アンダンテ(4)
――さてと、授業も終わったし行くとしよう。
「舞羽、行こうぜ」
「あ、うん、ちょっと待って。えーっと……」
「何だ? 探し物か?」
「うん、ちょっとね。えーっと……あ、あった」
「何だそれ? ペンダントか?」
「うん、お守りなの。これを持ってると、何だか落ち着くんだ」
「お守りか。俺は専らマユ姉のお守りしかしてないな」
「あはは、仲が良くていいじゃない」
「ええ~? 普通は逆なんじゃねぇの? にしたってダメダメすぎるけどよ。はあ、俺に何かあったら、マユ姉のこと頼むな? 舞羽」
「え? う、うん。何かあるの? 近々」
「……ぐわああああっ!?」
「ひゃっ!? どどど、どうしたの? 吹雪くん!」
「く、苦しい……俺は、もう、ダメだ……がくっ」
「ちょ、ふ、吹雪くん!」
「――てなことがあったらの話さ」
「あ、う……もー、吹雪くんのバカ、バカ~」
「はっはっは、俺は殺されても死なねぇよ」
「そういうのはやめてよー、縁起が悪い」
「いや、ついな。舞羽はからかいたくなるんだよ」
「もう……イジワル……」
「さ、そろそろ行こうぜ」
「うん」
……………………。
「おいっす」
「こんにちは~」
「あ、来たわね」
座って待っていた女子が一人、こちらに向かって歩み寄ってくる。
「遅いわよー二人とも。何処で油売ってたの?」
「ちょっと探し物してて」
「何探し物って? 恋? 愛? 優しい心?」
「何でそんな目に見えないものばかりだよ」
「うん、今日も鋭いツッコミね、大久保くん」
「相変わらず元気だね、愛海は」
「当たり前じゃない毎日全力で生きなかったらもったいないじゃない? 今日と言う日はもう今日しかないんだから。そこんとこ分かってる? 二人とも」
「まあな」
「うん」
「ならもっと楽しそうな顔して、笑って、泣き笑って」
「な、泣く必要はないでしょう」
「そう? 何か感動シーンっぽくなるでしょ? 泣き笑ったら」
「今はそんなシーン必要ないでしょ?」
「サービスショットじゃない? ユーザーに対しての」
「な、何の話?」
「ま、とにかく。二人とも、笑って過ごしたほうがいいよ。アンダースタン?」
「ああ、努力する」
「分かった」
「よろしい」
――日野愛海。舞羽の友達で、同じ部活の仲間だ。いつも元気なのがトレードマーク、少し翔と相通ずるものがある。こんなんだから、部の雰囲気はいつも明るくなるんだ。
「そろそろ入れてくれないか? 中に」
「合言葉」
「何だよそれ!?」
「部に入りたいなら、合言葉を言いなさい」
「き、聞いてないよーそんなの」
「うん、だって今思いついたから」
「思いつきかよ」
「いいからー、合言葉。行くわよ? ――山」
「えっと……川?」
「ブッブー、舞羽ハズレ~」
「いや、ハズレじゃないだろ。山っていったら普通は川なんじゃねぇのか?」
「大久保くん、私がそんなノーマルな答えを望むと思う? 答えは捻って、捻って編み出すものよ。はい、山?」
「……分からないよ~」
「はい時間切れ~。答えは――上憶良でしたー」
「分かるか、そんなもん!」
「分からないよー!」
「おお、ダブルツッコミ、やるわね二人とも」
「もっと簡単なのにしてくれよ」
「うーん、じゃあ……私の好きな食べ物は何でしょう?」
「あ、それなら私が分かるよ」
「はい、じゃあ答えをどうぞ」
「確か……カステラとチーズケーキだったよね」
「ブッブー」
「え? 何で?」
「確かに大好きよ、その二つは。でも、私が望んだ答えじゃなかったわね」
「え? 何だったの?」
「正解は――男の子です」
「食う意味違うわ、馬鹿チン」
ビシッ。
「おおー、炸裂したわね、吹雪チョップが」
「まだ昼間だ。下ネタは夜まで我慢しろ」
「もう午後じゃないのー。午後になったらこっちのものでしょー?」
「一応公共の場なんだから、大概にしとけよ」
「楽しいのになー、残念」
「というか、本当に入れてくれよ。日野の問題は難しすぎる」
「ウソー? これでも簡単に作ってるつもりよー?」
