エスプレッシーヴォ(5)
・生徒会室
[場所:生徒会室]
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「…………」
[吹雪]:「…………」
[ダルク]:「はい、聖奈美。五年前までの水質調査の結果」
[聖奈美]:「ええ、ありがとう」
[吹雪]:「杠、ホッチキスの針がなくなっちまったんだけど」
[聖奈美]:「なら、入り口のところの棚、上から二番目にあるはずだから勝手に取って。もしなかったら黒い紐か何かで縛ってまとめてちょうだい」
[吹雪]:「ああ、上から二番目っていったか?」
[聖奈美]:「ええ、そうよ」
[ダルク]:「あ、いいよ吹雪。私が取ってくるよ」
[聖奈美]:「ダルク、行かなくていいわ。それくらい大久保にもできるでしょう」
[吹雪]:「ああ、ダルクはダルクの作業してくれていいぞ」
[ダルク]:「そ、そう?」
[吹雪]:「ああ、えっと、二番目……」
――このような構図になったのは、今から一時間くらい前に遡る。
[吹雪]:「さてと、用もないし、部活もないし、どうしよう。帰ろうかな」
[翔]:「ふーぶきちゃん、あーそびーま――」
[吹雪]:「よし、帰ろう」
[翔]:「まだ言い終わってないのに!」
[吹雪]:「ああ、翔か」
[翔]:「知ってただろうよ、オレが来てたことに……」
[吹雪]:「悪い、近頃耳が遠くてな」
[翔]:「うう、ホントに最近冷たいな吹雪は。名前どおりになってきちゃってるぜ」
[吹雪]:「そんなこといいから、用件は何なんだ? 端的に言ってくれ」
[翔]:「ああ、この後暇なら、ちょっと街まで行って――」
[吹雪]:「ああ、ちょっと難しいな、それは」
[翔]:「まだ言い終わってないのに! パート2!」
[吹雪]:「元気だな、お前は」
[翔]:「何でだよ? 暇だって言ってたじゃん。どうしようって自問してたじゃん」
[吹雪]:「確かに何も用事はない。が、お前に付き合えるほど俺は暇じゃあないんだ」
[翔]:「何だよそれは! お前は例外みたいな、そんなにぞんざいに扱わなくてもいいじゃん!」
[吹雪]:「だって、疲れるんだよ、お前といると」
[翔]:「ぐっはぁ! そ、そんなストレートに」
[吹雪]:「行事の特訓も始まった今、お前に付き合ってたら体力が保たない。よって、お前に付き合っている暇はないんだ」
[翔]:「オレって、そんなに邪魔者なのか?」
[吹雪]:「まあ、場合による、そこまで気にするな」
[翔]:「気になるよ! 場合によるなんて言われたら!」
[吹雪]:「ま、とにかく。今日は大人しく帰ったらどうだ? 罰は当たらないだろう」
[翔]:「うう、吹雪の、バカ……」
男にそんな言葉言われても、あまりぐっとはこないな。さて、翔の追撃を払いのけたわけだけど、本当に何しようかな。ちょうどその時だった。
[聖奈美]:「大久保、大久保はいる?」
ドアのところで俺の名前を呼ぶ声。そこにいたのは杠だった。とりあえず俺はあいつのところに向かった。
[聖奈美]:「いるのなら返事くらいしなさい、失礼でしょう」
[吹雪]:「悪い。で? 何だよ、お前が俺のところにくるなんて」
[聖奈美]:「もちろん、用があるから来たのよ。それ以外は何もないわ」
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「な、何よ?」
[吹雪]:「いや、当然のことを言ってるのは分かるんだが、何かちょっと悲しい気持ちが」
[聖奈美]:「あなた、それ以外のことを考えてたっていうの?」
[吹雪]:「そういうわけじゃあないんだが、よく分かんないな。いいや、忘れてくれ」
[聖奈美]:「変な男ね、まあいいわ。こんな話をしにきたわけじゃないのよ。あなた、この後時間ある?」
[吹雪]:「時間? ああ、特に予定らしいものは入ってないが」
[聖奈美]:「なら、少しあたしに付き合いなさい」
[吹雪]:「え?」
[聖奈美]:「そ、そういう意味じゃないわよ! 生徒会よ、生徒会」
[吹雪]:「ああ、そういうことか」
一瞬ドキっとしてしまった。
[聖奈美]:「単純に考えて分かるでしょう?」
[吹雪]:「翔あたりなら絶対に勘違いするだろうな」
[聖奈美]:「あ、あれは別物よ。あれを普通の人と一緒にしちゃいけないわ」
[吹雪]:「なかなか言うじゃないか」
[聖奈美]:「自業自得よ、彼が勝手にまいた種なんだから」
[吹雪]:「そうだな」
全てはあいつのせいに違いない。
[吹雪]:「で、何で俺が生徒会に行かなくちゃいけないんだ? 俺より詳しい人はたくさんいるはずだが」
[聖奈美]:「本当なら、生徒会の仕事は生徒会に頼むわよ。ただ今日も人手が足りないのよ。もともと少人数の活動だから、人手が足りないのはいつものことなんだけど、このままじゃあ軌道に乗りきれないのよね。だから、あなたに援護を要請したいの。手伝ってもらいたいのは綴じ込み作業だから、以前やったことがあるあなたなら無難にこなせると思ったから。それが一番の理由よ」
[吹雪]:「なるほど」
[聖奈美]:「やってもらえないかしら?」
[吹雪]:「やってもいいが、それ以外には何も手伝えないぞ? 生徒会のことは全く分からないから」
[聖奈美]:「心配いらないわ。生徒会の仕事はあたしがこなすから。大久保は綴じ込みに専念してくれればそれでいい」
[吹雪]:「そうか、だったらいいぞ。手伝おう」
[翔]:「なーぜーだー」
[吹雪]:「うおっ!?」
[聖奈美]:「きゃあっ!?」
[吹雪]:「お、お前、帰ったんじゃなかったのかよ」
[翔]:「別にいいじゃないか、帰るも帰らないもオレの勝手だ。それより、どうしてなの? どうしてオレの誘いは断るのに、杠の誘いはそんなあっさりと了承するの?」
[吹雪]:「そりゃあ、決まってるだろ」
[翔]:「何だよ」
[吹雪]:「お前にかまってたら疲労がたまるからだよ」
[翔]:「チクショーーーー! 吹雪のおバカー! えーーん!」
翔はすごいスピードで教室を去っていった。
[聖奈美]:「いいの? あんなこと言って」
[吹雪]:「心配ない、あいつは明日になったら今日のこと忘れてる」
[聖奈美]:「そ、それはそれでいいのかしら……」
[吹雪]:「ま、あいつのことはどうでもいいじゃないか」
[聖奈美]:「そ、そうね。じゃあ行きましょう」
俺たちは生徒会室へと向かった。
……………………。