エスプレッシーヴォ(6)
というわけだ。今もせっせと作業をしている最中だ。
「よっと……」
「よいっしょ」
「二人とも、後どれくらいかかりそう?」
「うーんと、残ってるのが20部くらいだから、15分くらいかな?」
「15分、分かったわ。終わったらまた知らせてちょうだい。違うのを用意するから」
「了解」
「次はこれをしなくちゃ」
杠はすぐに違う用紙に慣れた手つきで文章を書いていく。淀みなくスピーディに仕事をこなしていく姿は、確かに生徒会長の趣があった。
「どうしたの? じっと見て」
「いや、何でもない」
「そう? ひょっとして疲れた?」
「そんなんじゃないさ、問題ない」
「無理はしなくていいからね」
「おう、サンキュー」
会話しながらも手は動かす。大分体に染み着いてきたな、この作業。
「あれ? そういえば今日は祐喜はどうしたんだ? 姿が見えないけど」
「祐喜なら、他のメンバーと部室の検査に行ってるわ」
「部室の検査?」
「そう、定期的に行ってるものよ。あなたたちのところにも、生徒会が来たことあるでしょう?」
「そう言われれば、確かに……」
「あたしたちは生徒を信じてる。でも、絶対に何もしてないって保障はない。だから、あたしたちが直々に出向いて、そういう悪いことをしてないか、変なものがあったりしないかをチェックしてるわけ」
「なるほどな」
「まあ、当たり前のことだけどね」
「で、問題は起きてないのか? 今のところ」
「不審物とかは出てないけど、お菓子とかが出てくる時があるわね。特にサッカー部とかバスケ部とかね」
「そうか」
「他の学校はどうか知らないけど、ハルモニア学園は学内のお菓子の飲食は禁止だから。罰するに値する行為よ」
「過去に何回あったんだ?」
「あたしたちが引き継いでから、二回ほどあるわね」
「引き継いだのはいつだ?」
「9月からよ」
「……頻度高くないか?」
「よっぽど食べたいんでしょう? お腹が減ってるからなんだろうけど、それなら家に帰って夕ご飯食べなさいよ」
「まあ、そうだな」
「だから、サッカー部とバスケ部は厳しめに見てもらうようにしてるわ。同じ問題を起こしかねないからね」
「やっぱりあるんだよな? ペナルティとか」
「もちろん、二回までは注意だけだけど、三回やらかしたらもう容赦せずに罰するつもりよ」
「その罰とは?」
「至ってシンプルよ。部費をさっ引いてやるわ」
確かにシンプルだ。だが威力はこの上ないな。
「サッカー部やバスケ部は部費を他の部よりも多くもらっているから成り立っているわけでもある。もし、その一部を減らされたりしたら……もう言わなくても分かるわよね」
「あ、ああ」
「まあ、絶対にもうしませんって意欲が見えれば返してやらないこともないけどね。懲りないようならそのまま生徒会が預かっておく。あなたたちの部活も、そんなことにならないように注意することね」
「肝に銘じておく」
「賢明ね」
そう返し、杠はまた机に向かっていく。俺も、仕事に集中するか。
……………………。
…………。
……。