「日野の簡単は俺たちにとっての難しいに値するんだよ」
「これが個性って奴なのね。みんな違ってみんないいなのね」
「丸パクリじゃねぇか」
「by、日野愛海」
「勝手に著作権を略奪すんな」
ビシッ。
「あーん、容赦ないわねー、大久保くんは」
「もういいだろ? 入れてくれって」
何だかんだ言って、少々人に見られているんだ。
「じゃあ、激甘の問題にしてあげる。これならきっと解けるはずよ」
「本当に解けるの?」
「ええ、ディップさんでも解けるわ」
「誰だよソレは」
「それじゃあ行くわよ? 今私たちはマラソン大会に出ています。大久保くんが5位を、舞羽は4位を走っています。さて問題、大久保くんが舞羽を抜くと、大久保くんの順位は何位になるでしょうか?」
「えっと、私が4位なんだから、吹雪くんはさん――」
「待て、舞羽」
「んむううっ!?」
危なかった、コレは引っ掛け問題だぜ。
「答えは、4位だ」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
「タララーン……正解!」
「よし」
「よく引っかからなかったね、大久保くん」
「まあな、危なかったけど、何とか分かった」
俺が5位で舞羽が4位、これがポイントだ。4位の舞羽を抜くと3位に順位が上がると考えがちだが、4位の人間を5位が抜くということは単純に順位が入れ替わるということ。つまり、4位の人間を抜いたら、自分が4位に変わるということになる。よくできた引っ掛け問題だと思う。
「さすがね、おめでとー。あ、そうだ吹雪くん」
「ん?」
「そろそろ、舞羽の口から手を離してあげたほうがいいかもよ」
「あ、しまった!」
「ん、……むふぅ……」
慌てて離したが、少々舞羽はぐったりしてしまっていた。
「すまん、舞羽」
「うう、一瞬お花畑が見えたよ……」
「悪い、つい……」
「うん、大丈夫。また戻ってこれたから」
「どんな花が咲いてた?」
「えーっと……ラベンダーとかコスモスとか、いっぱい咲いてたよ」
「そーなんだー、へー」
「いや、真面目に答えなくていいって」
まだまだそこに行くのは後の話だ。
「ま、とりあえず、正解したから入っていいわよー」
俺たちはようやく中に入れてもらった。中にはまだ誰もいなかった。
「愛海、一人だったの?」
「うん、空けた瞬間、冬を彷彿とさせるとても肌寒い風が私を包み込み、全身をブルブル震えさせながら待ってたわ」
「いや、ストーブついてんだろこの部屋」
「う……」
部屋は十分暖かかった。
「話を盛ろうとするな」
「……えへ♪」
「かわいく言ってもダメだよ、愛海」
「お茶目よ、お茶目。笑って流してよ」
「もう」
「とりあえず、だ。3人になったし、あれ、やり始めよう」
俺たちは部室の奥の、開発中の品を持ってくる。
――魔法研究部。俺たちが所属する部活だ。その名のとおり、魔法を研究する部活だ。歴史、実践、魔法のアレンジなど、魔法に関することを色んな視点から見て学び、魔法に親しむのがこの部活の目的だ。実は俺が部長、舞羽は副部長だ。あまり人員は多くないが、みんなそれぞれ楽しく活動できているようだから問題はない。翔も一応この部活所属なんだが、魔法が得意ではない故、あまり足しげくここに来ることはない。まあ、来てもしゃべってるだけだから、居ても居なくてもあまり問題はない。
まあ、そんなことよりだ。
「もう少しで完成するね、吹雪くん」
「そうだな、頑張ったからな」
俺たちが作っていたのはマジックプラネタリウムだ。魔法を主な動力源として動かす星を見る装置だ。普通に作ったんじゃおもしろくないってことで、魔法を軸にして作っていたんだ。まずは動力となる魔法ブースターを中に仕込み、周りをピンホールの形に模っていく。外側が出来たら、今度は内側に仕込みを入れていく。ここがかなりの難問だ。投影フィルムを貼り付け星の構造を作っていくわけなんだが、何か一工夫あるものにしたいという意見が満場一致で決まっているんだ。で、決まったはいいのだが、その先はノープランだったというわけだ。
