばさん]:「あら、繭子ちゃんも。珍しいわね」
[吹雪]:「仕事が早く終わったんで、連れてきたんです」
[おばさん]:「そうなの、でも姿が見えないけど」
[吹雪]:「あっち、お菓子コーナーでお菓子選んでますよ」
[おばさん]:「そう、変わらないわねー繭子ちゃんは」
[吹雪]:「本当に、少しも変わってないんですよ」
[おばさん]:「まあまあ、それはそれでいいことなんじゃないかしら?」
[吹雪]:「そうですか? 俺はあまりよくないと思うんですけど」
[おばさん]:「こんなこと言ったら繭子ちゃん怒るかもしれないけど、繭子ちゃんがあんな感じだから、吹雪くんはしっかりした子になれたんじゃないかしら?」
[吹雪]:「……それは、あるかもしれませんね」
自分で言うのははばかられるが。
[おばさん]:「それに、ああいう感じだから繭子ちゃんって実感が持てるわけだし。大人しかったら繭子ちゃんじゃなくなるんじゃないかしらね」
[吹雪]:「状況によっては大人しさを使い分けれればいいんですけどね」
[おばさん]:「そこは姉弟パワーで何とかしなきゃ、吹雪くんの出番じゃない」
[吹雪]:「マジですか? そろそろ俺も疲れてきましたよ?」
[おばさん]:「頼りにしてるのよ、吹雪くんを。面倒みてあげなくちゃ。それが吹雪くんの役割よ」
[吹雪]:「そうですよね、一人じゃ何もできないからな、マユ姉は」
[おばさん]:「頑張ってね、私たちもサポートするから。安い食品でね」
[吹雪]:「はは、お願いします」
[おばさん]:「ふーちゃーん、これにするよー。ポテトチップの照り焼きチキン味ー」
どうやら帰ってきたらしい。