エスプレッシーヴォ(8)
・自宅
[場所:自宅]
[吹雪]:「……遅いな」
6時頃には帰ってくると聞いていたんだが。もう15分程過ぎている。まあ午前中はマユ姉も練習だから、仕事が時間内に終わらないのも無理ないか。気長に待つとしよう。
……………………。
[繭子]:「ただいまー」
玄関の方から声がする。帰ってきたか。茶の間のほうに、スーツ姿のちっこいのがやってきた。
[繭子]:「ふー、疲れたー」
[吹雪]:「長引いたのか?」
[繭子]:「うん、ホントは上がることもできたんだけど、残すのやだったから終わしてきたの」
[吹雪]:「ほー、マユ姉にしてはまともな判断だな」
[繭子]:「でしょでしょー? エラい? エラい?」
軽い皮肉を言ったつもりだったんだけどな。
[吹雪]:「ごく一般的な判断だと思うぞ」
[繭子]:「それができたらエラいでしょー? ねえ、誉めて? 誉めてー」
[吹雪]:「ずっとそれができたら、誉めてやるよ」
[繭子]:「えー? ぶー、ぶー」
[吹雪]:「ブーイングしてもダメだ」
[繭子]:「うー、いいよ、頑張るから」
[吹雪]:「その意気だ」
さてと。
[吹雪]:「マユ姉、ちょっと買い出しに付き合ってくれ」
[繭子]:「え? 買い出し?」
[吹雪]:「そう、買い出し」
[繭子]:「あれー? いつもふーちゃん一人で行ってなかったっけ?」
[吹雪]:「まあそうなんだが、とりあえず、これ見れ」
俺は二枚の広告を見せてやる。
[吹雪]:「今日はセールがあるんだよ。野菜がいつもより安いし、卵に至っては半額くらいで買えるかもしれない。でも、お一人様一点限りなんだ。だから、マユ姉に来てもらって、二つ購入したいんだ。付き合ってくれ」
[繭子]:「うん、分かったー。ワタシ、全力で頭打つよー」
自分の役割を分かってくれて何よりだ。
[繭子]:「じゃあ、着替えてくるから少し待っててねー」
[吹雪]:「なるべく早くな」
[繭子]:「はーい」
こういう時は、マユ姉でも役に立つな。逆を言えば、こういうとこでしか役に立たないんだが。まあ、昔からこんなだからいいんだけど。
さて、俺は外に出て待ってるか。
……………………。