「でも、ここからどうするよ?」
「うーん、そうだね。このままじゃあ、在り来たりだもんね」
「シンプル・イズ・ベスト! じゃダメなの?」
「悪くはないがな……ってか、最初に一工夫入れようって言ったのは日野だったじゃねぇかよ」
「あり? そうだったかしら?」
「言ってたよな?」
「うん、私たち魔法研究部の実力を学園に知らしめてやりましょーって確かに言ってた」
「……そう言われると、そうだったかしら?」
「忘れんなよ、言い出しっぺだろ? 何か案はないのか?」
「そうねー……誘惑系の魔法を練り込んでみる?」
「却下だ。学園の生徒をおかしくするつもりか?」
「私の得意分野なのに~」
「だから困るんだよ、そんなもんを使われると」
日野の誘惑系魔法はかなりの威力を誇ってるんだ。この前噂で聞いたんだが、男子学生が陶酔して腰砕けになっていたらしい。何を見せられたのかは知らんが、とりあえず、気持ち良さそうな顔をしていたらしい。
「使わない方向で何かないのか?」
「そうねー……うーん……」
腕組をして悩むこと数分。
「……ぐう」
「寝んなよ、おい!」
何て古典的なギャグを使うんだこいつは。
「はっ!? 何? どうしたの?」
「……愛海、わざとやってるんじゃない?」
「そんなことないわよ、私はいつだって真面目よ」
「じゃあ、何かいい案は出たのか?」
「……何にもー」
「だと思ったよ」
「あ、アテにしてなかったようなものいいね? 大久保くん」
「ストレートに言ってもいいか?」
「バッチこい」
「現時点で、日野はただの頭打ちだ」
「ホントにストレートー!?」
「真面目にはどう頑張っても見えないし、途中で寝てみるし、考えてるようには俺たちの目には見えないんだ」
「そんなことないわよ、ちゃんと考えてるってばー」
「じゃあ、もう少し俺たちの目にも分かるように真剣に悩んでくれ。アンダースタン?」
「オー、イエー」
「はい、じゃあもう一回。熟考開始」
俺たちはもう一度考えてみる。
…………………。
「なかなか、出てこないね」
「だなー」
普通とは違うものを作るというのは、やはり骨がいるな。それが研究のおもしろいところでもあるんだが。
「ここはやっぱり、先輩に頼るしかないかな?」
「確かに、先輩の案は聞いてみたいよな」
「愛海、今日先輩は?」
「来るって言ってたわよ? 多分もうそろそろじゃないかしら?」
「なら、考えながら待つとしよう」
……………………。
そして待つことしばし――。
「私だ、入るわよ」
「はい、どうぞ」
――いつものように威風堂々とした様子で、先輩は部室へと来てくれた。
「こんにちは、みんな」
「こんにちは、カホラ先輩」
「こんにちは」
「うん。今日も頑張ってるみたいね」
「せ、先輩、私は?」
「愛海もいたのね、二人の邪魔はしてなかった?」
「い、いきなり疑いから入るなんて、そりゃないですよ~」
「いつも邪魔をしてる印象があるからついね」
「も、ものいいがストレートだわ……」
「ごめんごめん、で? 本当はどうなの?」
「そりゃもちろん――全力で尽力してましたよ」
嘘つけ、と言ってやりたかったが、途中からは少し大人しくなったからよしとしておこう。
「ならよろしい」
「今日は、授業が長引いたんですか?」
「そうね、もう少しでシーズンだし、今が書き入れ時だからね」
「そんな時にすいません、何度も来てもらっちゃって」
「気にすることはないわ、私も来たくて来てるんだし、それに、そこまで勉強に力を入れることはないから」
「カホラ先輩、さすがです」
「まあね、うふふ」
くすくすと笑っている様子は、親しみやすいことを象徴するようだった。
沢渡・E・カホラ(さわたり・エレディ・カホラ)、俺たちの一つ上の先輩で魔法研究部の前部長だ。性格と人柄の良さを併せ持ち、さらには頭も良い、部が誇る素晴らしい逸材だ。多くの人から尊敬されるのもうなずける。今はもう部活を引退しているんだが、時折こんな風にチョクチョクと部に顔を出しに来てくれる。何故なら、もう次の就職先が決まっているから。
「私もカホラ先輩のような人になりたいです」
「あら、そう?」
「それはもう、カホラ先輩は女子の鏡みたいなものですから」
「それは言い過ぎじゃない? 愛海」
「いえいえ、全然全く。学園のみんなもそう思ってるはずです。ね? 吹雪くん」
「何故男の俺に聞く!?」
女子の鏡だと言ってたじゃないか。普通そこは舞羽だろう。
「吹雪、いいツッコミね」
今日は随分とツッコミを褒められるな。
「で、話を戻すと――私は、カホラ先輩になりたいです」
「あら? 随分話が曲解してない?」
「私も思いました」
「言ったの愛海じゃない」
「んー、まあいいや。とにかく、近いうち手解きをお願いします」
「今度ね、別にいいと思うんだけどね、私を真似なくても」
「カホラ先輩だから真似たいんですよ」
「ありがとね」
さすがだ、笑顔を絶やすことがないから、見ていてすごく穏やかになる。
――と、そうだ。
「あの、先輩、ちょっと相談いいですか?」
「うん? どうしたの?」
「ひょっとして、恋のなや――ぶにゃっ!?」
余計なことを言われる前に、俺は手刀を振り下ろした。
「実は――これなんですけど」
「あ、すごいじゃない。ここまで出来たのね」
「ありがとうございます、でも、ここからが進まなくて」
「ふーん、ちょっと見せてもらってもいいかしら?」
「はい、どうぞ」
俺は先輩に機械を手渡した。
「ふんふん、なかなかしっかりしてていいんじゃない? 魔法ブースターも問題なく完成してるようだし」
「ありがとうございます」
「このフィルムは、舞羽が作ったの?」
「はい、あまり上手くはできなかったんですけど」
「全然問題ないわよ、じゃあ、魔法ブースターは吹雪が作ったのね」
「はい、一度作ったことはあったんで」
「上手ね、売り出すことも可能かもしれないわよ?」
「いや、それはないですよ」
先輩に褒めてもらえるのは、やはり嬉しいな。
「なるほど、それで、何に悩んでるのかしら?」
「えっと、もう一工夫を加えたいって思ってるんですよ。で、さっきから考えてるんですけど、何処に工夫を加えたらいいかが分からなくて」
「つまり、もっと完成度の高いものにしたいってことね?」
「そうですね」
「これでも十分高い気もするけど、二人はまだ物足りないって思ってるのよね」
「カホラ先輩、私はー?」
「愛海は口出ししかしてないんでしょー?」
「え、そ、そんなことはありませんよ?」
「じゃあ、何処を作ったの? 愛海の製作した部分が、私には見えなかったんだけど」
「えっと、私は……応援をしてました」
「翔と一緒に、でしょ?」
「う、はい……」
何でもお見通しなんだな、先輩は。
「でも、一生懸命頑張りましたよ、応援を」
「そうなの? 二人とも」
「…………」
「…………」
「……はい」
「今の間がちょっと気になるけど、そういうことにしておこっか」
俺たちは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。
「あれ? そういえば翔は?」
「ああ、今日は来ないって言ってました」
「あ、そうなの」
「はい、野暮用があるとかないとか」
どうせどうでもいいことなんだと思うが。アイツの野暮用なんて、俺たちにとっての下らないものに違いないからな。
「明日聞いてみます」
「多分、いつものだよね」
「多分な」
「そっか、分かったわ。――さて、話を戻しましょう」
「はい」
「うーん、そうね。完成度の高いものにするってなると、もっと大きいものにするのが手っ取り早いんだけど、ここまで来てそれはちょっとあんまりよね?」
「そうですね、ちょっと捻った感じが理想的かもしれないです。な?」
「そうだね」
「なるほど……ちょっと時間もらってもいいかしら?」
「はい、もちろんです」
先輩はしばらく機械を見つめながら、腕を組んで考え始める。
「俺たちももう一度考えよう」
「そうだね」
……………………。
…………。
……。
空の色が変わり始めた頃、先輩はうなずいた。
「よし、これかな」
何やら思いついてくれたようだ。
「舞羽、このプラネタリウムってもう動かすことはできるの?」
「あ、はい。型にはめ込めば、多分動かすことができると思います」
「よし、じゃあはめ込んでみよう。実際に動かしてみましょう」
「あ、はい。分かりました」
俺たちは言われるままにプラネタリウムを組み立てていく。
「魔法ブースターに魔法を送らないとな」
精神を集中させ、詠唱を始める。
「――エル、エルフィアス、……雷よ、我に力を与えたまえ、――ライトニング!」
動力口に向けて魔法を送り込む。それに合わせて、ブースターは少しずつ光始め、エネルギーを蓄えていることを教える。
「……そろそろいいよ、吹雪くん」
「おう」
ふー、詠唱にはやっぱり体力を要すな。これくらいでへばってはいられないんだが。さて、次は部屋をカーテンで閉めなければ。
「投影フィルムを貼って……できました。カホラ先輩」
「うん、愛海、電気オフにして」
「了解でーす」
入り口のスイッチに走っていく。
「いいですか? 先輩」
「ええ、いいわよ」
「じゃあ、行きまーす」
カチッ。部屋の電気が止まると同時に――部屋中が一杯の星空に包まれた。
「うわー、綺麗」
「確かにすごいな。なかなか上出来だったんだな」
「そうだね、頑張った甲斐があったね」
暗くてよく見えないが、舞羽の口調からして、嬉しがっているようだ。
「すごいじゃない二人とも、これでも十分ステキよ」
「本当ですか?」
「ええ、とっても見応えがあるもの」
「ありがとうございます」
「でも、ここから一工夫を入れたいのよね」
「はい、そうですね」
「ちょっと上を見ててね」
言われるままに、俺たちは上に目を戻す。
「――エル、エルス、ファルディアード……星の瞬きを我らに示したまえ……はっ!」
先輩の詠唱と同時に、上では素晴らしいことが起きていた。それは――、
「うわー、すごーい」
「すっげー」
思わず感嘆の声が漏れてしまった。先輩の詠唱と同時に、それはもうすごい数の流れ星が天井を覆い尽くしていたんだ。キラキラ光りながら空を流れる様子はとても煌びやかで心を奪われるものだった。
「ステキ」
「これ、先輩が?」
「そうね、どうかしら?」
「どうも何も、感動です。すっごく綺麗で何ていうか……すいません、言葉がでないです」
「私も……」
「気に入ってもらえたならよかったわ」
「…………」
あまりの美しさに、俺たちは時間を忘れて見入っていた。
……………………。
「すっごい感動しちゃったよ」
「俺もだ」
「私もー」
俺たちは口を揃えてそう言った。
「あれって、魔法で出したんですか?」
「うん、そうよ。吹雪たちが作った投影の内側に、透明の膜を貼って、そこに頭の映像を映し出したのよ。機械に仕掛けをしたわけではないわ」
「そうなんですか」
「すっごい良いもの見せてもらって、感激です」
「何を言ってるの、あなたたちが頑張ったからでしょ? 私は大したことはしてないわ」
「ありがとうございます。これが、先輩の案ですか?」
「そうね、じっくり見させてもらったけど、この機械にはもう治すようなところは見当たらなかったからね。だったら、機械じゃないところにこういった仕掛けを施したほうが効果的かなって思ったのよ。それが今の流れ星の映像。どうかしら?」
言われなくても、もうこれは――、
「はい、使わせてもらいます」
「気に入ってもらえた?」
「そりゃもう、脱帽です。帽子は持ってないですけど」
「脱毛なら、いずれなるんじゃない? 大久保くん」
「やかましい、まだ髪はたくさんあるわ!」
「うふふ、ならよかったわ」
先輩のおかげで、政策方針が固まったな。
――その後は、4人で楽しくお茶を飲んでこの日の部活動は終わった。先輩は頼れる人だと改めて実感した俺たちだった。